年とった海がめが、ある日じぶんが生まれた砂浜へ帰りたいと思いました。
「わしも、ずいぶん年とっていつお迎えがくるかわからないから、死ぬまえに生まれたところへ帰ってみよう」
だけど、ずいぶん長い年月がたっているので、じぶんの故郷がどこにあるのか見当がつきません。友達の魚たちにたずねたり、海鳥にきいたりしながら、海を泳いでいきました。
何日も何日も、砂浜をさがしながら泳いでいると、顔つきのよく似た、一匹の年とった海がめにであいました。
「しつれいですが、わたしのきょうだいじゃないですか」
「ああ、そうかもしれない。よく似てるからなあ」
はなしをしながら、いっしょに生まれた砂浜へいくことにしました。
何日も泳いでいくと、むこうに砂浜がみえてきました。
「この景色は、むかし見たことがある」
「そうだね、おぼえているよ」
いいながら、二匹の海がめは、砂浜にむかって泳いでいきました。
浜へつくと、むこうの丘のうえに、やどかりのじいさんがやっている浜茶屋がありました。
「あの店で、お茶でも飲んでいこうか」
「ああ、長旅でのどがかわいたところだよ」
二匹の海がめがお茶を飲んでいると、やどかりのじいさんがそばへきていいました。
「今日はどうしたわけか、よく似た海がめさんたちがたくさんやってくるな。さっきも、六匹の海がめさんがやってきたよ。けさは、四匹の海がめさんがやってきたというのに」
やどかりのじいさんのはなしによると、その海がめたちは、いずれもおじいさんとおばあさんばかりで、みんなじぶんたちとよく似た顔をしていたそうです。
「その方たちは、どこへいきました」
「ああ、なんでもお袋さんの墓参りに来たっていってたな。むこうの丘をふたつ超えたところだよ」
やどかりのじいさんに教えてもらって、さっそく、あるいていきました。
丘をふたつ超えたところに、たくさんの海がめたちがあつまって、お墓にお花をおそなえして、手をあわせていました。
「きっと、わたしたちの兄弟たちだ。いっしょに、なかまにはいることにしよう」
そのお墓には、『海がめのお母さんの墓』と刻まれていました。
みんな、お線香をすませると、カニのじいさんが営業している旅館で、宴会をすることにしました。
二匹の海がめたちも宴会にくわわりました。
みんなよく似たかめたちでしたので、すぐに打ちとけることができました。
兄弟の多くは、みんなまじめで陽気でしたが、中には甲羅に唐獅子牡丹の入れ墨を入れた目つきの悪い兄弟もいました。
でもみんな気にしないで、わいわいがやがやとお酒を飲んでいました。
「あんたはどこからやって来たんだ」
「おれは、10キロ先の小島の入り江からだ」
「あんたは」
「おれは20キロはなれた沖からだ。天気がいいので散歩がてらにやって来た」
そんなはなしをしながら、みんななつかしそうに思い出ばなしに花を咲かせていました。
しばらくすると、幹事のかめが、
「なあ、みんな。酒もまわってきたので、ここらで歌でもうたおうか」
といったので、なかにアコーディオンをもってきた海がめがいたので、みんなその伴奏にあわせて歌うことにしました。
歌のじょうずなかめも、ひどい音痴なかめもいましたが、みんなたのしそうに、その日いちにち、わいわいがやがやと宴会をたのしんでいました。
そして翌朝、また来年もここに集まろうとやくそくして、みんな別れていきました。
(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)
2015年12月8日火曜日
2015年11月30日月曜日
クマと名人
いままで一度も負けたことがない将棋の名人が、山の温泉へ静養に出かけました。
見晴らしの良い露天風呂に入って、これまでの対戦のことをいろいろと思い出していました。
「今日まで順調に勝ち進んできたが、秋にはとても強い相手と対戦せねばならん」
そんなことを考えているとなんだか心配になり、のんびりと温泉につかっていることが出来なくなりました。
温泉からあがり、庭でひとり将棋を指していると、突然林の中から大きなクマが出てきました。ところが、将棋のことで頭がいっぱいの名人は、まったく気にかけません。
驚かすつもりで出てきたクマだったので、すっかり気が抜けてしまいました。仕方なく林の中へ戻ろうとしたとき、
「おいっ、どこへ行く、ちよっとわしの相手をせんか」
突然そんなことをいわれたクマは、このまま引き返すのもなんだか馬鹿らしい気がしたので、名人のそばへやってくると、ひと勝負しようと思いました。
最初は、名人の手にまったくクマは負けてばかりいましたが、すこしづつ腕を上げていきました。ときどき名人をひやりとさせる手を打つこともありました。
「うむ。おまえはなかなか素質があるな。どうじゃ、五日ほどわしの相手をせんか」
クマは、食べ物をくれるんだったら、相手になってもいいと承知しました。
翌日から、クマと名人は一日中将棋を指していましたが、クマもだんだんと互角に戦えるようになってきました。しまいには6対4ぐらいで勝つこともありました。お礼のおむすびを食べながら、クマは長い時間将棋を指していました。
「相手も、なかなか手ごわくなってきたな。本腰を入れてかからないと負けてしまうかもしれない。でもいい練習になる。これで秋の対戦は勝てるかもしれない」
名人は、心の中で嬉しそうににこにこ笑いながら将棋を指していました。
五日が過ぎて、名人はこの温泉から出て行くことにしました。そして帰るときクマに、
「また、来年の夏にここへやってくるから、また相手になってくれんか」
クマはそれをきいて、
「おむすびくれるんだったら、いいよ」
といって、山の中へ帰っていきました。
秋の対戦では、思ったとおり名人はみごとに勝ったということです。
(文芸同人誌「青い花第23集」所収)
見晴らしの良い露天風呂に入って、これまでの対戦のことをいろいろと思い出していました。
