2015年12月24日木曜日

びんぼうなサンタクロース

 クリスマスがやってくるというのに、元気のないサンタクロースがいました。
そのサンタクロースはとてもびんぼうだったので、家の中には、がらくたのおもちゃしかありませんでした。
「こんなわたしがサンタクロースだなんて、子どもたちが知ったらなんて思うだろう。いっそのこと、この仕事をやめてしまおうかな」
 そんなさびしいことを考えたりもしましたが、サンタクロースに生まれたからには、なんとか子どもたちがよろこんでくれるようなクリスマスプレゼントを贈りたいと思っていました。
そこで思いついたのが、じぶんで絵本をつくって、だいすきな子どもたちにプレゼントすることでした。
お金もなく、食べることにも困っているサンタクロースでしたが、子どものころから、じぶんで楽しいおはなしを作ったり、絵を描いたりすることがだいすきだったからです。
 翌日から、さっそく絵本づくりをはじめることにしました。
頭の中には、いろいろなおはなしのアイデアがたくさんつまっていました。
「さて、どのおはなしがいいかな。そうだ」
 サンタクロースが、画用紙に描きはじめたのは、むかし、北欧のある国の高原の村へいったときに思いついたおはなしでした。そのころ、サンタクロースのくらしも豊かだったので、トナカイの引くそりの中には、子どもたちにプレゼントするおもちゃやお菓子がたくさん積まれていました。
 雪道を走っていたとき、向こうのモミの木の林のほうから、きれいな鐘の音が聴こえてきました。それは、この村の教会から聴こえてくるハンドベルの音色でした。
静まり返った雪の世界に、その音色はとてもやさしく美しく響いてきます。教会の中では、ロウソクの明かりがゆらゆらとすてきに燃えています。
 すると、ふしぎなことに、そのハンドベルの音は、雪の妖精たちの住んでいる空のうえまで届きました。雪の妖精たちは、みんなその音に耳をかたむけていました。
「なんてすてきな音色だ。地上にもこんなすてきなものがあるんだな。ぼくたちが住んでいる天国と同じだ。今夜は、みんながぶじに家に帰れるように、雪を降らせないでおこう」
 それまで、ちらちらと雪が降っていましたが、いつのまにか雪はやんで、夜空にはきれいな星が輝いていました。
そんな理由でしょうか。この土地では、毎年、クリスマスの夜だけは、雪がすこしも降りませんでした。だから、遠くからやってきた人たちも、みんな安心して家に帰ることができたのです。
 それはサンタクロースにとっても大変都合のいいことでした。雪の降る土地では、ときどき大雪になって、これまでなんどもそりが雪道で立ち往生して、クリスマスプレゼントを届けられない家があったからです。
 サンタクロースは、ほかにもいくつかのおはなしを考えつきましたが、このおはなしがいちばんクリスマスの日にぴったりなので、このおはなしを絵本にすることにしたのです。絵本の構成は、画用紙の下の方に黒マジックで文章を書いて、上の方に水彩絵の具で絵を描くことにしました。
さいわい、子どものころに、サンタの学校で絵のじょうずな先生から絵の描き方を教わったので、それを思い出しながら描きました。
クリスマスまで、あと一週間でしたが、毎日サンタクロースは、部屋にこもって絵本を作っていました。
昼も夜もぶっ通しで作業をして、できた数はわずかに十五冊だけでしたが、これを子どもたちにプレゼントすることにしたのです。
 クリスマスイヴの晩になりました。家の小屋にかわれているトナカイのそりに乗り込むと、
「さあ、しゅっぱつだー!」
元気よくサンタクロースは、雪の原っぱを走り出しました。
トナカイの首につけた銀色のすずの音が、雪の野山に響き渡ります。
 やがて、最初の町へやってきました。
すっかり夜もふけて、どの家も、電灯を消してみんなぐっすりと眠っていました。
いっけん、玄関のそばにクリスマスツリーが立っている家がありました。
「子どもたちのいる家かな」
サンタクロースが、家の庭へ入って窓から中をのぞいてみると、小さな子どもたちが三人なかよく眠っていました。
 へやの中には、絵本がたくさんあって、本好きな子どもたちだなと思いました。
「おじさんの絵本もよんでくれるかな」
そういってそっと窓を開けると、すきまから絵本を差し入れました。
サンタクロースは、トナカイのそりに乗ると、また走り出しました。
 町のかたすみに、壊れかけた家がありました。びんぼうな家だとわかりました。
家の中には、ふたりの子どもたちが、からだをくっつけて眠っていました。この子どもたちの両親は、生活のために夜も働きに行っているのでした。
「世の中不景気だけど、みんながんばって生きているんだな」
サンタクロースは、まずしいのは自分だけではなくて、世の中の人たちもまたびんぼうなんだと思いました。
そう思いながら、絵本を窓辺においておきました。
 やがて、次の町へやってきました。その家は、幼稚園の保母さんの家でした。家の中に、男の子が眠っていました。
「保母さんの家なら、わたしが作った絵本を幼稚園の子どもたちにも読んでくれるだろう」
サンタクロースも子どものとき、サンタの国の幼稚園で、保母さんに絵本を読んでもらったことを思い出しました。サンタクロースは、幼稚園の子どもたちにも読んでもらえるように、何冊か絵本を余分に窓辺においておきました。
そうやって、いろいろ町をまわっているうちに、むこうの空がすこしずつ明るくなってきました。
「もう朝なのか。さて、あと二冊どこへもっていこうかな」
 走りながら、サンタクロースがやってきたのは、広い田畑の広がる土地でした。いまは、雪ですっかり一面真っ白ですが、夏には大きな甘いももが収穫され、、秋にはりんごが畑の木にたくさん実をつけます。これらのおいしいくだものはこの土地の名産品でした。けれどもお百姓さんたちの顔は暗いのでした。
 ある農家にやってきました。
家の窓から中をのぞいてみると、ふたりの子どもが眠っていました。窓辺には、りんごをたくさん入れたバスケットが置いてあり、そばに手紙がいっしょに入っていました。サンタクロースは窓をそっとあけると、その手紙を読んでみました。

