2015年8月4日火曜日

回転木馬の夢

 だれもいなくなった夜のゆうえんちです。回転木馬は、みんなすやすやと眠っていました。
 すやすや、すやすや。
 しばらくしたとき、一頭の木馬が目をさましました。
「ああ、きょうもよくはたらいたなあ」
 木馬は、うーんと、のびをしました。
「だけど、まいにちここにいるだけじゃ、つまらないや。どこかへさんぽにいきたいなあ」
 そのとき、空のうえから声がしました。
「ぼくが、つなをといてあげようか」
 声をかけたのは、夜空に輝くひとつの星でした。
「ほんと、じゃ、といてよ」
 すると、つながれていた首のひもがはずれて、木馬は自由になりました。
「わあ、ほんとうだ。うれしいな」
「朝までにはかえっておいでよ」
「うん、やくそくするよ」
 木馬は、そのばから出て行きました。
 カッタコト、カッタコト、
 やがて、町の公園へやってきました。
公園のなかには、ともだちの木馬たちが眠っていました。
「みんな起きて、ぼくと遊ぼうよ」
 木馬たちは、目をさますと、
「だめだめ、ぼくたち、みんなつかれているから。きょうは、たくさんこどもたちが遊びにきたからね」
「ああそうなの、つまんないな」
 木馬は、公園から出て行きました。
 そして、町の商店街へやってきました。いっけんの洋服屋さんのショーウインドーのなかに、かわいい洋服を身につけた、こどものマネキン人形が眠っていました。
「ぼくとさんぽにいかないかい」
 マネキン人形は、目をさますと、
「だめだよ。ここからでられないもの」
 木馬は、がっかりしましたが、
「だったら、ぼくが、そこからでられるようにしてあげるよ」
といって、夜空を見上げました。
「お星さま、おねがいします。マネキン人形くんを、外へだしてあげてください」
 すると、ひときわきらりと星が輝いたかとおもうと、木馬のせなかに、マネキン人形がのっかっていました。
「わあ、おどろいた。お星さまありがとう」
 そして、木馬は、マネキン人形をのせてはしり出しました。
 カッタコト、カッタコト、
だれも歩いていない商店街をはしりながら、マネキン人形もうれしそうです。
「ヤッホー、きもちいいな、ヤッホー、ヤッホー」
 そして、木馬は、商店街をとおりぬけると、大きな橋がかかっている町外れの河原へやってきました。
 木馬は、のどがかわいていたのか、川の水をゴックン、ゴックンとおいしそうにのみました。
「ああ、つめたくておいしいや」
「ねえ、こんどはどこへ行く」
「じゃ、こんどはあの橋をわたってとなり町の公園へ行ってみようか」
「うん、いいよ」
 木馬は、またはしり出しました。橋のそばに踏切があり、そこを通ってしばらく行くと公園が見えてきました。
 公園のなかに入ると、キリンやぞう、それにカバやクジラのかたちをしたすべり台がありました。
「あのすべり台からおりてみないかい」
「うん、いっしょにおりてみようか」
 木馬とマネキン人形は、すたすたとすべり台の階段をのぼって行きました。そして、なんかいもすべり台からおりて遊んでいました。
 一時間も遊んでいると、やがて引き返すことにしました。
踏切の前までやってきたときでした。突然、踏切のけいほう機が鳴り出しました。木馬はおどろいた拍子に、鉄道せんろに、足をつまずかせてしまいました。
「わあ、たいへんだ。足がせんろにはさまって、ぬけなくなっちゃった。どうしよう、どうしよう」
 やがて、やこう列車が、すごい音をたてながら向こうからはしってきました。
 ガッタンコー、ガッタンコー、
 みるまに、列車は近づいてきました。
「だれか、たすけてー」
 木馬と、マネキン人形は、どうすることもできずに、ただじっとしたまま目をつむっているだけでした。
「ブーーーブーーーブーーーーー!」
 やこう列車は、汽笛を鳴らしながらせまってきました。
そのときでした。耳もとで、だれかの声がきこえました。
「もうとっくに朝だよ。ゆうえんちは、はじまってるよ」
 そう声をかけたのは、となりにいる木馬くんでした。
「なんだ、ぼくは夢を見てたのか」
 木馬は、目をこすりながら、にぎやかなゆうえんちのなかを見わたしました。
やこう列車の汽笛だとおもっていたのは、ゆうえんちのなかを走っている、おもちゃの電車の汽笛でした。
 木馬は、よく晴れた青い空を見上げました。
そこには夢のなかで見た、あの星のすがたはありませんでした。そして、マネキン人形のすがたもどこにもありませんでした。
 しばらくすると、向こうからたくさんのこどもたちが、木馬たちの方へはしってきました。






(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)


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