「今日まで順調に勝ち進んできたが、秋にはとても強い相手と対戦せねばならん」
そんなことを考えているとなんだか心配になり、のんびりと温泉につかっていることが出来なくなりました。
温泉からあがり、庭でひとり将棋を指していると、突然林の中から大きなクマが出てきました。ところが、将棋のことで頭がいっぱいの名人は、まったく気にかけません。
驚かすつもりで出てきたクマだったので、すっかり気が抜けてしまいました。仕方なく林の中へ戻ろうとしたとき、
「おいっ、どこへ行く、ちよっとわしの相手をせんか」
突然そんなことをいわれたクマは、このまま引き返すのもなんだか馬鹿らしい気がしたので、名人のそばへやってくると、ひと勝負しようと思いました。
最初は、名人の手にまったくクマは負けてばかりいましたが、すこしづつ腕を上げていきました。ときどき名人をひやりとさせる手を打つこともありました。
「うむ。おまえはなかなか素質があるな。どうじゃ、五日ほどわしの相手をせんか」
クマは、食べ物をくれるんだったら、相手になってもいいと承知しました。
翌日から、クマと名人は一日中将棋を指していましたが、クマもだんだんと互角に戦えるようになってきました。しまいには6対4ぐらいで勝つこともありました。お礼のおむすびを食べながら、クマは長い時間将棋を指していました。
「相手も、なかなか手ごわくなってきたな。本腰を入れてかからないと負けてしまうかもしれない。でもいい練習になる。これで秋の対戦は勝てるかもしれない」
名人は、心の中で嬉しそうににこにこ笑いながら将棋を指していました。
五日が過ぎて、名人はこの温泉から出て行くことにしました。そして帰るときクマに、
「また、来年の夏にここへやってくるから、また相手になってくれんか」
クマはそれをきいて、
「おむすびくれるんだったら、いいよ」
といって、山の中へ帰っていきました。
秋の対戦では、思ったとおり名人はみごとに勝ったということです。
(文芸同人誌「青い花第23集」所収)
2015年11月22日日曜日
のんだくれの夢
ある家に毎日酒ばかり飲んでいる男がいました。奥さんもとうにあいそをつかして実家へ帰っていました。
「ああ、とうとうひとりになれた。ありがたい。これからはだれからももんくをいわれずに酒が飲めるぞ」
ある晩、酒がなくなったので、酒屋へ買いに行くとき、路地裏でひとりのアラビア人に呼びとめられました。
「どうですか。このランプ買いませんか。たったの千円です。三回こするとどんな夢でもかないますよ」
「ほんとうかい。じゃ、買うよ」
男は、家へもってかえると、さっそくランプを三回こすってみました。すると、ランプの中から白いけむりがでてくると、大男が現れました。どうじに、見たこともない景色が目の前に現れました。
「ご主人さま。ここはアラビアの国でございます」
「へえ、おどろいた。おまえさんは召し使いなのかい。じゃ、酒が飲めるところへ連れていってくれよ」
すると、白いけむりがでてくると、また景色が変わりました。そこはこの国一番の大きな宮殿の中でした。
男がおどろいていると、両側の部屋から、顔に白いベールをつけた三人のすごい美人の女たちが食事をもってきました。もちろん、お酒もついていました。
「いやあ、ありがたい。まるで王さまになった気分だ」
料理をたいらげながら、お酒もがぶがぶ飲みました。
「これがサフラン酒ってやつか。まえから飲んでみたかったんだ」
すっかり満足した男は、お風呂に入りたくなってきました。
すると、目の前に、ライオンの口からお湯が出ている大きなお風呂の中につかっていました。
「いやあ、気持ちいい。疲れがとれるよ」
そういって笑っていると、さっきの美人の女たちがパインジュースを持ってきてくれました。
「いやあ。気が利くな。家のかみさんとは大違いだ」
男は、ついでにヒゲも剃ってもらい、肩ももんでもらいました。
お風呂からあがると、夜空の星がキラキラと輝く大きな窓のある寝室で寝ることにしました。
しばらくしたとき、町のほうから、
ドーン、パチ、ドーン、パチと、花火が打ち上げられました。
「なんだ今日はお祭りか。寝ていたらもったいないな」
男はお祭りへでかけていきました。
ところが、町へ行ってみるとそれはお祭りではありませんでした。花火だと思っていたのは大砲の音だったのです。
なんでもこの国で革命が起きたというので、王さまや貴族やお金持ちはみんな捕らえられるというのです。
広場へ行くと、たくさんの市民たちが、こちらのほうへむかって走ってきました。王さまの服を着ていた男は、すぐに捕まってしまいました。
「やめろ、おれは王さまじゃないんだ。今日、日本からやってきた一般庶民だ。誤解しないでくれ」
けれども、男はすぐに牢屋に放り込まれてしまいました。
市民たちの話によると、この国の極刑は斬首の刑だということです。男は震え上がりました。
翌日、簡単な裁判が行われました。
裁判は最初から検察側の有利なほうへ進んでいきましたが、判決の決め手になったのは、検察側の三人の証人の供述でした。
その三人は、宮殿でご馳走をしてくれたあの美人の女たちでした。その証言によって、まぎれもなく男は王さまだと判定されてしまいました。
「被告人を死刑にします」
翌朝、男は処刑場に向かいました。まわりにはたくさんの市民たちが見物にきていました。
しばらくすると、とてつもなくでっかい男がサーベルを持って近づいてきました。
「たすけてくれ。おれは日本からやってきたただの庶民だ。殺される覚えなんかない」
しかし、男は布切れをかぶせられてひざまずかされました。
「きっとこれは夢だ。おれは悪い夢をみているんだ」
その瞬間、サーベルが高く持ち上げられました。そして振り下ろされる寸前、空から魔法のじゅうたんがいきおいよく飛んできました。
「ご主人さま、これにお乗りください」
じゅうたんには大男が乗っていました。
間一髪、男はじゅうたんに飛び移ると空のうえに舞い上がりました。
