2018年11月30日金曜日

危険な発明家

 町はずれに一軒の家があった。家には発明家がひとりで住んでいた。半年前まで服役していたが、出所してから引き続きロボットの制作をしていた。
 子供の頃からアイディアマンで、誰も思いつかないようなユニークなロボットを作っていた。
「今度は犬ロボットと猫ロボットだ。人口知能を取り入れたものだから、きっと役に立つ」
 毎日制作に励んで、ある日完成させた。
「このロボットを働かせて、のんびり楽して暮らそう」
 ある夕方、猫ロボットを呼んで指示を与えた。
「いいな、教えたとおり、夕飯のおかずをもってくるんだ」
 猫ロボットは家からすばやく出て行った。
 近所をまわりながら、夕飯の匂いを嗅いでいたが、一軒の家の塀を乗り越えると庭へ侵入した。
 開いた窓の中を覗くと、食卓に刺身のパックが置いてある。猫ロボットはすばやくパックをくわえるとその家から出て行った。
「いいこだ。よくやった」
 しばらくすると、犬ロボットが帰ってきた。
 犬ロボットに指示したのは、お米屋さんへ行って、主人がいないときを見計らって2キロのお米の袋をくわえてくることだった。 
 犬ロボットは指示どおりお米の袋をくわえてきた。
「よくやった。これで今夜の食事は整った」
 次の日も二匹のロボットをデパートへ行かせて、食料品を中心に持って来させた。
 ある日、ハトのロボットを数羽作った。空を飛ばせるので難しかったがやっと出来た。
 ハトたちを呼んで、
「いいな。デパートへ飛んで行って、石鹸とシャンプーとタオルを持ってくるんだ」 
 ハトロボットはいわれたとおり、デパートへ飛んで行くと、お客のあとからデパートの中へ入っていった。
 生活必需品のコーナーへ行き、商品棚から石鹸、シャンプー、タオルをくわえると、出口へ行き、お客のあとから出て行った。
「よくやった。これで風呂にも入れる」
 ロボットたちは、男の好みをすっかり学習していたので、食べ物なら肉よりも刺身や焼き魚、お米ならコシヒカリやヒノヒカリなどを持ってきた。
 ある日、犬ロボットがスーパーからお米の袋をくわえて、交番の前を歩いていたとき、中から警官がそれを見つけて、
「あの犬、どこへ行くんだ、あやしいな」
 最近、デパートやスーパーで万引きが相次いで起きていたので、同僚と一緒に犬のあとをつけて行くことにした。
 犬ロボットは、人間の職業について何も学習をしていなかったので、うしろから警官がついてきても知らん顔だった。
 犬ロボットは町はずれの一軒の家の中へ入って行った。
 警官は玄関のチャイムを鳴らした。
「どなたですか」
「交番の警官だが」
 男は驚いて玄関の戸を開けた。
「変な犬がここへ入るのを見た」
「変な犬って、どんなですか」
「お米の袋をくわえた犬だ」
 そのときさっきの犬が現れた。
「この犬だな」
 犬はしばらくおとなしく座っていたが、おもむろに立ち上がると、警官のピストルをくわえようとした。
「こいつ、やめんか」
そのとき猫ロボットとハトロボットが部屋から飛び出してきた。
 もうひとりの警官のピストルも奪おうとした。
 男は今度はピストルを奪って銀行強盗を企んでいたのだ。
 犬も猫もハトも指示に従ったのだ。
 男はすぐに逮捕されて、また服役することになった。



(オリジナルイラスト)



(未発表童話)





