2019年3月12日火曜日

絵と詩 水に濡れない帆船




 空き瓶に入ったその帆船は海の上を漂っています。
 キャップがしっかり絞めてあるので海水も入りません。
 波に揺られ、残ったお酒の匂いを嗅ぎながら
 いまもどこかの海の上を漂っています。

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)




2019年2月28日木曜日

氷の国のレストラン

 友だちと山へスキーに行ったとき、夢中になり過ぎてひとりで林の中へ入り込んでしまった。斜面が急だったのでスキーはなかなか止まらなかった。一本の太い木にぶつかってようやく止まった。頭を打ったせいかしばらく気絶していた。
 ぼんやりしながら立ち上がって、みんながいる場所まで戻ろうと山道を登って行く途中、林の中に洞窟があるのに気づいた。
 穴の高さは2メートルくらいで、中を覗いてみると奥が明るいのだ。
「ちょっと入ってみるか」
 好奇心もあってスキーを履いたまま入って行った。
 洞窟は奥へ行くほどだんだん広くなっていった。それにどこまで行っても氷の壁だった。
「ずいぶん長い洞窟だ」
 そのまま進んでいくと、甘い匂いが漂って来た。
「果物の匂いだ」
 匂いに誘われてもっと奥へ進んで行った。洞窟の中はシャンデリアを灯したようにずいぶん明るい。奥で何か光っていた。氷で出来たグラスだった。
だれが作ったものだろう。グラスには巨大な果物が入れてある。それは喫茶店だった。そばに「レストラン」と書かれた看板が見えた。
「店に入ってみよう」
 店内には、オレンジジュース、メロンジュース、コーラなど入れた巨大な氷のグラスが並んでいた。氷のお皿にはショートケーキが載せてある。いろんな果物のパフェもある。お腹がすいていたのですぐ近くのイチゴパフェを食べてみた。
「おいしい」
 次はメロンパフェを食べてみた。その次はチョコパフェ、どれも甘くておいしかった。
 洞窟はまだまだどこまでも続いていた。先へ行ってみた。
 道が二つに分かれている場所までやってきた。右側の道からは肉料理の匂いがした。左の道からは魚料理の匂いがした。
 パフェを食べ過ぎて、料理はとても食べられそうになかったが、右側の肉料理の方へ進んで行った。
 しばらくいくと湯気と一緒に肉料理の匂いが漂って来た。ステーキを焼いてる匂いだった。ジューッとソースをかける音がした。奥で足音が聞える。ドシン、ドシンすごく大きな音だ。
「もしかして大男?」
 心配になってきた。引き返した方がよさそうだ。足音はこちらへ近づいて来た。地響きをたてて何人かがやってくるのだ。洞窟の氷の岩がぐらぐら動いた。
「逃げよう」
 引き返そうと思っていると、来た道の方からも足音が聞こえる。やっぱりドシン、ドシンと大きな音だ。仕方がないので、魚料理と書いてある道へ滑って行った。ところが道はしだいに下へ傾斜して、猛スピードで滑り降りて行った。氷の壁に何度も身体をぶつけてようやく平らな道になった。まわりを見て驚いた。
 五人くらいの大男が、巨大なテーブルの上で魚をおろしているのだ。みんな白い帽子をかぶり白い服を着てまるで板前だ。まな板に載ってる魚はクジラほどもあり、包丁なんか長さが10メートルくらいもある。ここは厨房だった。
 テーブルの下に隠れて出口を探した。厨房の奥にゴミ捨て場へ行くドアがあった。半開きになっていたので、あそこから外へ出られる。大男たちは仕事に集中していたので、見つからないようにドアの方へ滑って行った。
 テーブルの上から魚をおろしている包丁の音がシャーッ、シャーッと響いてくる。プーンと刺身のいい匂いもする。
 ようやくドアまでやってくると、大急ぎで外へ出た。そばにドラム缶の化け物のような巨大なゴミ箱がたくさん並んでいた。雪の向こうに林が見えた。
「あの林へ逃げ込もう」
 急いで滑って行った。そのときドアが開いて、大男がゴミ袋を持って出て来た。雪の上を滑って行く小人を見つけて近づいてきた。大股で歩くので、すぐそばまでやってきた。
「助けてくれ」
 大男は小人の背中をつまんで持ち上げた。匂いを嗅いでいる。もしかして食材に使うつもりではないだろうか。大男に食べられては大変だ。ピックの先で思い切り突いてやると、大男は痛くて手を離した。
 ドスーンと雪の上に落ちたけど痛くなかったので、大急ぎで林の中へ逃げ込んだ。
大男は追いかけてきたが、とうとう見失ってしまった。
 命拾いした。さあ、みんなのいるところへ帰ろう。林の中をあちこち回って、ようやくスキー場が見えて来た。
「おおい、どこまで行ってたんだ」
 友だちが向こうの方で呼んでいる。
 帰ってから大男のいる洞窟のことをみんなに話したが誰も信じてくれなかった。 
「きっと気絶したとき変な夢を見たんだ」
 みんなそういって笑っていた。