「遅かったじゃないか。もうすこしで首をはねられるとこだったよ」
「もうしわけありません。朝ごはん食べてたところでしたから」
「で、こんどはどこへ連れて行ってくれるんだ」
「へい、いいところがありますよ。ドイツのビアホールです。黒ビールをがぶがぶ飲みながら本場ドイツのおいしいソーセージを食べに行きましょう」
「ああ、それはありがたい。緊張の連続ですっかりのどが渇いてたところだよ。はやく行こう」
ご主人さまをつれて魔法のじゅうたんは、今度はドイツの国めざして飛んでいきました。
(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)
「ああ、とうとうひとりになれた。ありがたい。これからはだれからももんくをいわれずに酒が飲めるぞ」
ある晩、酒がなくなったので、酒屋へ買いに行くとき、路地裏でひとりのアラビア人に呼びとめられました。
「どうですか。このランプ買いませんか。たったの千円です。三回こするとどんな夢でもかないますよ」
「ほんとうかい。じゃ、買うよ」
男は、家へもってかえると、さっそくランプを三回こすってみました。すると、ランプの中から白いけむりがでてくると、大男が現れました。どうじに、見たこともない景色が目の前に現れました。
「ご主人さま。ここはアラビアの国でございます」
「へえ、おどろいた。おまえさんは召し使いなのかい。じゃ、酒が飲めるところへ連れていってくれよ」
すると、白いけむりがでてくると、また景色が変わりました。そこはこの国一番の大きな宮殿の中でした。
男がおどろいていると、両側の部屋から、顔に白いベールをつけた三人のすごい美人の女たちが食事をもってきました。もちろん、お酒もついていました。
「いやあ、ありがたい。まるで王さまになった気分だ」
料理をたいらげながら、お酒もがぶがぶ飲みました。
「これがサフラン酒ってやつか。まえから飲んでみたかったんだ」
すっかり満足した男は、お風呂に入りたくなってきました。
すると、目の前に、ライオンの口からお湯が出ている大きなお風呂の中につかっていました。
「いやあ、気持ちいい。疲れがとれるよ」
そういって笑っていると、さっきの美人の女たちがパインジュースを持ってきてくれました。
「いやあ。気が利くな。家のかみさんとは大違いだ」
男は、ついでにヒゲも剃ってもらい、肩ももんでもらいました。
お風呂からあがると、夜空の星がキラキラと輝く大きな窓のある寝室で寝ることにしました。
しばらくしたとき、町のほうから、
ドーン、パチ、ドーン、パチと、花火が打ち上げられました。
「なんだ今日はお祭りか。寝ていたらもったいないな」
男はお祭りへでかけていきました。
ところが、町へ行ってみるとそれはお祭りではありませんでした。花火だと思っていたのは大砲の音だったのです。
なんでもこの国で革命が起きたというので、王さまや貴族やお金持ちはみんな捕らえられるというのです。
広場へ行くと、たくさんの市民たちが、こちらのほうへむかって走ってきました。王さまの服を着ていた男は、すぐに捕まってしまいました。
「やめろ、おれは王さまじゃないんだ。今日、日本からやってきた一般庶民だ。誤解しないでくれ」
けれども、男はすぐに牢屋に放り込まれてしまいました。
市民たちの話によると、この国の極刑は斬首の刑だということです。男は震え上がりました。
翌日、簡単な裁判が行われました。
裁判は最初から検察側の有利なほうへ進んでいきましたが、判決の決め手になったのは、検察側の三人の証人の供述でした。
その三人は、宮殿でご馳走をしてくれたあの美人の女たちでした。その証言によって、まぎれもなく男は王さまだと判定されてしまいました。
「被告人を死刑にします」
翌朝、男は処刑場に向かいました。まわりにはたくさんの市民たちが見物にきていました。
しばらくすると、とてつもなくでっかい男がサーベルを持って近づいてきました。
「たすけてくれ。おれは日本からやってきたただの庶民だ。殺される覚えなんかない」
しかし、男は布切れをかぶせられてひざまずかされました。
「きっとこれは夢だ。おれは悪い夢をみているんだ」
その瞬間、サーベルが高く持ち上げられました。そして振り下ろされる寸前、空から魔法のじゅうたんがいきおいよく飛んできました。
「ご主人さま、これにお乗りください」
じゅうたんには大男が乗っていました。
間一髪、男はじゅうたんに飛び移ると空のうえに舞い上がりました。
「遅かったじゃないか。もうすこしで首をはねられるとこだったよ」
「もうしわけありません。朝ごはん食べてたところでしたから」
「で、こんどはどこへ連れて行ってくれるんだ」
「へい、いいところがありますよ。ドイツのビアホールです。黒ビールをがぶがぶ飲みながら本場ドイツのおいしいソーセージを食べに行きましょう」
「ああ、それはありがたい。緊張の連続ですっかりのどが渇いてたところだよ。はやく行こう」
ご主人さまをつれて魔法のじゅうたんは、今度はドイツの国めざして飛んでいきました。
(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)
2015年11月14日土曜日
ゆうれいパトカー
その田舎の国道を走るときは、道路交通法を十分に守って走らなければいけないのです。少しでも違反していると、すぐにゆうれいパトカーに追われるのでした。
ある夜、この国道を、長距離トラックが時速70キロのスピードで走っていると、後ろから一台のパトカーがサイレンを鳴らして追いかけてきました。パトカーは、すぐにトラックの前方に入り込むと、スピードをゆるめて止まりました。
「しまった。速度オーバーだ」
この国道の制限速度は50キロでしたから、20キロの速度違反でした。
トラックの運転手さんは、すっかりあきらめて、警官が出てくるのを待っていました。
ところがどうしたことでしょう。いくら待っても警官が出てこないのです。