サンタクロースのおじさんへー
 ぼくの農家でとれたおいしいりんごです。食べてください。
今年、千年に一度しか起きないような大きなじしんとつなみにあいました。ぼくたちの農家は大丈夫でしたが、おじいちゃんが暮らしている海の家はつなみで流された所がたくさんあります。
ほうしゃのうの影響もぼくの土地ではありません。だけどみんな農産物がなかなか売れないと困っています。なんともないので、あんしんして食べて下さい。りんごたくさんありますから、サンタの国の人たちにも食べてもらってください。
まさひこ
よしのりよりー

 サンタクロースが、その手紙を読んで、とても驚いたのも無理はありません。それはサンタクロースの人生の中でも一番の驚きでした。
「そうだったのか。そんなことだったら、もっと早いうちから作業をはじめて絵本をたくさんもってくればよかったなあ。海辺に住んでいる子どもたちにもプレゼントすることができたのに。でも来年はかならずたくさん作ってもっていこう」
 そういうと、サンタクロースは、お礼の手紙と絵本を二冊置いておくと、かわりにりんごの入ったバスケットを受け取りました。そして、静かにその農家から出て行きました。
 トナカイの引くそりに乗りながら、サンタクロースは仕事を終えてほっとしました。
「どうにか、ぜんぶまわることができた。子どもたちが喜んでくれたらうれしいなあ」
サンタクロースは、まんぞくそうにいうと、向こうの山を越えて自分の家に帰っていきました。
 朝になりました、絵本をプレゼントされた子どもたちは、みんなとても喜びました。だって、サンタクロース手作りのうつくしい絵本をプレゼントされたからです。幼稚園の保母さんの家でも、さっそく子どもたちに読んできかせてあげました。子どもたちはみんな、すっかりおはなしに魅了されて聞いていました。
 絵本の中には、サンタクロースからの手紙が入っていました。
(わたしはびんぼうなサンタクロースです。だいすきな子どもたちに、高価なおもちゃやお菓子をプレゼントすることができませんが、手作りのうつくしい絵本を作ってみました。どうか読んでみてください)
 それから、りんごをくれた農家の子どもたちには、
(たくさんのりんごをありがとう。友達のサンタさんにもわけてあげます。来年も絵本を作ってもっていきます。また海辺で暮らす子どもたちにも届けますので待っていてください。では来年のクリスマスまでさようなら)
 サンタクロースの手紙にはそんなことが書かれていました。









