公園の桜の木のそばに街灯が立っていました。夜になると明るい灯を照らしていました。
ある夜のこと、この街灯のまわりに、たくさんの蚊がやってきました。
居眠りしていた街灯は、あまりやかましいので目をさましました。
「ああ、うるさいな、またやってきた」
蚊たちは、灯にまとわりついて、突いたり、さわいだり、わいわいがやがやと騒音をたてています。
夜になると、この場所は、虫たちのたまり場になっていたのです。
「毎晩、これだからな」
蚊たちは、一晩中、街灯のまわりに集まって、お酒を飲んだり、歌をうたったり、宴会をするのでした。
あるとき、隣の街灯が話しかけてきました。
「もうすぐ夏ですな。そしたら、こんどは、蚊たちのほかに、カブトムシやカナブンも飛んできますよ。またにぎやかになりますな」
「ああ、困ったもんだよ。虫たちはこの場所が大好きだからね。誰でもいいから、殺虫剤をシュシューとふりかけてくれないかなあ」
「ところで、いい話があるんだが」
「なんだね、それは」
「蚊の駆除のために、業者さんを呼ぶんだよ」
「ほう、そりゃいい、なんて業者だね」
「クモの業者さんだ。街灯のまわりに、クモの糸を張ってもらって蚊たちを生け捕りにするんだよ」
「そりゃ、いい。じゃ、さっそく電話をしよう」
翌日、注文をうけて、クモの業者さんがやってきました。
「承知いたしました。さっそく糸を張らせてもらいます。糸の寿命は三か月です。期間が過ぎたら新しいのと取り換えます。捕えた蚊の回収は週に一度伺います。代金はその時で結構です」
クモの業者さんは一時間ほどかけて、街灯のまわりに糸を張って帰っていきました。
夜になって、街灯のまわりに蚊たちがやってくると、思った通りみんな糸にからまってもがいていました。
「よかった。やっぱり業者さんにたのんで正解だった」
しばらくの間街灯は、蚊がやってこなくなったので喜んでいたのですが、ある日、業者さんの店に電話がかかってきました。
「昨日のひどい強風で、糸の半分がすっかり飛ばされてしまった。すぐに新しいのを張ってくれ」
さっそくクモの業者さんがかけつけました。
「承知いたしました。さっそく張り替えましょう」
急いで、破れた糸を取り外して、新しい糸と取り換えました。
「出来ましたよ。ところでたいへん申し訳ありませんが、代金の方がこの前よりも高くなります。仕入れ先のクモ製糸工場のクモたちの食費代が値上がりしたのと、今月から消費税が引き上げられましたから」
街灯は困った顔をしましたが、これも仕方がないとあきらめて、業者さんに値上がりしたクモ糸の代金を支払いました。
(つるが児童文学会「がるつ第36号」所収)
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