運転手さんは、なんだか気味が悪くなってきました。
でも、こんな所でいつまでも停車しているわけには行きません。時間どおりに荷物を届けないと行けないのです。
仕方がないので、自分からパトカーのいる場所へ歩いて行きました。ところが、車の中を覗いて驚きました。運転席には誰も乗っていないのです。
「ひえー、ゆうれいパトカーだ」
運転手さんは、すっかり怖くなってその場所から走り去って行きました。
そんな出来事の後も、何台もの法定速度を超過して走っていた車が、同じような体験をしました。そんなことがたびたびだったので、それからはみんなこの国道を走る時は、スピードを落として走りました。法定速度で走ってさえいれば、ゆうれいパトカーに追われることはなかったからです。
また、この国道の一時停止の場所でも同じような体験をした車がありました。
ある夜、残業を終えた会社員が、この国道の一時停止の場所で、徐行だけで通り過ぎようとしたとき、そばの空き地から突然ライトが点燈して、一台のパトカーが姿を現しました。
会社員は、すぐに車を止めて、もとの停止位置まで戻り、やり直しをしていると、ライトは消滅して、さっきのパトカーの姿はどこにもありませんでした。
こんなふしぎな出来事も、すぐに人の耳にも伝わりました。
それは車ばかりではありません。
ある日、この国道の横断歩道を赤信号で渡ろうとしていたお爺さんのうしろから、
「赤信号ですよ。渡らないで下さい」
と拡声器で呼び止められました。
びっくりしたお爺さんは、すぐにうしろを振り返ってみましたが、そこには誰もいませんでした。
「おかしいなー」
と思っていると、一台のパトカーが国道のはるか向こうへ走り去って行きました。
そんな不思議な場所だったので、もう十年以上もこの国道では、無事故、無違反の記録が続きました。
この国道を走ってみると、ところどころに「ゆうれいパトカーに注意」の標識が立っています。
(未発表童話です)
ある夜、この国道を、長距離トラックが時速70キロのスピードで走っていると、後ろから一台のパトカーがサイレンを鳴らして追いかけてきました。パトカーは、すぐにトラックの前方に入り込むと、スピードをゆるめて止まりました。
「しまった。速度オーバーだ」
この国道の制限速度は50キロでしたから、20キロの速度違反でした。
トラックの運転手さんは、すっかりあきらめて、警官が出てくるのを待っていました。
ところがどうしたことでしょう。いくら待っても警官が出てこないのです。
運転手さんは、なんだか気味が悪くなってきました。
でも、こんな所でいつまでも停車しているわけには行きません。時間どおりに荷物を届けないと行けないのです。
仕方がないので、自分からパトカーのいる場所へ歩いて行きました。ところが、車の中を覗いて驚きました。運転席には誰も乗っていないのです。
「ひえー、ゆうれいパトカーだ」
運転手さんは、すっかり怖くなってその場所から走り去って行きました。
そんな出来事の後も、何台もの法定速度を超過して走っていた車が、同じような体験をしました。そんなことがたびたびだったので、それからはみんなこの国道を走る時は、スピードを落として走りました。法定速度で走ってさえいれば、ゆうれいパトカーに追われることはなかったからです。
また、この国道の一時停止の場所でも同じような体験をした車がありました。
ある夜、残業を終えた会社員が、この国道の一時停止の場所で、徐行だけで通り過ぎようとしたとき、そばの空き地から突然ライトが点燈して、一台のパトカーが姿を現しました。
会社員は、すぐに車を止めて、もとの停止位置まで戻り、やり直しをしていると、ライトは消滅して、さっきのパトカーの姿はどこにもありませんでした。
こんなふしぎな出来事も、すぐに人の耳にも伝わりました。
それは車ばかりではありません。
ある日、この国道の横断歩道を赤信号で渡ろうとしていたお爺さんのうしろから、
「赤信号ですよ。渡らないで下さい」
と拡声器で呼び止められました。
びっくりしたお爺さんは、すぐにうしろを振り返ってみましたが、そこには誰もいませんでした。
「おかしいなー」
と思っていると、一台のパトカーが国道のはるか向こうへ走り去って行きました。
そんな不思議な場所だったので、もう十年以上もこの国道では、無事故、無違反の記録が続きました。
この国道を走ってみると、ところどころに「ゆうれいパトカーに注意」の標識が立っています。
(未発表童話です)
2015年11月7日土曜日
伸びろ髪の毛
たけくんのお父さんは、最近抜け毛で悩んでいました。頭髪の真ん中あたりが薄くなってきたのです。
「こりゃいかん。早いうちに処置しなくちゃ」
翌日、お父さんは薬局へ行って育毛剤を買ってきました。
「よし、これで解決しよう」
洗面所へ行くと、箱を開けて薬をつけはじめました。
ひんやりと気持ちよく、ぽんぽん頭皮に塗りつけていきます。
見ているたけくんに、
「今日だけじゃ、だめなんだ。毎日続けることが大切なんだ」
といって、その日からはかかさずに薬をつけるようになりました。
三ヶ月もすると、お父さんの髪の毛は少しずつ黒くなってきました。
「どうだい。ほんとうにこの薬はよくきくだろ」
「うん、もう少しだね。まえのようにふさふさした髪になるといいね」
それからたけくんに弟ができました。なまえは、りょうくんといいます。とても元気な子でよく泣きます。
ある日、たけくんは、りょうくんの髪の毛が薄いのに気づきました。
「これじゃ、大きくなったとき、お父さんみたいに苦労してかわいそうだな」
たけくんは、お父さんの引き出しの中から育毛剤をもってきました。
「これをつけてあげたら、すぐ髪の毛が濃くなるぞ」
そういって眠っているりょうくんの頭に育毛剤をつけてあげました。つけながらお父さんがいったことを思い出しました。
「毎日続けることが大切なんだ」