(オリジナルイラスト)




 (未発表童話)





2019年2月17日日曜日

眠りの島

 その島は遠い南の海にあった。小さな島で林は深かった。いろんな花が咲き、珍しい鳥が美しい声で鳴いていた。
 島の真ん中に沼があった。ふしぎな沼で、その水を飲むと誰でもすぐに眠気をもようして気持ちよく眠ることができた。
 世の中で慌ただしく暮らしていた人がよくこの島を訪れた。みんな不眠症で悩んでいたが、その水を飲んでぐっすりと眠った。
「ああ、この島はユートピアだ」
 誰もがそういって帰って行った。
 その島の噂を聞いたある学者がその謎が知りたくてひとりこの島へやってきた。木の上に小さな小屋を作って草で覆い、その中からこっそり島へやってくる人たちを観察した。
 ある日、丸一年眠れないで悩んでいた人がこの島へやってきた。 沼へ来ると、水を飲み草の上に寝ころんだ。すぐに眠気をもようして眠ってしまった。しばらくは何事も起こらなかった。でもすぐに異変が起きた。
 その人の身体が次第にちじんで小人くらいの大きさになり、魚の姿に変わった。魚は勢いをつけて沼の中へ飛び込んだ。しばらく水面を泳いでいたが、やがて水底へ沈んで行った。その人は数日間魚になって沼の中にいたが、ある日、人間の姿に戻り、幸せそうな様子で島から出て行った。
 またある日も、やつれた顔をした若い女性がこの島へやってきた。
 その女性も沼の水を飲み草の上で眠った。しばらくして女性の身体が次第に小さくなり、小さな花の種になった。種は地中深く潜り、何日かして芽が出た。やがて花が咲いた。成長が早いので学者は驚いた。その人は美しい花になるとまた人間の姿に戻り、笑顔でこの島から出て行った。
 学者はノートにそれらの不思議な出来事を記録した。
 それからもいろんな人たちがやってきた。ある人は小鳥になり、ある人は昆虫になって草木の中で数日間元気に過ごしぐっすり眠った。そして生き返ったようにこの島から出て行った。
 学者は、こんな結論を出した。
 この沼の水は、人間を魚や花、小鳥、昆虫に変身させて悩みを解消させるのだ。自然の生物は人間のようにつまらないことで悩むことがなく、一度人間の身体を抜け出してしまえば、心に蓄積された悩みはすべてリセットされる。そしてもとの人間に戻ったときは悩みなどまったく残っていないのだ。こんなことがあるなんて信じられない」
 学者は、その不思議な沼の水を瓶に入れて持ち帰ることにした。水を分析すれば科学的にその謎が解明できると思ったからだ。
 ところが家に持ち帰ってみると、その水はただの水だった。いくら分析してもただの水だった。
「あの島でしか効果が現れない水なのだろうか」
 いまだにその島の謎は解明されていない。



(オリジナルイラスト)



(未発表童話)





2019年2月11日月曜日

絵と詩 氷にとじこめられた魚




 その魚はきっと居眠りをしていたのです。
 冬になって水面が凍ったのも知らずに。
 なかまの魚たちはあちこちさがしましたがどこにもいません。
 やがてみんなその魚のことは忘れてしまったのです。
 春になって氷が解けると、魚は目をさましました。
 ああ、よく眠った、たくさん夢も見た、お腹も減った。
 久しぶりになかまに会いに行きました。

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)