(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)



2015年12月17日木曜日

絵師とゆうれい

 田舎から江戸へ出てきたひとりの腕のよい絵師がいた。仕事をするのに都合のよいどこか静かで安い借家がないものかと、毎日あちこち探し歩いていた。
 ある日、うってつけの借家を見つけると、その家に住むようになった。絵師は、毎日のように畳の上に和紙を広げ、墨をたっぷり含ませた筆を使って注文の絵を描いていた。
 ある日、用があって家から出て行くとき、近所のおかみさんたちがこんな話をしているのを耳にした。
「この家の人は知っているんだろうかねぇ、この家がゆうれい屋敷だってことを」
「声が大きいよ。知ってるわけないさ、だから借りたんだからさ」
 ある晩、絵師が仕事を終えて眠っていると、どこからかしくしくと淋しげにすすり泣く女の声が聞こえてくるので目が覚めた。
なにげなく障子に目をやると、月の光に照らされた障子に若い女の影が映っている。
その影は、じっとその場に立ちすくんだまま、部屋の様子をうかがっているようだった。
「そこにいるのは、誰じゃ。わしに何か用でもあるのか」
 絵師の声に驚いたのか、その女の影はすうーっとどこかへ消えてしまった。
 次の晩、やはり絵師が仕事疲れで眠っていると、妙に生暖かい風が自分の顔をすうすうと吹き抜けていく。
ふと、目が覚めると、部屋の障子が半分開いたままになっている。泥棒が入ったのかと思い、薄暗い部屋のまわりを見渡したとき絵師は驚いた。部屋の隅に、見知らぬ若い女が淋しそうに座っているのである。
ふしぎなことに、女の腰から上ははっきりと鮮明に見えるのだが、腰から下の方は薄ぼんやりとしか見えなかった。
「あんたはいったい誰じゃ。わしに何か頼みたいことがあってここへきたのじゃろ」
 絵師の言葉をきいて、若い女は小さくうなずいた。
「どんなことが頼みたいか話してみなさい。わしに出来ることがあったら手助けしてあげよう。あんたの話は誰にもいわんから」
 絵師のやさしい心づかいに、女は安心したのか自分の身の上と頼みごとを話しはじめた。
 女の話はこうだった。女はむかし、この家で暮らしていたひとり娘だったが、身体が弱いうえにとても内気でいつも外へは出なかったという。
 毎年の浅草のお祭りにも行けず、ひとり淋しく家の中で寝ていたのだった。ある年この娘は、十九のとき病気で亡くなったが、あの世へ行く前にどうしても浅草のお祭りが見てみたい。にぎやかな表通りを歩いて金魚すくいや、花火を見てみたい。けれども女には、どうしてもお祭りへ行けない事情があった。
 女は、話しながら絵師の方へそっと顔を向けた。女の顔には目も鼻も口もなかった。
絵師はその顔を見て驚いたが、すぐに気を取り戻すと、その気の毒な娘を救ってやろうと思った。
「わしにまかせておきなさい」
 そういって、すずり箱を取り出すと、細い筆で心を込めて美しい顔を描いてやった。
「これでもうだいじょうぶだから、明日のお祭りに行ってきなさい。そして、祭りがすんだら安心してあの世へ行きなさい」
 美しい顔立ちになった女は、絵師の言葉をきいて丁寧にお礼をいうと、すうーっと部屋から出て行った。そしてその後、女のゆうれいはこの家にやってくることはなかった。





(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)


