ふかい森のはずれに、澄んだうつくしいみずうみがありました。
冬のきせつになると、とおい北の国から、たくさんの白鳥たちが、このみずうみにやってきました。
ある日、ひとりのかりゅうどが、猟をおえて、このみずうみのほとりをとおりかかったとき、足をひきずっている、一羽の白鳥を見つけました。
「きっと空からまいおりたとき、足をくじいたんだな」
かりゅうどは、みずうみの中へはいっていくと、白鳥をとらえて、手当てをしてやりました。
白鳥は、手当てをうけると、空へまいあがり、どこかへとんでいきました。
ゆきが降ったある朝、かりゅうどは、いつものように森のなかへ、猟にでかけていきました。
ゆきがつもった森の道を、しばらく歩いていくと、のうさぎが一匹、ゆきの中にはえている草をたべていました。
かりゅうどは、木のうしろに身をかくすと、のうさぎにねらいをさだめてひきがねをひきました。
(ズドーン!)
ところが、たまはよこにそれて、のうさぎは森の奥へにげていきました。かりゅどは、にげたのうさぎをおって、森の奥へ歩いていきました。でも、なかなかのうさぎを見つけることはできませんでした。
気がつくと、かりゅどは、ずいぶん森の奥までやってきていました。
「しかたがない、ここらで、引き返すとするか」
そうつぶやいたとき、空から、ちらちらとゆきがふってきました。
しばらくすると、ゆきはだんだんと、はげしくなってきました。
かりゅうどは、じぶんがつけてきた、足あとをたよりに引き返えしていきました。ところが、ゆきがあまりにひどいので、すっかり足あとは消えていました。
「よわったな、どちらへいけばいいのか、わからなくなってしまった」
やがて、ゆきは、ますますひどくなり、1メートルさきも見えなくなりました。
かりゅうどは、すっかり道にまよってしまったのです。
「しかたがない。ゆきがやむまで、あの木のしたで休むことにしよう」
かりゅうどは、木のしたにすわりこむと、ひたすら、ゆきがやんでくれるのを待っていました。
身をきるような寒さに、かりゅうどは、じっとたえていましたが、ゆきはいっこうに、やむけはいはありません。
もしも、あすの朝まで、ゆきがふりつづいたら、かりゅうどは、ゆきにうもれて死んでしまいます。
「きっと、この森で、たくさんのけものの命をうばった、ばちがあったのかもしれない」
かりゅうどは、そんなことを思いながら、ただじっとすわりこんでいました。
やがて、寒さのために、いしきがもうろうとしてきて、目がかすんできました。
するとそのとき、ふりしきるゆきのなかに、白いきものを身につけた、うつくしいおんなの人のすがたが見えました。かりゅうどは、夢ではないかと、なんどもじぶんの目をこすってみました。
しばらくすると、そのおんなの人は、ゆっくりと、かりゅうどのほうへちかよってきました。
「わたしのあとから、ついてきなさい」
かりゅうどは、そのおんなの人のいうままに、あとからついていきました。
しばらく歩いていたときです。ふと、おんなの人の右足に、ほうたいのようなものが、まきつけてあるのに気がつきました。
(もしかして、このおんなの人は)
けれど、それいじょうのことをかんがえている余裕など、そのときのかりゅうどにはありませんでした。
やがて、森のむこうが、すこしずつ明るくなってきました。そして、ゆきも、さっきよりもよわまってきたようにおもいました。
そのとき、目のまえに、ぼんやりとみずうみが見えました。
「たすかった、いつもとおっている、みずうみだ」
かりゅうどは、うれしそうに、みずうみのほうへかけていきました。
ところが、さっきまで、道あんないをしてくれた、あのおんなの人のすがたが、どこにもありませんでした。
かりゅうどが、ふしぎそうにぼんやりとかんがえていたとき、むこうのみずうみのほとりから、一羽の白鳥が、灰色の空にむかって、すーっととび立つすがたを見つけました。
白鳥は、かりゅうどのほうを一度ふりかえると、北の空にむかってゆっくりととんでいきました。
(自費出版童話集「白馬の騎士とフリーデリケ」所収)
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