そのことを思い出しながら、毎日りょうくんの頭に育毛剤をつけてあげました。
ある日、お母さんが心配そうにいいました。
「ねえ、あなた。りょうくんの髪の毛、最近やけに濃くなったみたいね」
「ああ、そうだな。でも、うらやましいな。おれとどっちが早く濃くなるか競争だな」
そばで聞いていたたけくんは、
「よおーし、りょうくん負けちゃいけないぞ」
といって、それからも毎日育毛剤をつけてあげました。
半年がたちました。お父さんの髪の毛は、前のようにすっかりもとどおりになりました。
ところが、赤ちゃんのりょうくんの頭は、アビーロードの横断歩道を歩いているビートルズのメンバーのようなぼさぼさの長髪になりました。もちろんりょうくんの勝ちでした。
しかし、その後も、りょうくんの髪の毛は伸び続け、月に一度はかならず散髪屋へ行かなくてはならなくなりました。
「こりゃ、たいへんだ。一度、医者へ連れていこうか」
「そうね。そうしましょう」
お父さんとお母さんの心配そうにしている様子を見ながら、たけくんは、
「これはちょっとやりすぎだったかな。でも、お父さん、お母さん心配しなくていいよ。もうりょうくんの頭に薬はつけないから」
そういって、育毛剤をつけるのをやめました。ひと月後には、りょうくんの髪の毛はそれ以上は伸びなくなったということです。
(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)
「こりゃいかん。早いうちに処置しなくちゃ」
翌日、お父さんは薬局へ行って育毛剤を買ってきました。
「よし、これで解決しよう」
洗面所へ行くと、箱を開けて薬をつけはじめました。
ひんやりと気持ちよく、ぽんぽん頭皮に塗りつけていきます。
見ているたけくんに、
「今日だけじゃ、だめなんだ。毎日続けることが大切なんだ」
といって、その日からはかかさずに薬をつけるようになりました。
三ヶ月もすると、お父さんの髪の毛は少しずつ黒くなってきました。
「どうだい。ほんとうにこの薬はよくきくだろ」
「うん、もう少しだね。まえのようにふさふさした髪になるといいね」
それからたけくんに弟ができました。なまえは、りょうくんといいます。とても元気な子でよく泣きます。
ある日、たけくんは、りょうくんの髪の毛が薄いのに気づきました。
「これじゃ、大きくなったとき、お父さんみたいに苦労してかわいそうだな」
たけくんは、お父さんの引き出しの中から育毛剤をもってきました。
「これをつけてあげたら、すぐ髪の毛が濃くなるぞ」
そういって眠っているりょうくんの頭に育毛剤をつけてあげました。つけながらお父さんがいったことを思い出しました。
「毎日続けることが大切なんだ」
そのことを思い出しながら、毎日りょうくんの頭に育毛剤をつけてあげました。
ある日、お母さんが心配そうにいいました。
「ねえ、あなた。りょうくんの髪の毛、最近やけに濃くなったみたいね」
「ああ、そうだな。でも、うらやましいな。おれとどっちが早く濃くなるか競争だな」
そばで聞いていたたけくんは、
「よおーし、りょうくん負けちゃいけないぞ」
といって、それからも毎日育毛剤をつけてあげました。
半年がたちました。お父さんの髪の毛は、前のようにすっかりもとどおりになりました。
ところが、赤ちゃんのりょうくんの頭は、アビーロードの横断歩道を歩いているビートルズのメンバーのようなぼさぼさの長髪になりました。もちろんりょうくんの勝ちでした。
しかし、その後も、りょうくんの髪の毛は伸び続け、月に一度はかならず散髪屋へ行かなくてはならなくなりました。
「こりゃ、たいへんだ。一度、医者へ連れていこうか」
「そうね。そうしましょう」
お父さんとお母さんの心配そうにしている様子を見ながら、たけくんは、
「これはちょっとやりすぎだったかな。でも、お父さん、お母さん心配しなくていいよ。もうりょうくんの頭に薬はつけないから」
そういって、育毛剤をつけるのをやめました。ひと月後には、りょうくんの髪の毛はそれ以上は伸びなくなったということです。
(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)
2015年10月30日金曜日
怪奇ミイラ男
ピラミッドの中で二千年間眠り続けていたミイラが発掘されて、エジプトの博物館に収蔵されました。
「王家の息子に違いない。貴重なミイラだ」
毎日のように、町の人たちが、ミイラを見学にやってきました。ある年、このミイラは、日本の博物館へ移されて展示されることになりました。
ある夜のこと、静まり返った館内の棺の中で、ミイラは長い眠りから目覚めました。そしてひとりごとをいいました。
「あ~あ、ずいぶん眠ったなあ。お腹がぺこぺこだ。何か食べたいなあ」
ミイラは、棺から抜け出すと、警備員に見つからないように、館内の窓のカギをはずして外へ出て行きました。
博物館の裏道を歩きながら、どこか食事ができるところはないか探してみました。しばらく行くと、交差点のそばに一軒のステーキ屋をみつけました。もう店じまいまじかだったので、お客さんはほとんどいませんでした。ミイラは、店に入ると、入口のそばの席に着きました。
ウエイターが注文を取りにやって来ました。ところが客の姿を見てびっくりしました。
「お客さん、どこで怪我されたんですか」
ミイラはその問いには答えずに、
「塩漬けステーキ2枚と、麦パン2枚それと白ワイン1本下さい」
とウエイターにいいました。
ウエーターは、困った様子で
「お客さん、そんなメニュウはうちにはありません。お店のメニュウ表の中から選んでください」
ミイラはメニュウを開きましたが、文字が読めません。仕方がないので適当に注文しました。
「かしこまりました。焼き具合はどういたしましょう」
「レアーでたのみます」
しばらくすると、料理が運ばれてきました。ステーキソースはいままで味わったことがない美味な味でした。ミイラはひさしぶりの食事に大喜び。むしゃむしゃとあっと言う間にたいらげました。
