2019年5月24日金曜日

絵と詩 高原の幻想





 初夏のある日、少女は高原へ遊びに行った。
 花の匂いが一面に漂っている草の上で休んでいると、
 いつの間にか眠り込んでしまった。
 しばらくして遠くからベルの音が聞こえてきた。
 目を開けると、山のすそのを自転車で誰か走って来る。
 町で見かけた若者だった。
 チラッとこちらを向いて山の向こうへ走って行った。

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)





2019年5月13日月曜日

クリーニングロボット

 ロボット発明家が、なんでもクリーニングするロボットを作った。このロボットに仕事をさせれば、家も庭も車も倉庫もきれいになった。さっそく使いたいという人がやってきた。
「どうぞ、お貸しします。1日5千円です」
 その人は、来月引っ越しするので、アパートをきれいにしたいのだった。さっそく持ち帰って使ってみた。
 バケツと雑巾、洗剤などを用意して、ロボットのスイッチを押して出て行った。
 ロボットは動き出した。自分で掃除機のスイッチを入れ、最初にゴミを取り除いていった。次は水道の蛇口をひねってバケツに水を入れ、ゴシゴシ壁や床、窓ガラス、天井を洗っていった。
 それが終わるとパソコンが置いてある部屋へ行ってクリーニングをはじめた。しばらくして胸に埋め込まれたランプが当然点灯し、ロボットの行動がおかしくなった。ロボットはパソコンのそばへ行くと目からセンサーを出し、しばらくじっと身動きもしなかった。それが終わると再びクリーニングをはじめた。
 夕方になりクリーニングは終わった。住人が帰って来て部屋がとてもきれいになっていたので驚いた。
「すごいロボットだ。また借りよう」
 ある日のこと、またロボットを借りたいという人がやってきた。 
 その人はマンションの住人だった。10年も住んでいたので部屋はずいぶん汚れていた。ゴミもだいぶ溜まっていた。
「じゃあ、頼むよ」
 ロボットのスイッチを入れて部屋を出て行った。
 ロボットはさっそくクリーニングをはじめた。最初にゴミを選別してビニール袋の中に入れ、部屋の掃除をはじめた。しばらくしてから胸に埋め込まれたランプが点灯し、またロボットの行動がおかしくなった。
 ロボットは机の上に置いてあるパソコンのそばへ行くと、目からセンサーを出した。しばらくじっとしていたが、それが終わるとまた掃除をはじめた。
 夕方になって住人が帰って来た。部屋がピカピカになっていたのでとても喜んだ。
「思ってたとおりだ。役にたつロボットだな」
 そうやってこのロボットはたくさんの人が借りにやってくるようになった。
 ところが2週間ほどたったある日、発明家の家に苦情の電話が入るようになった。
「おかしいんだ。大切な個人情報が盗まれた形跡がある。ネット銀行やネット投資に使うパスワードやIDが無断で使われているんだ。ロボットに掃除を頼んだすぐあとなのだ」
 発明家はそんなこと知らないと突っぱねていた。
  ロボット発明家は悪人だった。クリーニングロボットを使って住人の家のパソコンから個人情報を集めていたのだ。貸したロボットに仕事をさせながら無線で指示をしていたのだ。
 3か月の間に40件くらいの個人情報が盗まれた。その後発明家は行方をくらました。
 しかし、その発明家はとうとう捕まってしまった。別の町のある探偵事務所にクリーニングの仕事に行ったとき、腕のいい私立探偵がそのロボットの行動に不信感を持ち、その現場を取り押さえたのである。
「最近、個人情報が盗まれる事件が多発しているが、やった犯人はこいつだな」
 ロボットを詳細に調査して、発明家の居場所も突き止めて事件は無事に解決した。


 
(オリジナルイラスト)




(未発表童話)




2019年4月30日火曜日

絵と詩 ピアニストの夢




 五月の爽やかな朝、川辺へ散歩に出かけた少女は
 空に浮かんだ白い階段を見つけた。
 階段の頂上には白いピアノが置かれていた。 
 少女はその白いピアノを弾いてみたいと思った。
 少女は駆け出しのピアニストだった。

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)