2015年12月8日火曜日

海がめの里帰り

 年とった海がめが、ある日じぶんが生まれた砂浜へ帰りたいと思いました。
「わしも、ずいぶん年とっていつお迎えがくるかわからないから、死ぬまえに生まれたところへ帰ってみよう」
 だけど、ずいぶん長い年月がたっているので、じぶんの故郷がどこにあるのか見当がつきません。友達の魚たちにたずねたり、海鳥にきいたりしながら、海を泳いでいきました。
 何日も何日も、砂浜をさがしながら泳いでいると、顔つきのよく似た、一匹の年とった海がめにであいました。
「しつれいですが、わたしのきょうだいじゃないですか」
「ああ、そうかもしれない。よく似てるからなあ」
はなしをしながら、いっしょに生まれた砂浜へいくことにしました。
 何日も泳いでいくと、むこうに砂浜がみえてきました。
「この景色は、むかし見たことがある」
「そうだね、おぼえているよ」
いいながら、二匹の海がめは、砂浜にむかって泳いでいきました。
 浜へつくと、むこうの丘のうえに、やどかりのじいさんがやっている浜茶屋がありました。
「あの店で、お茶でも飲んでいこうか」
「ああ、長旅でのどがかわいたところだよ」
 二匹の海がめがお茶を飲んでいると、やどかりのじいさんがそばへきていいました。
「今日はどうしたわけか、よく似た海がめさんたちがたくさんやってくるな。さっきも、六匹の海がめさんがやってきたよ。けさは、四匹の海がめさんがやってきたというのに」
 やどかりのじいさんのはなしによると、その海がめたちは、いずれもおじいさんとおばあさんばかりで、みんなじぶんたちとよく似た顔をしていたそうです。
「その方たちは、どこへいきました」
「ああ、なんでもお袋さんの墓参りに来たっていってたな。むこうの丘をふたつ超えたところだよ」
やどかりのじいさんに教えてもらって、さっそく、あるいていきました。
 丘をふたつ超えたところに、たくさんの海がめたちがあつまって、お墓にお花をおそなえして、手をあわせていました。
「きっと、わたしたちの兄弟たちだ。いっしょに、なかまにはいることにしよう」
そのお墓には、『海がめのお母さんの墓』と刻まれていました。
 みんな、お線香をすませると、カニのじいさんが営業している旅館で、宴会をすることにしました。 二匹の海がめたちも宴会にくわわりました。
 みんなよく似たかめたちでしたので、すぐに打ちとけることができました。 兄弟の多くは、みんなまじめで陽気でしたが、中には甲羅に唐獅子牡丹の入れ墨を入れた目つきの悪い兄弟もいました。 でもみんな気にしないで、わいわいがやがやとお酒を飲んでいました。
「あんたはどこからやって来たんだ」
「おれは、10キロ先の小島の入り江からだ」
「あんたは」
「おれは20キロはなれた沖からだ。天気がいいので散歩がてらにやって来た」
 そんなはなしをしながら、みんななつかしそうに思い出ばなしに花を咲かせていました。
しばらくすると、幹事のかめが、
「なあ、みんな。酒もまわってきたので、ここらで歌でもうたおうか」
といったので、なかにアコーディオンをもってきた海がめがいたので、みんなその伴奏にあわせて歌うことにしました。
 歌のじょうずなかめも、ひどい音痴なかめもいましたが、みんなたのしそうに、その日いちにち、わいわいがやがやと宴会をたのしんでいました。
 そして翌朝、また来年もここに集まろうとやくそくして、みんな別れていきました。





(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)