2019年1月30日水曜日

(短篇小説)病室のアトリエ

 売れない画家がいた。いつも街角に立って水彩画を描いていた。画家の絵はずいぶん絵具が薄く塗られていた。理由は簡単だった。貧乏で絵具が買えないからだった。通行人にその絵を売ってわずかなお金を稼いでいた。
 ある日、道路脇でレストランの絵を描いていたとき、走って来た自動車にはねられそうになった。空腹でふらふらしていたからだ。倒れたとき頭を打ってそのままま意識を失ってしまった。
 画家が意識を取り戻したのは、どこか知らない田舎の病院のベッドの中だった。
「しばらくここで静養することだ。絵を描くことは自由だ」
 医者からそういわれて、理由がわからないまま数日間過ごした。
 理由が分かったのはすぐあとだった。深夜、眠っていたとき、となりの病室から悲鳴が聞えてきたからだ。
 看護師が走って来る音がして、病室の扉が開き物音はしなくなった。
 その数日後も別の病室から笑い声がしたり悲鳴が聞えたり、壁をドンドン叩く音で目が覚めた。看護師がそのたびに病室へ入って行った。
「ここは精神病院だ。でも、どうしてこんなところへ入れられたのだろう」
 翌日、医者の問診があった。問診を受けながらここへ連れてこられた理由を尋ねてみた。
 医者は話してくれた。
「ここへ来る前、意識を失って倒れていた君を通行人が見つけて、救急車で病院へ担ぎ込まれたのだ。そのときは軽い脳振とうだったが、ある夜から行動がおかしいので、ここへ連れてこられた」
 でも医者は何の病気なのかいくら尋ねても教えてくれなかった。しかたなく病気が治るまで、この病院で暮らすことになった。
 病院からは一歩も外へ出ることは許されなかったので、毎日絵を描いていた。食事が毎日3食出るのがありがたかった。入浴も週に2、3回あった。
 描くものはたくさんあった。日課で草むしりをしている患者を描いたり、中庭をただ行ったり来たりしている患者や、石のように草の上にじっと座り込んだまま一日中空想に耽っている患者も描いた。
 ある日、スケッチブックを開けたとき驚いた。知らない絵が描いてあるのだ。ずいぶん早描きの無機的な絵で、どこか田舎の田畑を描いた風景だった。
「こんな絵は描いた覚えはない。誰だろう」
 患者たちをいろいろ観察したが、絵を趣味にしているような患者は誰もいなかった。ひとりピアノを弾いていたという女性患者がいたが、絵を描く趣味は持っていなかった。
 それと気になったのはスリッパがひどく汚れていることだ。小さな木の葉が中に入っていた。奇妙なことなので一日中考え込んでいた。
 この病院に来てから2週間が経ってから、外の風景が無性に描きたくなったので医者に相談した。医者は自分の病気がまだ治っていないのでためらっていたが、看護師同伴ならいいことになった。看護師は40歳くらいの男性と30才くらいの女性だった。
 ある日、午後の2時間だけ外で写生することを許された。この病院の周囲は木立が多かった。木立の間に林道があり、歩いて行くと広い田畑に出た。すぐ近くに小川が流れていた。その景色を見て不思議に思った。
「どこかで見たことがある景色だ。そうだー」
 すぐにスケッチブックを開けてみた。誰かが描いた絵とそっくりだった。描かれた場所も同じだった。空に月が描かれてあるのでこのスケッチは夜に描かれたものだ。あのときも気になっていたが、筆使いがどこか似ているのだ。後ろにいた二人の看護師は画家の当惑した様子を見ながら何か考えているようだった。
 画家は不思議なことに驚いていたが、せっかく外で絵を描くことを許されたので、限られた時間の間にたくさんスケッチした。
 スケッチが終わって病院へ戻るとき、塀の内と外に大きな木が立っているのに気づいた。身軽な人間なら病院から逃げ出そうと思えば、あの木に登って枝伝いに塀を超えられるのだ。
 病室に戻ると、医者にすぐ呼ばれた。診察室へ行くと医者からこんな質問をされた。
「外の景色はどうだった。たくさん絵が描けただろう」
「ええ、病院の中と比べたら、描きたいものがいろいろありました」
「何か変わったことはなかったかね」
「変わったこと」
 変な質問をされたので、びっくりしたが、前から気になっていたことを話すことにした。
「実は、外へ出て驚いたんです」
 医者にスケッチを見せた。
「この絵とこの絵は構図が同じでしょう。夜と昼の違いだけです。それに筆使いもよく似ています」
 医者は絵を観ながら納得したようにいった。
「同じ人物が描いた絵だね」
「え、同じ人物ー」
「君が描いた絵なんだ」
 突然そんなことをいわれたので、しばらく言葉が出なかった。 
「じゃあ、教えてあげよう」
 医者は話した。
「君は夢遊病者なんだ」
「えっ、夢遊病者?」
 医者は全部話してくれた。
「脳振とうを起こして前の病院に担ぎ込まれた後、ある深夜から君が病院の廊下を歩き回っている姿を職員が何度も目撃した。問いただしても変な回答ばかりするのだ。でも翌日目を覚ますと何も覚えていない。おそらく頭を打ったとき昔の病気が再発したと思われる。この病院には精神科がないので、この病院に連れて来られらのだ」
 画家は突然、そんなことを言われたのでしばらく声も出なかった。
「その病気は治るんですか」
「治ります。この病院で心のケアと薬物投与を続けていれば」
 医者は、画家の病室だけドアに鍵がなく、窓には鉄格子もなく、鍵も掛けられていなかったことや、病院から木の枝伝いに塀を越えられることも知っていた。すべて自分の病気の症状を見るためだった。
 医者の話が終わって病室に戻ってからも、医者からいわれた病気のことでしばらくは落ち着かなかった。
 その夜いろいろ過去のことが浮かんできた。学生の頃のことだった。すっかり忘れていたが、いまの病気の症状と関係があったのだ。
「そういえば、部屋の中でこんなことがたびたびあった」
 夜眠ってから、朝起きると、冷蔵庫の中に入れておいた物がなくなっていたのだ。夕べのおかずの残り物や、コンビニで買って来たアイスクリームやジュースなどである。部屋にいるのは自分だけなので、誰も冷蔵庫を開けるわけがないのだ。
「やっぱり病気になる前から、そんな症状があったのだ」
 そんなことを思い出してからというもの、スケッチブックを毎日確かめるのが日課になった。
 病院での生活はあいかわらず退屈だったので、晴れの日は庭に出て患者たちをスケッチした。雨の日は中庭に咲いている花を取ってきてそれを見ながら静物画を描いた。白色と茶色、青色はよく使うのですぐに足りなくなって看護師に買ってきてもらったりした。
 それから2か月が経った。あれ以来、病院の外を描いた風景画はなくなったが、病室のベッド、机、椅子、廊下などを描いた絵はあった。眠っている間に勝手に歩き回って描いたものだ。でも全然記憶がないのだ。薬の効果だろう、日を追うごとにスケッチブックには、無機的な早描きの絵は無くなっていった。
 3ヶ月後、症状がぜんぜん出なくなったので、この病院を退院することになった。医者から退院してからも、しばらくは薬の服用は続けるようにといわれた。
 病院を出たのは数日後だった。町へ戻ってぼろアパートへ帰った。またいつものように絵描きの仕事がはじまった。絵を描きながら、もしあの病院で治療せずにいたら、きっと空腹のために、窃盗や万引きを無意識に繰り返していたかもしれないのだ。逮捕されても自分にはまったく身に覚えがないので、苦悩に満ちた人生を送ったかも知れない。今の生活はあいかわらず貧しいが、昔からの病気が治って本当によかったと思っている。


