(オリジナルイラスト)
夜、ペルレの町の裏通りを通って歩いてゆくのは一つの苦行であった。研ぎすまされた感覚の持主にとっては、恐ろしい深淵がいくつもその顔をのぞかせていた。格子のはまった窓や地下室の通気孔からは、あらゆる音色の歎き声やうめき声が聞こえてきた。半開きになった扉の向こう側でおし殺した溜息が聞こえたりして、思わず絞殺とか犯罪とかを考えずにはいられないようなこともあった。 私が不安にみちた足どりで家路をさして歩いてゆくと、千通りもの、いや一万通りもの嘲りの声が私のあとをついてくるのだった。門道はあんぐりと口をあけて、まるで道をいそぐ人をのみこもうとでもするかのように、その姿をみつめていた。不安にかりたてられて、私はこれまでになんども、家にかえる途中でカフェーへ逃げ込んだことがあった。家内はそのあいだ、可哀想にただひとり家でこわがっていたのだ。
夢の国にやってきた主人公は、このぺルレの町の住民がすべて変わり者の一団であることに驚愕した。なかでもましなのは、極度に繊細な感受性を備えた人々、収集狂、読書狂くらいで、一般の民衆は、見事な飲んだくれ、ヒステリー患者、ヒコポンデリー症、降神術者、向こう見ずな乱暴者、年老いた冒険家、奇術師、曲芸師、政治亡命者、外国で追われている殺人者、贋金作り、泥棒などで占められていた。
(白水社 幻想小説 裏面 アルフレート・クビーン 第2部 第3章 日常生活より)
(ボールペン、色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)
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