みんな眠気眼で、
「ああ、うるさいな。こんなに朝早くからどこへ出かけるんだ」
給油口のふたがはずされて、ホースが差し込まれ、グイーン、グイーンと吸い上げられていきます。
タンクの外に出た灯油たちは、何台かのミニローリーのタンクに入れられました。
「今日の分はこれで全部だ」
配達員は走り出しました。
国道を走りながら、町のあちこちの家々を回って行きます。各家のお風呂のボイラータンクや、ポリ容器に次々と灯油を入れていきます。
ミニローリーの一台は、町からずいぶん離れた、山の家を回っていました。
灯油を積んでいるので、グイーン、グイーンとエンジンを全開にして登って行きます。山の上には別荘がたくさんあるので、全部回るのに一日かかります。
昼から、雪が降りだしてきました。
「ああ、天気予報じゃ、雨か雪だっていってたのに、山はやっぱり雪だな」
配達員は心配そうです。
夕方になると、雪は本格的に降ってきました。雪のせいで1メートル先もよく見えません。
「困ったな、まだ10軒あるのに」
しまいに猛吹雪になって、まったく先へ進めなくなりました。タンクの中の灯油たちは、寒さのためにみんなガタガタふるえています。
「ああ、早く、ボイラーの中へ入りたいな。あの中は暖かくて気持ちがいいから」
時間が経ってから、少し雪は弱まってきました。山道の向こうの方で、別荘の照明が付きました。すると、そのとなりの家の照明も付きました。
「よかった、あの家だな」
配達員は、残りの家に向かいました。積雪が増えているので、アクセルを思い切り踏み込んで先へ進みました。
そして、家のボイラータンクに灯油をいっぱい入れました。
「終わった。これで店に帰れる」
配達員は山を降りて行きました。
もう一台のミニローリーは海辺の村を回っていました。海から雪まじりの物凄い強風が吹いていました。タンクの中の灯油たちは、車酔いと寒さのために死んだようになっています。
「ああ、早くファンヒーターの中に入りたいな。ぐんぐん燃やされて、冷たい液体から暖かい空気になって一晩中ゆっくり過ごせるから」
ときどき冷たい海水が風に飛ばされて車体に当たったりしました。港に停泊している船なんか踊り狂ったように揺れています。
配達員は、海水がウインドーに当たるたびに、ワーパーを動かしました。
「残りあと5軒だ」
日が暮れかかった頃、やがて目的の家が見えてきました。
家の窓から住人が見ています。
「よかった来てくれた、灯油が切れて困ってたんだ」
ポリ容器に、灯油を入れてもらって、家の人は喜んでいました。
ミニローリーが帰ったあと、灯油たちはファンヒーターのタンクに入れられて、ぐんぐん燃やされました。
暖かい空気になった灯油たちは、やっと元気を取り戻しました。
(未発表童話です)
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