2018年11月16日金曜日

袋を背負った男

 町へサーカスがやってきて興行をやりました。町の人は珍しいので喜んで観に出かけました。でも最近は昔と比べるとどこの町でも客の入りが悪いのです。
 団長は困った様子で、
「いかんな。もっとお客が喜ぶような芸をやらないと採算が取れない」
 その日の夕方のこと、サーカスが終わったあと、見知らぬ男が団長の部屋の戸をノックしました。
「だれだい、お入り」
 部屋に入ってきたのは、背中に袋を背負った男でした。
「こちらでお売りしたいものがあるんですが」
「何を売りたいんだね、別に買う気はないが」
 男は続けた。
「このサーカスには芸人さんは何人いますか」
「13人だが」
「動物は何頭ですか」
「クマ3頭、ライオン2頭、ヒョウ1頭、馬4頭、象2頭だ」
「ありがとうございます」
「それがなんだね」
 団長はめんどくさそうにいった。
「じつは薬をお売りしたくてまいりました。この袋に入っている薬を飲めば、芸人なら体力が2倍以上、動物ならば3倍以上増強するのです」
「ははあーん、薬屋か。そんな薬など聞いたことがない」
「でもこの薬は本当によく効くのです。試しに飲んでみますか」
 団長はそんな薬があるわけがないとしばらく疑っていましたが、男がしつこく勧めるので飲んでみることにしたのです。
「じゃあ、試しに飲んでみよう」 
  男はポケットから粉薬と握力計を取り出しました。
「薬を飲む前に、これを握って下さい」
「どれ」
 団長は握力計を握ってみました。針が真ん中で止まりました。
「では、これを飲んでからもう一度握って下さい」
 団長はコップに水を入れると、薬と一緒に飲みました。そして握力計を握ってみました。
 すると、驚いたことに針が最大値を示して止まりました。
「いや、驚いた。信じられん」
「どうですか、申し上げたとおりでしょう。1袋で2倍、2袋で4倍に増強します。2週間は効果があります」
「わかった、使ってみよう。値段はいくらだ」
「はい、20袋で1万円」
「高いな、そんな高いものは買えん」
「ぜんぜん高くはありません。これからの稼ぎのことを考えたら、タダみたいなものですよ」
「でももう少し安くならないか」
「お売りする値段と数量は社の方で決まっておりますが、はじめてということなので、じゃ、初回分だけ9000円。これ以上はまけられません」
「そうかい、じゃあ。とりあえず前金半分だけを払うよ。残りは効果をみてからだ」
「承知しました。じゃあ前金を」
 話が決まると、団長は粉薬を25袋買いました。芸人と動物たちに飲ませる分でした。
「では2週間後に、またお邪魔させていただきます」
 男はそういって帰って行きました。
 翌日、団長はゆうべ男から買った薬をサーカスの芸人たちと動物たちに飲ませました。
 すると、その日からテントの中では、これまでにない大変な賑わいになりました。
 いままでひとりの男をぶら下げてブランコを漕いでいた芸人が、二人をぶらさげて曲芸をやりました。重量上げの芸人も、2頭のクマを軽々と持ち上げました。
 ライオンとヒョウの火の輪くぐりでは 3頭が2メートル以上の高さまでジャンプして見事にくぐり抜けました。曲馬芸では馬の走るスピードがものすごく速く、その上でピエロが縄跳びで三重飛びをして観客をびっくりさせました。
 ですからサーカスは毎日大盛況で、その噂を聞いてとなり町からもお客がたくさんやってくるようになり、売り上げも相当に伸びました。
 懐が温かくなった団長は、仕事が終わると、芸人を連れて町のあちこちへ飲みに出かけました。
「やっぱり、あの男の薬は効果があった。こんなことだったら、もっとたくさん買えばよかった。でもやっぱり1万円は高すぎる」
 2週間後のある夜、団長の部屋へ袋を担いだ男が入ってきました。
「どうでしたか、薬の効果は」
「いや、驚いた。あんなに効くとは思わなかった」
「では、残りのお金をいただきましょう」
 団長はお金を払ったあと、
「どうだね、もう少し安い値段で薬を売ってくれないか。そしたらもっとたくさん買うから」
「いえ、お売りする値段と数量は社の方で決まっておりますから」
「そんなこといわないで売ってくれ」
「いえ、駄目です」
「どうしても駄目かな」
「はい、いくらいわれてもです」
「そうかい、そんなら仕方がない」
 団長は誰かを呼ぶように手を叩きました。
 となりの部屋から筋肉隆々の大男の団員が出てきて、男を縛り上げました。
「何をするんですか」
「どうだい。売る気になったか」
 男は苦しそうに、
「やめてください。いくらいわれてもお売りすることはできません」
 団長は男の袋を取り上げました。
「この中にたくさん薬が入っているんだな。ケガをしたくなかったら、安い値段で全部売ってくれ」
「駄目です」
「そうかい、じゃあ、仕方がない。タダでいただくよ」 
 団長は袋の紐をほどこうとしました。
「待ってください。その袋を開けてはいけません」
「そういわれるとますます開けたくなるもんだ」
 団長は紐をほどいて、袋を開けました。
 すると、大変なことが起きたのです。それは一瞬の出来事でした。
 団長も大男も袋の中に吸い込まれたのです。いえ、それだけではありません。サーカスのテントも、芸人も、動物も檻もすべてです。
 気がつくと、その場所はなにもない空き地の中で、男がただひとり立っていました。
「ああ、あれほどいったのに」
 男は、残念そうな顔をしながら、袋の紐を結んでどこかへ立ち去って行きました。



(オリジナルイラスト)




(未発表童話)





2018年11月10日土曜日

絵と詩 読書




 誰が本を読んでいるのかなと思ったら
 それは木だった。
 何百年も生きるから
 たくさん読めるな。

(色鉛筆、パステル、水彩画 縦25㎝×横18㎝)