クリスマスの夜でした。乞食のおじさんが、公園のベンチに座って歌を口ずさんでいました。ずいぶん寒い晩で、いまにも雪が降ってきそうです。
「お正月はもうすぐだけど、その前に今夜は楽しいクリスマスだ。どのお店にもクリスマスツリーが飾られて、人もたくさん歩いてるな」
乞食のおじさんは、おんぼろなマンドリンを抱えると、仕事を探しに出かけました。町をあちこち歩き回ってお客を探しましたが、ぜんぜん聴いてくれません。しかたなく、また公園へもどってきました。
「ああ、誰もおれの演奏を聴いてくれる人はいない。みんな買い物に忙しいんだ。でも今夜稼いでおかないとお正月の餅も買えない。困ったな」
考えていると、どこからか声が聞えてきました。
「おいらのために一曲たのむよ」
声をかけたのは、松の木のそばに立ってる雪だるまでした。
「弾いてやってもいいけど、お金はあるのかい」
「もちろん」
「じゃ、何曲か弾いてあげよう」
マンドリンをかまえると、弾きはじめました。
ぜんぜん聴いたことがないイタリアの曲ですが、雪だるまは大満足です。
「いま弾いたのは、イタリアのオペラの曲なんだ」
「ふうーん、イタリアは雪が降るのかい」
「暖かい国だけど、雪は降るさ」
「つぎは、何を弾いてくれるんだい」
「冬の夜って曲を弾くよ」
いいながら、今度は歌を歌いながら弾きました。
「ずいぶん古い歌だな。みんながよく知ってる曲がいいよ」
「じゃあ、ジングルベルはどうだい」
「たのむよ」
マンドリンの軽快な演奏を聴きながら、雪だるまはご機嫌です。
そのあとも、「赤鼻のトナカイ」、「サンタが街にやってくる」、「ウィ・ウィッシュ・ユー・ア・メリークリスマス(たのしいクリスマス)」なども弾いてくれました。
そんなことをしているうちに、やがてどこの家の照明も消えはじめました。
「ミニコンサートは、これでおしまいだ。ところで、お金はちゃんとくれるのかい」
「うん、足元の雪の中に入ってるよ」
雪を掘ってみると、500円玉が2枚落ちていました。
「驚いた。だれかが落としていったんだな」
「サビちゃう前に使った方がいいよ」
「じゃあ、このお金でスーパーでお餅を買うよ」
いいながら、アンコールとして、もう一曲、「きよしこの夜」を弾きました。
雪だるまは、聴きながらだんだんと眠くなってきました。
「いい音色だ。眠りにつくまで弾いててくれよ」
「いいとも」
子守唄のように、公園の中にマンドリンの音色がいつまでも流れていました。
(未発表童話です)
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