お腹一杯になったミイラは、店を出ることにしました。
現金がないので、エジプト金貨を一枚ウエイターにわたしました。
ウエーターは困った顔をしましたが、
「お客さん、今日はこのお金で結構ですが、次からは現金でお願いしますよ。うちは骨董屋じゃないもんで」
支払いを済ませたミイラは、お店から出て行きました。
それから4、5日たったある夜のことでした。ミイラはまたお腹がすいて目を覚ましました。
「あ~あ、お腹がすいたなあ。今夜は何を食べに行こう」
棺から出ると、博物館の外へ出て行きました。
歩道を歩いて行くと、国道沿いに「びっくりドンキー」の看板を見つけました。
「ハンバーグか?。どおれ、どんな食べ物か食べてみよう」
店に入ると、やっぱり閉店まじかで、数人しかお客さんはいませんでした。突然へんなお客が席についていたので、ウエイトレスはこわがって、店長にオーダーを取りにいってもらいました。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
ミイラはメニュウの写真を指差しながら、
「300グラムのハンバーグ2枚と、スープ、それに麦パン下さい」
とウエーターに注文しました。
しばらくして料理が運ばれてくると、ミイラはむしゃむしゃと食べはじめました。二千年前のエジプトには、こんな珍しい肉料理がなかったので、ミイラは大満足でした。食事が済むと、支払いはやっぱりエジプト金貨でしたから、お店の人を困らせましたが、なんとか支払いを済ませて店から出て行きました。
このようにミイラは、この町のレストランが気にいったとみえて、夜になると、たびたび博物館から抜け出して食事に出かけて行きました。
ある晩、いつもの時間より遅く目を覚ましたミイラが町を歩いていると、どこも店は閉まっていた。
ミイラががっかりしていると、公園の真向かいにコンビニが見えました。
「あそこで食べ物を買おう」
コンビニの中へ入ると、店員がびっくりしてミイラをじろりと見ました。ところが落ち着いていて、悪気もなさそうなので、しばらくじっと監視していました。
ミイラは、食べ物コーナーで、サンドイッチ3個と野菜ジュース2本を持ってレジへ行きました。
いつものようにエジプト金貨1枚を渡しましたが、店員が拒否したので困りました。
そのときミイラのお腹がぐーっとなりました。こんなことはしたくはなかったのですが、商品を掴むとコンビニから逃げたのです。
その出来事が起きて以来、ミイラは指名手配される身となってしまったのです。コンビニの店員が警察に知らせたからです。
ミイラの似顔絵が、どの店にも張られました。ミイラもこれには大変困りました。もうレストランにもコンビニにも行けなくなったからです。
がっかりしながらミイラが、ある晩近くの噴水のある公園のそばを歩いていたとき、いい匂いがしてきました。匂いのする方へ行ってみると、明かりの点った屋台のラーメンがありました。
「あそこで食べてみよう」
チャーシューを切っていた主人は、暗闇の中からミイラが当然現れたので、思わず包丁を落としそうになりましたが、お客さんだと分かって、にこにこ顔で、
「いらっしゃい、どんなラーメンにいたしましょう」
ミイラはしばらく考えてから、「この店で一番おいしいのを下さい」
と注文しました。
そしてラーメンが出来上がると、ミイラはさっそく食べてみました。スープが暑くて、おもわず舌を火傷しそうになりましたが、これまで食したことのない珍しい食べ物だったので、ミイラはそれからもたびたびこの屋台のラーメンに立ち寄りました。屋台の主人も、ラーメン一杯で、いつも金貨を一枚くれるので、いつも喜んでいました。
ある晩、ミイラはこの町の飲み屋街の方へ出かけて行きました。そして道路脇で営業している、屋台のおでん屋を見つけました。
ミイラは、おでん屋がとても気にいったとみえて、よくここへもやってくるようになりました。珍しい熱燗とおでんを食べながら、いつもご機嫌でした。ミイラの好物は、卵とだいこんとちくわでした。日本酒もエジプトのワインとは違う奇妙な味で満足していました。
ときどき酔っ払いがとなりに座って、ミイラの変な格好を見ながら、「あんた、怪奇映画の俳優かい、そんならサインしてくれ」と冗談交じりにからんでくる客もいました。
ある晩、いつものようにミイラがこの屋台で、おでんを食べていると、二人の背広姿の男がとなりに座りました。にこにこしながら親しげに話しかけてきました。相手をしていると、突然、ミイラの両手をぐいっと掴んで、手首に手錠をかけました。二人は張り込みをしていた刑事でした。
ミイラは逮捕されて、すぐに町の警察署へ連行されて行きました。
蛍光灯の明かりが眩し過ぎる取り調べ室で、名前、住所、職業、年齢などを尋ねられましたが、訳のわからない返答ばかりするので取り調べの刑事さんも困りました。
取り調べの結果、博物館から抜け出したミイラということが判明して博物館に移されることになりました。一晩だけ、留置場に入れられましたが、夜食に、たくわん付きのカツ丼がでました。それを食べたのが最後になりました。
博物館に移されたミイラは、棺の中へいれられて、しっかりと鍵をかけられました。ミイラはこれにはどうすることも出来ずに、仕方なくまた長い眠りにつきました。
(文芸同人誌「青い花第24集」所収)
「王家の息子に違いない。貴重なミイラだ」
毎日のように、町の人たちが、ミイラを見学にやってきました。ある年、このミイラは、日本の博物館へ移されて展示されることになりました。
ある夜のこと、静まり返った館内の棺の中で、ミイラは長い眠りから目覚めました。そしてひとりごとをいいました。
「あ~あ、ずいぶん眠ったなあ。お腹がぺこぺこだ。何か食べたいなあ」
ミイラは、棺から抜け出すと、警備員に見つからないように、館内の窓のカギをはずして外へ出て行きました。