2015年11月30日月曜日

クマと名人

 いままで一度も負けたことがない将棋の名人が、山の温泉へ静養に出かけました。
見晴らしの良い露天風呂に入って、これまでの対戦のことをいろいろと思い出していました。
「今日まで順調に勝ち進んできたが、秋にはとても強い相手と対戦せねばならん」
 そんなことを考えているとなんだか心配になり、のんびりと温泉につかっていることが出来なくなりました。
 温泉からあがり、庭でひとり将棋を指していると、突然林の中から大きなクマが出てきました。ところが、将棋のことで頭がいっぱいの名人は、まったく気にかけません。
驚かすつもりで出てきたクマだったので、すっかり気が抜けてしまいました。仕方なく林の中へ戻ろうとしたとき、
「おいっ、どこへ行く、ちよっとわしの相手をせんか」
 突然そんなことをいわれたクマは、このまま引き返すのもなんだか馬鹿らしい気がしたので、名人のそばへやってくると、ひと勝負しようと思いました。
 最初は、名人の手にまったくクマは負けてばかりいましたが、すこしづつ腕を上げていきました。ときどき名人をひやりとさせる手を打つこともありました。
「うむ。おまえはなかなか素質があるな。どうじゃ、五日ほどわしの相手をせんか」
 クマは、食べ物をくれるんだったら、相手になってもいいと承知しました。
 翌日から、クマと名人は一日中将棋を指していましたが、クマもだんだんと互角に戦えるようになってきました。しまいには6対4ぐらいで勝つこともありました。お礼のおむすびを食べながら、クマは長い時間将棋を指していました。
「相手も、なかなか手ごわくなってきたな。本腰を入れてかからないと負けてしまうかもしれない。でもいい練習になる。これで秋の対戦は勝てるかもしれない」
 名人は、心の中で嬉しそうににこにこ笑いながら将棋を指していました。
 五日が過ぎて、名人はこの温泉から出て行くことにしました。そして帰るときクマに、
「また、来年の夏にここへやってくるから、また相手になってくれんか」
 クマはそれをきいて、
「おむすびくれるんだったら、いいよ」
といって、山の中へ帰っていきました。
 秋の対戦では、思ったとおり名人はみごとに勝ったということです。 


 



(文芸同人誌「青い花第23集」所収)



