2015年12月8日火曜日

海がめの里帰り

 年とった海がめが、ある日じぶんが生まれた砂浜へ帰りたいと思いました。
「わしも、ずいぶん年とっていつお迎えがくるかわからないから、死ぬまえに生まれたところへ帰ってみよう」
 だけど、ずいぶん長い年月がたっているので、じぶんの故郷がどこにあるのか見当がつきません。友達の魚たちにたずねたり、海鳥にきいたりしながら、海を泳いでいきました。
 何日も何日も、砂浜をさがしながら泳いでいると、顔つきのよく似た、一匹の年とった海がめにであいました。
「しつれいですが、わたしのきょうだいじゃないですか」
「ああ、そうかもしれない。よく似てるからなあ」
はなしをしながら、いっしょに生まれた砂浜へいくことにしました。
 何日も泳いでいくと、むこうに砂浜がみえてきました。
「この景色は、むかし見たことがある」
「そうだね、おぼえているよ」
いいながら、二匹の海がめは、砂浜にむかって泳いでいきました。
 浜へつくと、むこうの丘のうえに、やどかりのじいさんがやっている浜茶屋がありました。
「あの店で、お茶でも飲んでいこうか」
「ああ、長旅でのどがかわいたところだよ」
 二匹の海がめがお茶を飲んでいると、やどかりのじいさんがそばへきていいました。
「今日はどうしたわけか、よく似た海がめさんたちがたくさんやってくるな。さっきも、六匹の海がめさんがやってきたよ。けさは、四匹の海がめさんがやってきたというのに」
 やどかりのじいさんのはなしによると、その海がめたちは、いずれもおじいさんとおばあさんばかりで、みんなじぶんたちとよく似た顔をしていたそうです。
「その方たちは、どこへいきました」
「ああ、なんでもお袋さんの墓参りに来たっていってたな。むこうの丘をふたつ超えたところだよ」
やどかりのじいさんに教えてもらって、さっそく、あるいていきました。
 丘をふたつ超えたところに、たくさんの海がめたちがあつまって、お墓にお花をおそなえして、手をあわせていました。
「きっと、わたしたちの兄弟たちだ。いっしょに、なかまにはいることにしよう」
そのお墓には、『海がめのお母さんの墓』と刻まれていました。
 みんな、お線香をすませると、カニのじいさんが営業している旅館で、宴会をすることにしました。 二匹の海がめたちも宴会にくわわりました。
 みんなよく似たかめたちでしたので、すぐに打ちとけることができました。 兄弟の多くは、みんなまじめで陽気でしたが、中には甲羅に唐獅子牡丹の入れ墨を入れた目つきの悪い兄弟もいました。 でもみんな気にしないで、わいわいがやがやとお酒を飲んでいました。
「あんたはどこからやって来たんだ」
「おれは、10キロ先の小島の入り江からだ」
「あんたは」
「おれは20キロはなれた沖からだ。天気がいいので散歩がてらにやって来た」
 そんなはなしをしながら、みんななつかしそうに思い出ばなしに花を咲かせていました。
しばらくすると、幹事のかめが、
「なあ、みんな。酒もまわってきたので、ここらで歌でもうたおうか」
といったので、なかにアコーディオンをもってきた海がめがいたので、みんなその伴奏にあわせて歌うことにしました。
 歌のじょうずなかめも、ひどい音痴なかめもいましたが、みんなたのしそうに、その日いちにち、わいわいがやがやと宴会をたのしんでいました。
 そして翌朝、また来年もここに集まろうとやくそくして、みんな別れていきました。





(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)



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