2015年8月1日土曜日

でかせぎにでたアイスクリーム

 連日の猛暑で、町の人たちはすっかり家に閉じこもったきり、外へ出てきません。
「今年も、ずいぶんあついなあ」
 公園で、アイスクリームを売っていた屋台のおじさんも、木陰で休み、そのうちうとうと眠ってしまいました。
 空のうえではお日さまだけが、ニコニコと地面を照らしていました。
 屋台のアイスクリームたちは、もうげんかいでした。
「これじゃ、一時間でみんなとけちゃうな」
「だったら、でかせぎにいこうか」
 屋台の車も、
「それじゃ、でかけるか」
といって、かってにのこのこと動き出しました。
 公園を出てから、すぐ道路のそばで、道路工事をしている作業員がいました。
「冷たいアイスクリームはいかがですか」
 汗を流して働いていた作業員は、仕事の手を休めると、
「それじゃ、ひとつもらおうか」
「ありがとうございます。百五十円です」
 すると、仲間の作業員も集まってきて、
「おれたちにも、ひとつくれよ」
といってみんな買ってくれました。
「ありがとうございます」
 お金を空き缶に入れてもらって、屋台の車はまたのこのこと動き出しました。
 国道を歩いて行くと、大きな池のある場所までやって来ました。池のまわりでは、日傘をさして魚釣りをしている人たちがいました。
 釣り人が屋台に気づいて、
「おーい、ひとつくれないか」
と声をかけてきました。
「ありがとうございます。百五十円です」
 すると、まわりの釣り人たちも、
「おれたちにも、ひとつくれよ」
とみんな声をかけてきました。
 屋台の車は、池のまわりを一周して、アイスクリームを売りました。
 そしてまた道路に戻ってきました。しばらくいくと、農家の畑のそばを通りました。
 お百姓さんが、汗をかきかきトウモロコシの手入れをしていました。
「冷たくておいしいアイスクリームいかがですか」
 声をかけられたお百姓さんは、
「おっ、うまそうだな。でもいまお金もってないからトウモロコシでもいいか」
「いいですよ。ありがとうございます」
 屋台の上にトウモロコシを何本か入れてもらって、また動き出しました。
 となりに、スイカ畑がありました。お百姓さんがスイカの手入れをしていました。
「おいしいアイスクリームいかがですか」
 そのお百姓さんも汗を流して働いていたので、
「じゃあ、ひとつもらおうか。でもお金がないからスイカでもいいか」
「いいですよ。ありがとうございます」
 お百姓さんにスイカを入れてもらってまた動き出しました。
 となりにも、トマトとピーマンとナスを作っている畑がありました。
「冷たいくておいしいアイスクリームはいかがですか」
そのお百姓さんも仕事の手を休めると、
「じゃ、ひとつくれないか」
「ありがとうございます」
 トマトとピーマンとナスを入れてもらってまた屋台の車はのこのこと動き出しました。
 農家を過ぎてから、しばらく歩いて行くと、小さな駅のそばを通りました。自転車でサイクリングを楽しんでいる人たちが、木陰で休んでいました。
 屋台の車を見つけると、
「おっ、うまそうだな。みんな食べようか」
 サイクリングの人たちも、アイスクリームを買ってくれました。
 そのとき、駅に電車が到着しました。
 ホームから声が聞こえてきました。
「おーい、アイスクリームひとつ、くれないか」
 電車の乗客でした。
 屋台の車は、のこのこと改札口の所まで行きました。
乗客が降りてきてアイスクリームを買ってくれました。
「ありがとうございます」
 すると、ほかの乗客たちも、
「おれにも、ひとつ」
「わたしにもひとつ」
といって、みんな降りてきて買ってくれました。
 アイスクリームはぜんぶ売リ切れました。
「ありがとうございます。完売です」
 電車は汽笛を鳴らして、次の駅に向かって走って行きました。
 屋台の車は公園へ帰ることにしました。Uターンして公園に向かって動き出しました。
 でも屋台からは、もうアイスクリームたちの声は聞こえてきません。そのかわり野菜がゴロゴロと動く音と、空き缶の中からチャリンチャリンというお金の楽しい音が聞こえてきます。
 公園へ戻って来ると、おじさんは木陰で、まだすやすやと眠っていました。
 屋台の車が一服していると、おじさんが目を覚ましました。
 おじさんは、屋台を見て驚きました。アイスクリームは全部売り切れていて、そのかわり、たくさんの野菜やスイカが積んであるのです。それに空き缶にもちゃんとお金が入っていました。
「いやあ、ふしぎなこともあるもんだ」
 おじさんは、わけがわからないまま夕方になったので、屋台を引っ張って帰って行きました。


(文芸同人誌「青い花第25集」所収)


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