2015年11月22日日曜日

のんだくれの夢

  ある家に毎日酒ばかり飲んでいる男がいました。奥さんもとうにあいそをつかして実家へ帰っていました。
「ああ、とうとうひとりになれた。ありがたい。これからはだれからももんくをいわれずに酒が飲めるぞ」
 ある晩、酒がなくなったので、酒屋へ買いに行くとき、路地裏でひとりのアラビア人に呼びとめられました。
「どうですか。このランプ買いませんか。たったの千円です。三回こするとどんな夢でもかないますよ」
「ほんとうかい。じゃ、買うよ」
 男は、家へもってかえると、さっそくランプを三回こすってみました。すると、ランプの中から白いけむりがでてくると、大男が現れました。どうじに、見たこともない景色が目の前に現れました。
「ご主人さま。ここはアラビアの国でございます」
「へえ、おどろいた。おまえさんは召し使いなのかい。じゃ、酒が飲めるところへ連れていってくれよ」
すると、白いけむりがでてくると、また景色が変わりました。そこはこの国一番の大きな宮殿の中でした。
 男がおどろいていると、両側の部屋から、顔に白いベールをつけた三人のすごい美人の女たちが食事をもってきました。もちろん、お酒もついていました。
「いやあ、ありがたい。まるで王さまになった気分だ」
 料理をたいらげながら、お酒もがぶがぶ飲みました。
「これがサフラン酒ってやつか。まえから飲んでみたかったんだ」
 すっかり満足した男は、お風呂に入りたくなってきました。
すると、目の前に、ライオンの口からお湯が出ている大きなお風呂の中につかっていました。 
「いやあ、気持ちいい。疲れがとれるよ」
 そういって笑っていると、さっきの美人の女たちがパインジュースを持ってきてくれました。
「いやあ。気が利くな。家のかみさんとは大違いだ」
男は、ついでにヒゲも剃ってもらい、肩ももんでもらいました。 
 お風呂からあがると、夜空の星がキラキラと輝く大きな窓のある寝室で寝ることにしました。
しばらくしたとき、町のほうから、
ドーン、パチ、ドーン、パチと、花火が打ち上げられました。
「なんだ今日はお祭りか。寝ていたらもったいないな」
 男はお祭りへでかけていきました。
 ところが、町へ行ってみるとそれはお祭りではありませんでした。花火だと思っていたのは大砲の音だったのです。
なんでもこの国で革命が起きたというので、王さまや貴族やお金持ちはみんな捕らえられるというのです。
 広場へ行くと、たくさんの市民たちが、こちらのほうへむかって走ってきました。王さまの服を着ていた男は、すぐに捕まってしまいました。
「やめろ、おれは王さまじゃないんだ。今日、日本からやってきた一般庶民だ。誤解しないでくれ」
 けれども、男はすぐに牢屋に放り込まれてしまいました。
市民たちの話によると、この国の極刑は斬首の刑だということです。男は震え上がりました。
 翌日、簡単な裁判が行われました。
裁判は最初から検察側の有利なほうへ進んでいきましたが、判決の決め手になったのは、検察側の三人の証人の供述でした。
その三人は、宮殿でご馳走をしてくれたあの美人の女たちでした。その証言によって、まぎれもなく男は王さまだと判定されてしまいました。
「被告人を死刑にします」
 翌朝、男は処刑場に向かいました。まわりにはたくさんの市民たちが見物にきていました。
しばらくすると、とてつもなくでっかい男がサーベルを持って近づいてきました。
「たすけてくれ。おれは日本からやってきたただの庶民だ。殺される覚えなんかない」
 しかし、男は布切れをかぶせられてひざまずかされました。
「きっとこれは夢だ。おれは悪い夢をみているんだ」
その瞬間、サーベルが高く持ち上げられました。そして振り下ろされる寸前、空から魔法のじゅうたんがいきおいよく飛んできました。
「ご主人さま、これにお乗りください」
 じゅうたんには大男が乗っていました。
間一髪、男はじゅうたんに飛び移ると空のうえに舞い上がりました。
「遅かったじゃないか。もうすこしで首をはねられるとこだったよ」
「もうしわけありません。朝ごはん食べてたところでしたから」
「で、こんどはどこへ連れて行ってくれるんだ」
「へい、いいところがありますよ。ドイツのビアホールです。黒ビールをがぶがぶ飲みながら本場ドイツのおいしいソーセージを食べに行きましょう」
「ああ、それはありがたい。緊張の連続ですっかりのどが渇いてたところだよ。はやく行こう」
 ご主人さまをつれて魔法のじゅうたんは、今度はドイツの国めざして飛んでいきました。




(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)


2015年11月14日土曜日

ゆうれいパトカー

 その田舎の国道を走るときは、道路交通法を十分に守って走らなければいけないのです。少しでも違反していると、すぐにゆうれいパトカーに追われるのでした。
 ある夜、この国道を、長距離トラックが時速70キロのスピードで走っていると、後ろから一台のパトカーがサイレンを鳴らして追いかけてきました。パトカーは、すぐにトラックの前方に入り込むと、スピードをゆるめて止まりました。
「しまった。速度オーバーだ」
 この国道の制限速度は50キロでしたから、20キロの速度違反でした。
トラックの運転手さんは、すっかりあきらめて、警官が出てくるのを待っていました。
ところがどうしたことでしょう。いくら待っても警官が出てこないのです。
 運転手さんは、なんだか気味が悪くなってきました。
でも、こんな所でいつまでも停車しているわけには行きません。時間どおりに荷物を届けないと行けないのです。
 仕方がないので、自分からパトカーのいる場所へ歩いて行きました。ところが、車の中を覗いて驚きました。運転席には誰も乗っていないのです。
「ひえー、ゆうれいパトカーだ」
運転手さんは、すっかり怖くなってその場所から走り去って行きました。
 そんな出来事の後も、何台もの法定速度を超過して走っていた車が、同じような体験をしました。そんなことがたびたびだったので、それからはみんなこの国道を走る時は、スピードを落として走りました。法定速度で走ってさえいれば、ゆうれいパトカーに追われることはなかったからです。
 また、この国道の一時停止の場所でも同じような体験をした車がありました。
 ある夜、残業を終えた会社員が、この国道の一時停止の場所で、徐行だけで通り過ぎようとしたとき、そばの空き地から突然ライトが点燈して、一台のパトカーが姿を現しました。
会社員は、すぐに車を止めて、もとの停止位置まで戻り、やり直しをしていると、ライトは消滅して、さっきのパトカーの姿はどこにもありませんでした。
こんなふしぎな出来事も、すぐに人の耳にも伝わりました。
それは車ばかりではありません。
 ある日、この国道の横断歩道を赤信号で渡ろうとしていたお爺さんのうしろから、
「赤信号ですよ。渡らないで下さい」
と拡声器で呼び止められました。
 びっくりしたお爺さんは、すぐにうしろを振り返ってみましたが、そこには誰もいませんでした。
「おかしいなー」
と思っていると、一台のパトカーが国道のはるか向こうへ走り去って行きました。
そんな不思議な場所だったので、もう十年以上もこの国道では、無事故、無違反の記録が続きました。
 この国道を走ってみると、ところどころに「ゆうれいパトカーに注意」の標識が立っています。





