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1か月が経過し、新聞やニュースでは新たな女布の事件のことは報じられなかった。警察も矢原のところへはやって来なかった。
矢原もそれまでドローンを飛ばすことを躊躇していたが、気も緩んできたのか飛ばしたい衝動にかられはじめた。
ある日、非番の日に、福知山市へ行くことにした。さすがに舞鶴では人目が気になって飛ばすことが出来なかった。舞鶴から1時間も離れた福知山市なら平気だと思ったからだ。昨年も夏に、福知山市へ行き、宮津市方面へ流れている由良川の映像を空から撮影したことがあった。
舞鶴市から福知山市へ行くには国道27号を主に利用する。途中の綾部市内から国道を右折して行く道と、綾部市内から農道を通っていく道がある。府外の車はこの農道を知らない。隣市の車はどれも農道を使って福知山市へ行く。信号機が少なく、この農道を使えば15分ほど短縮できるからだ。
福知山市に入ると、すぐに福知山城の天守閣が見えてくる。この城は戦国時代に明智光秀によって建てられたものだが、明治時代に取り壊されたため、昭和に入ってから再建された。市内の中心部にあり、小高い丘の上に建っている。内部は資料館で見物客も多い。
外堀の東側に駐車場があり、そこに車を止めた。平日なので車は少なく、シルバーのスプリンター、ブルーのトヨタアリオン、その他数台だけ停まっていた。
外堀の歩道にドローンを置いて飛ばすことにした。遠隔操作だから離陸してしまえばモニター画面を見ながら操縦できる。撮影しながらドローンを40メートルの高さまで上昇させて福知山城の外観から撮影した。天守閣へ行く登り道には見物者たちの姿も見える。
途中の休憩所を見ていた時だった。自然に目が止まった。ジュースの自動販売機がある休憩所のベンチにアベックが座っていた。男は30代後半くらい、女性は20代後半だった。夫婦だと思ったが、男の顔を見て驚いた。
「あの男は、女布の栗林にいた人物ではないのかーー」
服装は違うが、帽子は黒色で顔つきがそっくりなのだ。
気づかれたら大変なので、ドローンを天守閣の後ろ側へ移動させた。その人物を気にしながらも30分ほど福知山城の外観を空から撮影した。でも撮影しながらさっきの休憩所の男のことが頭から離れなかった。また事件でも起きそうな気がしてならなかった。そのうちにバッテリーも残り少なくなってきた。
「今日はこれで帰ろう」
ドローンを着地させて車に積んだ。
東舞鶴のアパートに帰ってきて、夕食を済ませ、お風呂にも入った後、カメラで撮影した映像を観ることにした。福知山城の外観がよく撮れていた。必要な部分と不必要な部分を切り取りながら動画編集を行った。ある個所に男の映像があった。動画を止めて画像を作り、拡大して確認した。目が釘付けになった。
「やっぱりあの男だーー!」
映像を何度も見ながら女布の栗の林の画像と見比べた。間違いない確かに同じ人物なのだ。でもどうして福知山城にいるのだ。そこで何をしていたのであろうか。いろんな空想が浮かんできた。再び事件が起きそうな予感がした。同時に自分がその場所にいたことも気になった。しかも俺はドローンを飛ばしていたのだ。よりによって見物客が多くいる場所でー。
俺はその男のことよりも自分自身のことが心配になってきた。今回の行動も失敗だった。
「何事もなければいいが……」
1週間が過ぎたある日のことだった。その日は日勤だった。昼になり事務室で昼飯を食べていた時、テレビで、福知山市の20代後半の女性が行方不明になっているニュースが流れた。舞鶴市の女性殺害死体遺棄事件との関連性が疑われるので警察は直ちに捜査を開始した。女性が行方不明になったのは1週間前である。
矢原譲吉の脳裏に、女布の栗の林の中で遺棄された綾部市の女性のことがふと浮かんだ。
「まさか、この事件もあの男の犯行ではないのかーー」
その時事務室の外で声がした。
「オイル交換お願いします」
ニュースに釘付けになっていたので、客が入ってきたことがわからなかった。
「あ、はい、いま行きますーー」
矢原譲吉は事務室を出ると、慌てて作業をはじめた。その後も次々に車が入ってきた。だからしばらくの間ニュースのことは忘れてしまった。
数日後、車の定期点検のため、行きつけのカーショップへ行った帰りだった。いつもの国道を走っていた時交差点に差しかかった。青信号から黄色信号に変わろうとしたので急いで左折して交差点を抜けた。ところがしばらくして後ろから拡声器の音が聞こえた。
「前の車止まりなさい」
驚いてバックミラーを見ると、パトカーがすぐ後ろをついてきた。指示されて国道の左側の空き地に車を止めた。警官が降りてきてそばに来た。ウインドウガラスを開けると警官は言った。
「横断歩道に通行人がいたことを知っていますか。通行人が渡ろうとしたが、あなたは停止しなかった。歩行者横断妨害違反です。免許証を見せてください」
警官に指摘され、横断歩道に人がいたのは知っていたが、信号が黄色に変わったので、急いで交差点を抜けたと説明した。しかし違反だと言われれば仕方がない。警官がパトカーに戻って違反切符を書いている間待つしかなかった。
違反切符をもらってエンジンをかけようとしたとき、警官が止めた。
「すみませんが、車の写真を撮らせて下さい」
「なぜですか……」
警官は答えた。
「最近発生している殺人事件の捜査で、ダークブルーの乗用車をすべて調べています。ご協力下さい」
胸がドキンとした。嫌とも言えず了解した。
写真を撮るとパトカーはその場を去っていった。
パトカーがいなくなって家に戻ったが、写真を撮られたことによって、ますます心配になった。夜は不安でなかなか眠れなかった。(つづく)
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