ぼんやりしながら立ち上がって、みんながいる場所まで戻ろうと山道を登って行く途中、林の中に洞窟があるのに気づいた。
穴の高さは2メートルくらいで、中を覗いてみると奥が明るいのだ。
「ちょっと入ってみるか」
好奇心もあってスキーを履いたまま入って行った。
洞窟は奥へ行くほどだんだん広くなっていった。それにどこまで行っても氷の壁だった。
「ずいぶん長い洞窟だ」
そのまま進んでいくと、甘い匂いが漂って来た。
「果物の匂いだ」
匂いに誘われてもっと奥へ進んで行った。洞窟の中はシャンデリアを灯したようにずいぶん明るい。奥で何か光っていた。氷で出来たグラスだった。
だれが作ったものだろう。グラスには巨大な果物が入れてある。それは喫茶店だった。そばに「レストラン」と書かれた看板が見えた。
「店に入ってみよう」
店内には、オレンジジュース、メロンジュース、コーラなど入れた巨大な氷のグラスが並んでいた。氷のお皿にはショートケーキが載せてある。いろんな果物のパフェもある。お腹がすいていたのですぐ近くのイチゴパフェを食べてみた。
「おいしい」
次はメロンパフェを食べてみた。その次はチョコパフェ、どれも甘くておいしかった。
洞窟はまだまだどこまでも続いていた。先へ行ってみた。
道が二つに分かれている場所までやってきた。右側の道からは肉料理の匂いがした。左の道からは魚料理の匂いがした。
パフェを食べ過ぎて、料理はとても食べられそうになかったが、右側の肉料理の方へ進んで行った。
しばらくいくと湯気と一緒に肉料理の匂いが漂って来た。ステーキを焼いてる匂いだった。ジューッとソースをかける音がした。奥で足音が聞える。ドシン、ドシンすごく大きな音だ。
「もしかして大男?」
心配になってきた。引き返した方がよさそうだ。足音はこちらへ近づいて来た。地響きをたてて何人かがやってくるのだ。洞窟の氷の岩がぐらぐら動いた。
「逃げよう」
引き返そうと思っていると、来た道の方からも足音が聞こえる。やっぱりドシン、ドシンと大きな音だ。仕方がないので、魚料理と書いてある道へ滑って行った。ところが道はしだいに下へ傾斜して、猛スピードで滑り降りて行った。氷の壁に何度も身体をぶつけてようやく平らな道になった。まわりを見て驚いた。
五人くらいの大男が、巨大なテーブルの上で魚をおろしているのだ。みんな白い帽子をかぶり白い服を着てまるで板前だ。まな板に載ってる魚はクジラほどもあり、包丁なんか長さが10メートルくらいもある。ここは厨房だった。
テーブルの下に隠れて出口を探した。厨房の奥にゴミ捨て場へ行くドアがあった。半開きになっていたので、あそこから外へ出られる。大男たちは仕事に集中していたので、見つからないようにドアの方へ滑って行った。
テーブルの上から魚をおろしている包丁の音がシャーッ、シャーッと響いてくる。プーンと刺身のいい匂いもする。
ようやくドアまでやってくると、大急ぎで外へ出た。そばにドラム缶の化け物のような巨大なゴミ箱がたくさん並んでいた。雪の向こうに林が見えた。
「あの林へ逃げ込もう」
急いで滑って行った。そのときドアが開いて、大男がゴミ袋を持って出て来た。雪の上を滑って行く小人を見つけて近づいてきた。大股で歩くので、すぐそばまでやってきた。
「助けてくれ」
大男は小人の背中をつまんで持ち上げた。匂いを嗅いでいる。もしかして食材に使うつもりではないだろうか。大男に食べられては大変だ。ピックの先で思い切り突いてやると、大男は痛くて手を離した。
ドスーンと雪の上に落ちたけど痛くなかったので、大急ぎで林の中へ逃げ込んだ。
大男は追いかけてきたが、とうとう見失ってしまった。
命拾いした。さあ、みんなのいるところへ帰ろう。林の中をあちこち回って、ようやくスキー場が見えて来た。
「おおい、どこまで行ってたんだ」
友だちが向こうの方で呼んでいる。
帰ってから大男のいる洞窟のことをみんなに話したが誰も信じてくれなかった。
「きっと気絶したとき変な夢を見たんだ」
みんなそういって笑っていた。
(オリジナルイラスト)
(未発表童話)
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