(未発表童話です)


2015年11月7日土曜日

伸びろ髪の毛

 たけくんのお父さんは、最近抜け毛で悩んでいました。頭髪の真ん中あたりが薄くなってきたのです。
「こりゃいかん。早いうちに処置しなくちゃ」
 翌日、お父さんは薬局へ行って育毛剤を買ってきました。
「よし、これで解決しよう」
 洗面所へ行くと、箱を開けて薬をつけはじめました。
ひんやりと気持ちよく、ぽんぽん頭皮に塗りつけていきます。
見ているたけくんに、
「今日だけじゃ、だめなんだ。毎日続けることが大切なんだ」
といって、その日からはかかさずに薬をつけるようになりました。
 三ヶ月もすると、お父さんの髪の毛は少しずつ黒くなってきました。
「どうだい。ほんとうにこの薬はよくきくだろ」
「うん、もう少しだね。まえのようにふさふさした髪になるといいね」
それからたけくんに弟ができました。なまえは、りょうくんといいます。とても元気な子でよく泣きます。
 ある日、たけくんは、りょうくんの髪の毛が薄いのに気づきました。
「これじゃ、大きくなったとき、お父さんみたいに苦労してかわいそうだな」
 たけくんは、お父さんの引き出しの中から育毛剤をもってきました。
「これをつけてあげたら、すぐ髪の毛が濃くなるぞ」
そういって眠っているりょうくんの頭に育毛剤をつけてあげました。つけながらお父さんがいったことを思い出しました。
「毎日続けることが大切なんだ」
そのことを思い出しながら、毎日りょうくんの頭に育毛剤をつけてあげました。
 ある日、お母さんが心配そうにいいました。
「ねえ、あなた。りょうくんの髪の毛、最近やけに濃くなったみたいね」
「ああ、そうだな。でも、うらやましいな。おれとどっちが早く濃くなるか競争だな」
 そばで聞いていたたけくんは、
「よおーし、りょうくん負けちゃいけないぞ」
といって、それからも毎日育毛剤をつけてあげました。
 半年がたちました。お父さんの髪の毛は、前のようにすっかりもとどおりになりました。
ところが、赤ちゃんのりょうくんの頭は、アビーロードの横断歩道を歩いているビートルズのメンバーのようなぼさぼさの長髪になりました。もちろんりょうくんの勝ちでした。
しかし、その後も、りょうくんの髪の毛は伸び続け、月に一度はかならず散髪屋へ行かなくてはならなくなりました。
「こりゃ、たいへんだ。一度、医者へ連れていこうか」
「そうね。そうしましょう」
 お父さんとお母さんの心配そうにしている様子を見ながら、たけくんは、
「これはちょっとやりすぎだったかな。でも、お父さん、お母さん心配しなくていいよ。もうりょうくんの頭に薬はつけないから」
そういって、育毛剤をつけるのをやめました。ひと月後には、りょうくんの髪の毛はそれ以上は伸びなくなったということです。
 




(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)