 
(オリジナルイラスト)



(未発表作)





2019年1月16日水曜日

虹の糸

 貧しい男がいた。山の原っぱでひとりで暮らしていた。
 ある日、雨が降ったあと外へ出てみると、虹のはしらが家の庭まで伸びていた。
「ふしぎなことだ。どうしてだろう」
 よく見ると虹のはしらの一か所から細い糸が伸びている。
「そうだ、あの糸でセーターを作ろう」
 裁縫などしたことがなかったが、なんとか自分なりに作ってみた。
 その服は水色で着心地が良くて美しくとても軽かった。
 ある日男は村へ買い物に出かけた。
 村の人々は、いつも薄汚いよれよれの服を着ていた男をみて驚いた。
「どこであんなおしゃれな服を手に入れたんだ」
「どこかで盗んできたのかな」
 村の人は口々に言いあった。
 ある日、男が赤色の服を着て村へ行くと、洋服屋のおかみさんがそれを見つけて、
「なんて鮮やかな赤色のセーターだ。あんな素敵な色をした糸を手に入れたい」
 おかみさんは男を呼び止めて尋ねた。男は、
「じゃあ、少し分けてあげよう。明日山へ来てくれ」
 翌日、おかみさんは山の家に行った。
 男は物置にしまってある糸をおかみさんに安く売ってやった。
でも、男はどこから仕入れたのかいわなかった。
 村へ帰って来たおかみさんはさっそくその糸で服を作りはじめた。
 出来上がると、店に並べて売ることにした。
 思った通り服はよく売れた。売り上げも伸びた。
 ある日、お客からこんなことを聞いた。
「あの服を着ると、身体が軽くなってふわふわ浮くのだ。ふしぎな服だ」
 その噂はあちこちに広まり、となり村からもつぎつぎにお客がくるようになった。
 とくに肥った人や病人にはよく売れた。普段、身体が重くて出不精だった人も出歩くようになった。山へハイキングに出かける人もいた。病人たちもその服を着てよく外出した。
 だからこの村ではだれでもその服を着ていた。だけど子供だけは着れなかった。
 身体が軽いものだから空へ浮かんでしまうからだ。
 でも、子供たちは考えた。ランドセルに石を詰め込んで学校へ行った。遊びに行くときもランドセルを背負って行った。だから村の子供たちもみんな着るようになった。



(オリジナルイラスト)



(未発表童話)





2019年1月10日木曜日

絵と詩 マフラーをした街灯



 
 いやあ、寒い
 今日も冷たい北風が吹いているのです。
 公園の街灯は身体をふるわせています。
 明かりを灯す夜までは
 暖かいマフラーをつけて寒さをしのぎます。

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)