「だれか風邪薬をくれないか」
町を見下ろすと、薬局が見えました。
「お金がないから買えないな」
考えていると、冷たい風が足元でヒューヒューと吹きました。
アパートのベランダに洗濯物が干してあります。
「冬が近いから、なかなか乾かないんだなあ」
そのとき思いつきました。
「そうだ、あのマフラーをすこしのあいだ借りよう」
お月さまは、思い切り腕を町の方へのばしました。そしてベランダに干してあるマフラーをつかんで、スルーと腕を戻しました。
「やったあ、これで今夜は暖かく過ごせる」
朝になって、アパートの人が、なくなったマフラーを一日中さがしていました。
あるときは、コートが欲しくなりました。
町を見下ろすと、一軒の家の庭に毛皮のコートが干してあります。
「あれも借りよう」
腕を思いっきりのばしました。
「やったあ、今夜はこれを着て過ごそう」
お月さまはニコニコ顔です。
それがくせになって、お月さまは、寒い日にはあちこちの洗濯物を借りていきました。
町では、たびたび洗濯物がなくなるので大騒ぎです。
犯人が見つからないので、お日さまも疑われました。
「わしは、やっとらん」
お日さまは怒っていいました。
真冬になりました。星がシャーベットのように冷たくキラキラと光っていました。
「ああ、今夜はとくべつに冷える晩だな。また風邪をひきそうだ」
お月さまは、町を見渡すと、マンションのベランダに今度は布団が干してあります。
「ああ、あれがいい」
また腕をうーんとのばすと布団をつかんで腕を戻しました。
「やったあ、これで今夜はポカポカだ」
すっかり満足して、その夜はぐっすり布団にくるまって眠りました。
あまりぐっすり寝込んだので、起きたのは昼でした。
町の方から、声が聞えて目が覚めました。
「犯人はお月さまだー」
急いでお月さまは雲の中へ隠れました。
(オリジナルイラスト)
(未発表童話です)
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