博物館の裏道を歩きながら、どこか食事ができるところはないか探してみました。しばらく行くと、交差点のそばに一軒のステーキ屋をみつけました。もう店じまいまじかだったので、お客さんはほとんどいませんでした。ミイラは、店に入ると、入口のそばの席に着きました。
ウエイターが注文を取りにやって来ました。ところが客の姿を見てびっくりしました。
「お客さん、どこで怪我されたんですか」
ミイラはその問いには答えずに、
「塩漬けステーキ2枚と、麦パン2枚それと白ワイン1本下さい」
とウエイターにいいました。
ウエーターは、困った様子で
「お客さん、そんなメニュウはうちにはありません。お店のメニュウ表の中から選んでください」
ミイラはメニュウを開きましたが、文字が読めません。仕方がないので適当に注文しました。
「かしこまりました。焼き具合はどういたしましょう」
「レアーでたのみます」
しばらくすると、料理が運ばれてきました。ステーキソースはいままで味わったことがない美味な味でした。ミイラはひさしぶりの食事に大喜び。むしゃむしゃとあっと言う間にたいらげました。
お腹一杯になったミイラは、店を出ることにしました。
現金がないので、エジプト金貨を一枚ウエイターにわたしました。
ウエーターは困った顔をしましたが、
「お客さん、今日はこのお金で結構ですが、次からは現金でお願いしますよ。うちは骨董屋じゃないもんで」
支払いを済ませたミイラは、お店から出て行きました。
それから4、5日たったある夜のことでした。ミイラはまたお腹がすいて目を覚ましました。
「あ~あ、お腹がすいたなあ。今夜は何を食べに行こう」
棺から出ると、博物館の外へ出て行きました。
歩道を歩いて行くと、国道沿いに「びっくりドンキー」の看板を見つけました。
「ハンバーグか?。どおれ、どんな食べ物か食べてみよう」
店に入ると、やっぱり閉店まじかで、数人しかお客さんはいませんでした。突然へんなお客が席についていたので、ウエイトレスはこわがって、店長にオーダーを取りにいってもらいました。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
ミイラはメニュウの写真を指差しながら、
「300グラムのハンバーグ2枚と、スープ、それに麦パン下さい」
とウエーターに注文しました。
しばらくして料理が運ばれてくると、ミイラはむしゃむしゃと食べはじめました。二千年前のエジプトには、こんな珍しい肉料理がなかったので、ミイラは大満足でした。食事が済むと、支払いはやっぱりエジプト金貨でしたから、お店の人を困らせましたが、なんとか支払いを済ませて店から出て行きました。
このようにミイラは、この町のレストランが気にいったとみえて、夜になると、たびたび博物館から抜け出して食事に出かけて行きました。
ある晩、いつもの時間より遅く目を覚ましたミイラが町を歩いていると、どこも店は閉まっていた。
ミイラががっかりしていると、公園の真向かいにコンビニが見えました。
「あそこで食べ物を買おう」
コンビニの中へ入ると、店員がびっくりしてミイラをじろりと見ました。ところが落ち着いていて、悪気もなさそうなので、しばらくじっと監視していました。
ミイラは、食べ物コーナーで、サンドイッチ3個と野菜ジュース2本を持ってレジへ行きました。
いつものようにエジプト金貨1枚を渡しましたが、店員が拒否したので困りました。
そのときミイラのお腹がぐーっとなりました。こんなことはしたくはなかったのですが、商品を掴むとコンビニから逃げたのです。
その出来事が起きて以来、ミイラは指名手配される身となってしまったのです。コンビニの店員が警察に知らせたからです。
ミイラの似顔絵が、どの店にも張られました。ミイラもこれには大変困りました。もうレストランにもコンビニにも行けなくなったからです。
がっかりしながらミイラが、ある晩近くの噴水のある公園のそばを歩いていたとき、いい匂いがしてきました。匂いのする方へ行ってみると、明かりの点った屋台のラーメンがありました。
「あそこで食べてみよう」
チャーシューを切っていた主人は、暗闇の中からミイラが当然現れたので、思わず包丁を落としそうになりましたが、お客さんだと分かって、にこにこ顔で、
「いらっしゃい、どんなラーメンにいたしましょう」
ミイラはしばらく考えてから、「この店で一番おいしいのを下さい」
と注文しました。
そしてラーメンが出来上がると、ミイラはさっそく食べてみました。スープが暑くて、おもわず舌を火傷しそうになりましたが、これまで食したことのない珍しい食べ物だったので、ミイラはそれからもたびたびこの屋台のラーメンに立ち寄りました。屋台の主人も、ラーメン一杯で、いつも金貨を一枚くれるので、いつも喜んでいました。
ある晩、ミイラはこの町の飲み屋街の方へ出かけて行きました。そして道路脇で営業している、屋台のおでん屋を見つけました。
ミイラは、おでん屋がとても気にいったとみえて、よくここへもやってくるようになりました。珍しい熱燗とおでんを食べながら、いつもご機嫌でした。ミイラの好物は、卵とだいこんとちくわでした。日本酒もエジプトのワインとは違う奇妙な味で満足していました。
ときどき酔っ払いがとなりに座って、ミイラの変な格好を見ながら、「あんた、怪奇映画の俳優かい、そんならサインしてくれ」と冗談交じりにからんでくる客もいました。
ある晩、いつものようにミイラがこの屋台で、おでんを食べていると、二人の背広姿の男がとなりに座りました。にこにこしながら親しげに話しかけてきました。相手をしていると、突然、ミイラの両手をぐいっと掴んで、手首に手錠をかけました。二人は張り込みをしていた刑事でした。
ミイラは逮捕されて、すぐに町の警察署へ連行されて行きました。
蛍光灯の明かりが眩し過ぎる取り調べ室で、名前、住所、職業、年齢などを尋ねられましたが、訳のわからない返答ばかりするので取り調べの刑事さんも困りました。