2019年4月15日月曜日

(短篇小説)動くマネキン人形

 画学生はモデルを探していた。卒業制作に提出する絵を描くためだった。でもモデルを頼むお金がない。
「ああ、だれかモデルになってくれる女性はいないかな」
 ある日、画材店へ絵具を買いに行った帰り、洋服屋の前を通ったときショーウィンドウにマネキン人形が飾ってあった。
 人形はオレンジ色の帽子とピンクのワンピ-スを着ていた。
「こんな素敵な女性だったらきっといい絵が描ける」
 思いながらしばらく見ていた。
 でも人形では仕方がない。それに盗むわけにもいかない。
 家に帰ってから部屋で描きかけの絵を仕上げることにした。砂浜のテラスを描いたつまらない風景画だった。
「もし、このテラスの椅子に女性が座っていたらすばらしい絵になるだろう」
 その夜、ふしぎなことが起きた。眠りについてからしばらくして窓ガラスを誰かが叩く音がした。
「だれだ」
 カーテンを開けてみた。
「あっ」
 ガラスに写っていたのは昼間見た洋服屋のマネキン人形だった。
「どうやってきたんだ。人間じゃあるまいし」
 マネキン人形はじっと部屋の様子を眺めている。
「そうだ、マネキン人形にモデルになってもらおう」
 玄関を開けると、庭から人形が歩いてきた。
「入ってくれ。君をモデルに描きたいんだ」
 マネキン人形は黙ったまま部屋へ入って来た。何も言わないがモデルになることを承知したようだった。
 部屋に入るとキャンバスが載せてあるイーゼルの近くの椅子に座った。
 画学生はすぐに絵を描く準備をはじめた。
 制作中の砂浜のテラスの椅子に、マネキン人形を描き加えることにしたのだ。
 マネキン人形のオレンジ色の帽子とピンクのワンピース姿が、周りの景色とよく合っている。筆もすいすいと進む。制作は一晩中続いた。やがて朝になった。
「また明日の夜に来てくれないか」
 マネキン人形はうなずいて帰って行った。
 次の日の夜に、約束どおりマネキン人形はやってきた。
 画学生はその夜も夢中になって描いていった。
「君のおかげで絵が見違えるように素晴らしいものになっていく」
 朝になり、その日の制作が終わると、マネキン人形は帰って行った。
 画学生は昼間は美術学校に通っているので、制作はいつも夜だった。
 その後数日間、マネキン人形は約束どおりやってきた。椅子に座ってモデルをしてくれた。
「さあ、明日はいよいよ完成だ。仕上がった絵にサインを入れるのが楽しみだ」
 翌日の深夜に絵はついに完成した。想像していたより出来がいいので自分でも驚いた。
「この絵なら、高評価を受けそうだ。いい就職先を紹介してもらえるかもしれない」
 画学生は、卒業してからのことも考えはじめた。
 提出日が近づいてきた。絵は乾いている。画学生は余裕で何度も絵を見直していた。
 ところがある朝、新聞を見て驚いた。こんな記事が書かれてあったのだ。
 ー最近、町の洋服屋からマネキン人形が頻繁に盗まれる事件が発生している。店のガラスが割られ、同じマネキン人形ばかりなくなっている。犯人は人形愛好者だと思われるが、異様な事件なので、現在、警察で捜査中ー
 その新聞記事には盗まれたマネキン人形の写真も載せてあった。
 画学生は驚いた。
「そんなことがあるわけがない。いったい誰だろう」
 不思議なことばかり起きるので画学生は当惑していた。
「でもそれが事実ならマネキン人形をモデルに描いたこの絵を提出するわけにはいかない。表に出たら、事件の犯人にされてしまう」
 せっかく仕上げた絵を修正しなければいけない。マネキン人形を加えた箇所をナイフで削り取るしかない。でも削ってしまえば以前のつまらない風景画になる。でも仕方がない。 
 画学生は削る前に写真を一枚撮った。自分の思い出として残すためだった。それほど画学生はこの絵を気に入っていたのだ。
 提出日がやってきた。画学生は重い足取りで絵を持って学校へ行った。
「こんな絵では、低評価に決まっている」
 画学生は卒業しても売れない画家として生きて行くより仕方がないと思った。
  学校の帰りに公園に立ち寄った。ベンチに座って修正する前の写真を取り出した。マネキン人形のこと、そして夢中になって制作した夜のことなどがぼんやりと浮かんできた。
「ああ、すべては夢だったのか」
 ベンチのそばのゴミ箱に今朝の朝刊が捨ててあった。その新聞にはまだ犯人が捕まっていないあの事件のことが書かれていた。
 
 

(オリジナルイラスト)



(未発表作品)





2019年4月11日木曜日

絵と詩 山のシーソー遊び




 春になって山のてっぺんでは
 クマがシーソーを楽しんでいる。
 冬の間よく眠ったので
 運動不足の解消にちょうどいい。

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)





