いつも家の中に閉じこもっている男がいた。家の中で何をやっているのか近所の人はぜんぜん知らなかった。
「どうやって生活費を稼いでいるのだろう」
「株式やFXでもやってるのかな」
「それともいまはやりの仮想通貨かな」
どこにも出かけないので、近所の人はいろいろと推測をはじめた。
「食事はどうしているのだろう。まさか水だけで暮らしているわけがないし」
「洗濯物も干したことがない」
そんな男だったが、月に一度家を出るときがあった。それも深夜だった。
隣の家の人は、いつも気になっていたので、突き止めることにした。
ある深夜、エンジンをかける音で目が覚めた。
「よおーし、あとをつけてみよう」
明日は仕事が休みなので都合がいい。
国道を走って、その男の車のあとを追った。
町を抜けて、田舎道を走っていった。しばらく走っていたとき山の向こうでピカッと何か光った。男の車は、その光に向かって走って行った。
山道に差し掛かった。カーブを曲がってたとき、男の車を見失った。
引き返してみると、林の中に車がやっと通れるくらいの細い道があった。
「この道を走っていたんだ」
あとを追いかけることにした。しばらく走っていくと男の車を見つけた。木のそばに停めてある。
男はいなかった。歩いて行ったのだ。
車を離れた場所に停めて男のあとを追った。
真っ暗な林道を歩いていくと、林の中に明かりが点いているみすぼらしい小屋が建っていた。
窓ガラスに男の姿がカーテン越しに映っている。誰かと話しているみたいだ。
そっと窓に近づいて、様子をうかがった。
ぼろ小屋で、隙間だらけだったので声が聞えてきた。
「スパイ3号。ロボットは手に入りそうか」
「はい、来週の日曜日に工場から盗んできます。最新式のAIロボットです。日曜日の深夜に、変電所がある町はずれの空き地に来てください」
「わかった。最新のロボットとは有り難い。この星の人口知能の開発がどこまで進んでいるのか把握しておく必要がある」
「ええ、ほんの六十年前の地球では、幼稚なコンピータ程度の技術でしたが、最近はAIの技術は凄いですから」
「そうだ。将来、この星がわれわれと肩を並べるかもしれない。もし争いになった場合に備えて、今のうちに科学技術の進み具合を調べておく必要がある」
「では、帰って準備に取り掛かります。引き続き最新の情報も入手しておきます。最近のユーチューブの動画は非常に参考になります。人口知能と検索すればすぐにたくさんの動画が観れます。ビッグデータの動画も増えています。100年前のわれわれの星が体験したAIの世界がこの星でも広がるでしょう」
二人の宇宙人はこんなやり取りをしていた。
「そうか、あの男は宇宙人のスパイだったんだ。地球の安全のためになんとかしなければいけない」
そう思いながら、すぐに帰ることにした。
日曜日がやってきた。宇宙船がAIロボットを受け取りに来る日だった。
夜になると思ったとおり男は、深夜、車で家から出て行った。さっそくあとを追ってみた。
男の車は、町はずれの変電所の近くの空き地に止まった。周りは畑でずいぶん薄暗い。
少し離れた林の中に隠れて、宇宙船がやって来るのをじっと待った。
しばらくすると、空から黄色い光を出して宇宙船が降りて来た。宇宙船は空に浮かんだ状態で、底面の扉が開き、中から宇宙人を乗せて、ゆっくり階段が降りて来た。
待っていた男が、車のトランクを開けて、中から数台のAIロボットを出した。
宇宙人たちは、ロボットを受け取ると、すぐに積み込み作業をはじめた。
その様子を持ってきたビデオカメラですべて撮影した。
「よおーし、この映像をすぐに政府に送ろう」
そう思ったとき、宇宙人のひとりが、林の方をちらっと見た。
「見つかったかな」
でも、大丈夫だった。すぐにその場を離れて車に乗って家に帰った。
翌日、撮影した映像と宇宙人たちの会話を記録したメモを添えて、メールで政府に送った。
(オリジナルイラスト)
(未発表童話です)
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