取り調べの結果、博物館から抜け出したミイラということが判明して博物館に移されることになりました。一晩だけ、留置場に入れられましたが、夜食に、たくわん付きのカツ丼がでました。それを食べたのが最後になりました。
博物館に移されたミイラは、棺の中へいれられて、しっかりと鍵をかけられました。ミイラはこれにはどうすることも出来ずに、仕方なくまた長い眠りにつきました。
(文芸同人誌「青い花第24集」所収)
2015年10月25日日曜日
街灯とクモの業者さん
公園の桜の木のそばに街灯が立っていました。夜になると明るい灯を照らしていました。
ある夜のこと、この街灯のまわりに、たくさんの蚊がやってきました。
居眠りしていた街灯は、あまりやかましいので目をさましました。
「ああ、うるさいな、またやってきた」
蚊たちは、灯にまとわりついて、突いたり、さわいだり、わいわいがやがやと騒音をたてています。
夜になると、この場所は、虫たちのたまり場になっていたのです。
「毎晩、これだからな」
蚊たちは、一晩中、街灯のまわりに集まって、お酒を飲んだり、歌をうたったり、宴会をするのでした。
あるとき、隣の街灯が話しかけてきました。
「もうすぐ夏ですな。そしたら、こんどは、蚊たちのほかに、カブトムシやカナブンも飛んできますよ。またにぎやかになりますな」
「ああ、困ったもんだよ。虫たちはこの場所が大好きだからね。誰でもいいから、殺虫剤をシュシューとふりかけてくれないかなあ」
「ところで、いい話があるんだが」
「なんだね、それは」
「蚊の駆除のために、業者さんを呼ぶんだよ」
「ほう、そりゃいい、なんて業者だね」
「クモの業者さんだ。街灯のまわりに、クモの糸を張ってもらって蚊たちを生け捕りにするんだよ」
「そりゃ、いい。じゃ、さっそく電話をしよう」
翌日、注文をうけて、クモの業者さんがやってきました。
「承知いたしました。さっそく糸を張らせてもらいます。糸の寿命は三か月です。期間が過ぎたら新しいのと取り換えます。捕えた蚊の回収は週に一度伺います。代金はその時で結構です」
クモの業者さんは一時間ほどかけて、街灯のまわりに糸を張って帰っていきました。
夜になって、街灯のまわりに蚊たちがやってくると、思った通りみんな糸にからまってもがいていました。
「よかった。やっぱり業者さんにたのんで正解だった」
しばらくの間街灯は、蚊がやってこなくなったので喜んでいたのですが、ある日、業者さんの店に電話がかかってきました。
「昨日のひどい強風で、糸の半分がすっかり飛ばされてしまった。すぐに新しいのを張ってくれ」
さっそくクモの業者さんがかけつけました。
「承知いたしました。さっそく張り替えましょう」
急いで、破れた糸を取り外して、新しい糸と取り換えました。
「出来ましたよ。ところでたいへん申し訳ありませんが、代金の方がこの前よりも高くなります。仕入れ先のクモ製糸工場のクモたちの食費代が値上がりしたのと、今月から消費税が引き上げられましたから」
街灯は困った顔をしましたが、これも仕方がないとあきらめて、業者さんに値上がりしたクモ糸の代金を支払いました。
(つるが児童文学会「がるつ第36号」所収)
ある夜のこと、この街灯のまわりに、たくさんの蚊がやってきました。
居眠りしていた街灯は、あまりやかましいので目をさましました。
「ああ、うるさいな、またやってきた」
蚊たちは、灯にまとわりついて、突いたり、さわいだり、わいわいがやがやと騒音をたてています。
夜になると、この場所は、虫たちのたまり場になっていたのです。
「毎晩、これだからな」
蚊たちは、一晩中、街灯のまわりに集まって、お酒を飲んだり、歌をうたったり、宴会をするのでした。
あるとき、隣の街灯が話しかけてきました。
「もうすぐ夏ですな。そしたら、こんどは、蚊たちのほかに、カブトムシやカナブンも飛んできますよ。またにぎやかになりますな」
「ああ、困ったもんだよ。虫たちはこの場所が大好きだからね。誰でもいいから、殺虫剤をシュシューとふりかけてくれないかなあ」
「ところで、いい話があるんだが」
「なんだね、それは」
「蚊の駆除のために、業者さんを呼ぶんだよ」
「ほう、そりゃいい、なんて業者だね」
「クモの業者さんだ。街灯のまわりに、クモの糸を張ってもらって蚊たちを生け捕りにするんだよ」
「そりゃ、いい。じゃ、さっそく電話をしよう」
翌日、注文をうけて、クモの業者さんがやってきました。
「承知いたしました。さっそく糸を張らせてもらいます。糸の寿命は三か月です。期間が過ぎたら新しいのと取り換えます。捕えた蚊の回収は週に一度伺います。代金はその時で結構です」
クモの業者さんは一時間ほどかけて、街灯のまわりに糸を張って帰っていきました。
夜になって、街灯のまわりに蚊たちがやってくると、思った通りみんな糸にからまってもがいていました。
「よかった。やっぱり業者さんにたのんで正解だった」
しばらくの間街灯は、蚊がやってこなくなったので喜んでいたのですが、ある日、業者さんの店に電話がかかってきました。
「昨日のひどい強風で、糸の半分がすっかり飛ばされてしまった。すぐに新しいのを張ってくれ」
さっそくクモの業者さんがかけつけました。
「承知いたしました。さっそく張り替えましょう」
急いで、破れた糸を取り外して、新しい糸と取り換えました。
「出来ましたよ。ところでたいへん申し訳ありませんが、代金の方がこの前よりも高くなります。仕入れ先のクモ製糸工場のクモたちの食費代が値上がりしたのと、今月から消費税が引き上げられましたから」
街灯は困った顔をしましたが、これも仕方がないとあきらめて、業者さんに値上がりしたクモ糸の代金を支払いました。
(つるが児童文学会「がるつ第36号」所収)
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