2019年3月31日日曜日

山のゆうれいスタンド

 夏のことだった。故郷へ帰省するため車で高速道路を走っていた。ところが途中事故のために通行止めになっていた。
「困った。ラジオで交通情報を聞いておけばよかった」
 しかたがないので、ぜんぜん知らない町の国道へ降りて帰ることにした。カーナビが付けていないので道路地図たよりに走るしかなかった。ほとんど山道ばかりの所だった。道を間違えたりしているうちに、ガソリンが心配になってきた。
「こんな上り坂ばかり走っていたら、あと50キロも走れない」
 時計を見ると、もう夕方の6時を過ぎていた。もうじき日が沈む。それまでにガソリンスタンドを見つけないといけない。でもこんなところにあるだろうか。
 薄暗い峠道を走っていると、周りが墓地ばかりの所へやって来た。火の玉でも飛んできそうだった。行く手にぼんやり明かりが見えた。ガソリンスタンドの看板が見える。
「よかった。あそこで給油しよう」
 スタンドの前までやってきた。ずいぶん古びたスタンドだった。壁は剥がれ、給油機はサビついていた。
「だれも出てこないな」
 しかたがないのでクラクションを鳴らした。
 そのときぞっとした。助手席の窓の外に人が立っている。青白い顔をした浴衣を着た女性だった。
「給油ですね」
 ずいぶん淋し気な声だった。
「レギュラーガソリンを満タンたのむよ」
 女性は給油機をセットして、ガソリンを入れ始めた。
「よかった。これで故郷まで安心して帰れる」
 思っていると、前面のフロントガラスと、後ろのリアガラスに女性の姿が映っていた。雑巾を持ってガラスを拭いている。この女性たちもずいぶん青白い顔をしている。ゴミがあったので捨ててもらった。  
 満タンになったので現金で支払った。
「さあ、出発だ」
 女性たちに見送られて車を走らせた。ふとバックミラーを見たときだった。
女性たちの身体が半分しか見えないのだ。上半身は見えるのだが、下半身がぼやけて見えなかった。
「幽霊だー!」
 気味が悪くなりアクセルを強く踏み込んでその場からすぐに立ち去った。



(オリジナルイラスト)




(未発表童話)






2019年3月18日月曜日

ふしぎな演奏家

 その演奏家はいろんな町に現れた。黒いコートを着て黒い帽子をかぶっていた。だけど楽器らしいものは何一つ持っていなかった。
 あちこちの家の壁に、自分の独奏会のビラを貼り付けて歩いた。ビラを見た人たちはいろいろ噂をした。
「楽器もないのに、どうやって独奏会をやるんだ」
「ポケットにハーモニカを入れているのかな」
「いや、オカリナかもしれない」
「まさか、小型のヴァイオリンかな」
 まだ演奏を聴いたことがない人たちはいろいろ推測した。
 ある日、雨が上がった夜に演奏家の独奏会が公園で開かれた。五十人ほどの観客が集まった。
 でもいくら待っても演奏家の姿が現れない。そのうちに霧が出て来た。公園の中は霧で周囲がまったく見えなくなった。
「いたずらだ。帰ろう」
「そうしよう」
 みんなぶつぶついいながら帰りかけたときだった。霧の中から口笛の音がした。透き通るようないい響きだった。みんなその音に立ち止まった。
「あの演奏家だろうか」
 霧で姿が見えないが、すぐ近くで口笛を吹いているのが分かった。
 曲がおわると、演奏家が口を開いた。
「今夜の独奏会にいらっしゃってどうもありがとうございます。びっくりされましたか。私はもう二十年も昔から口笛でいろんな曲を吹いているのです。いろんな国にも行きました。南米やアフリカのジャングルで吹いたこともあります。そしていろんな国の曲も覚えました。どうかリクエストしてください。どんな曲でも吹いてみせます」
 演奏家がいったので、観客たちは次々にリクエストをした。演歌、歌謡曲、フォークソング、民謡。どれも澄み切った響きで演奏家は吹いてみせた。そのほかにもアフリカの民謡、インドの民謡、東ヨーロッパの民謡、アジアの民謡なども演奏した。
「すばらしい、いままでこんな口笛を聴いたことがない」
 そういってみんなお金を霧の中へ投げ入れた。
 たぶん二時間くらい独奏会は続いた。だれも帰る様子はない。最後の曲を吹き終ったとき、演奏家はいった。
「今夜の独奏会はこれで終わりです、また機会があればお会いしましょう」
 そういってアンコールの曲を吹きはじめた。
 その曲もみんな静かにじっと聴いていた。
 口笛の音はやがて霧の中へ消えて行った。



(オリジナルイラスト)


(未発表童話)