2017年5月14日日曜日

孤島のユーチューバー

 演奏会の動画を無許可でたくさんユーチューブに投稿していた男の人が、肖像権違反で逮捕され、海のはるか向こうの孤島に監禁されました。
「あ~あ、暇だなあ。カメラとパソコンの使用は許されたが、見えるのは海ばかりで何も撮るものがない」
 最初は、海をバックに自分の顔を撮ったり、海をテーマにしたオリジナル絵本を動画にしてアップしていましたが、だんだんと飽きてきました。
「やっぱり面白い動画を撮らないとだめだ」
 そんなある日のこと、水平線の向こうからクレーンを装着した外国船が島のすぐそばまでやってきました。この海域は日本の領海内ですから領海侵犯です。
 翌日からは、船の数も多くなり、さかんにロープを海の中に沈めて何か作業をしていました。
「もしかしてメタンハイドレートの採取をやってんのかなあ」
 次世代エネルギーとして注目されているメタンハイドレートを持っていかれたら日本の資源の大きな損失です。この事実を政府に知らせなければいけません。
「よーし、作業を全部カメラに撮って限定公開で政府に知らせよう」
 孤島で映像を撮られていることなど知らない外国船は、安心したように毎日作業を続けていました。
 数日して、海の向こうから海上保安庁の巡視船と自衛隊の艦船がやってきました。ユーチューブで流れた映像を観たからです。直ちに外国船は拿捕されて領海の外へ追い払われました。
 またあるときです。
 島の近くの海の中から何隻もの潜水艦が浮上してきました。司令塔のハッチが開き、乗員が出て来て双眼鏡で周囲を確認すると、空に向けてミサイルを発射しました。その映像も全部撮ってすぐにアップしました。
 この海域では、たびたびミサイルも飛んでくることがあり、その映像も撮影して次々にアップしていきました。
 ある夜のこと、小型の潜水艦が島のそばまでやってくると海面に姿を現しました。この島にスパイが潜んでいて我が国の訓練の様子を撮影していると疑われたからです。
 潜水艦から工作員が出て来て、ボートに乗って小屋で眠っている男の人を捕まえました。カメラも没収されて、
「やっぱりだ、ここで撮影していたんだな」
 男の人は、潜水艦のところまで連れていかれました。
向こうに着いたら、スパイ容疑で銃殺刑になるのは確実です。なんとか逃げないといけません。 
 タラップを渡っていたとき、思い切って海の中に飛び込みました。水中をもぐりながら潜水艦から離れました。でも、ものすごい勢いで機関銃の弾が水中まで飛んできました。
「ああ、もうだめだー」
 そのとき、海の向こうからビーム状の明るいライトを照らした船が猛スピードで走ってきました。この海域を警備していた海上保安庁の巡視船でした。銃声を聞きつけてやってきたのです。潜水艦はすぐに潜航して逃げて行きました。男の人は無事に助けられたのです。
 事情を説明すると、ある日、政府からメールが届きました。それは男の人の情報提供は非常に高く評価され、その功績によって刑が免除されるそうです。数日後に、男の人は釈放されて懐かしい日本へ帰ることができました。 







 
(未発表童話です)





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