2019年10月30日水曜日

歩く雲

  真夏の暑さで、頭がぼーっとしていたのだ。エアコンのない蒸し風呂のような部屋で昼寝をしてたら、巨大な雲が地面まで足を伸ばして町の中を歩いていた。形はクモそっくりだった。
「どこへいくんだろう」
 窓からじっと見ていたら、雲と目が合った。「まずい」
 雲が家に近づいてきた。大きな身体で家に覆いかぶさった。
 家がガタガタ揺れた。周りは何も見えない。そのまま雲の中へ家ごと吸い込められた。
「大変だ。逃げよう」
 でも地面まで50メートルの高さはある。飛び降りることはできない。
 そのうち雲は歩き出した。山の方へ歩いて行った。
 家が傾斜しているので山を登っているのが分かった。雲の中で揺れながら周りがひんやりしてきた。やがて頂上へやってきた。ドカンと音がして山のてっぺんに家を置いた。
 雲の中から誰か降りてきた。
「コノイエ ドウスルツモリダ」
「ナカヲシラベタイ ナニカアルニ チガイナイ」
 その声は宇宙人だった。
 二人の宇宙人が玄関の戸を開けて入ってきた。おれは押入れの中へ隠れた。
「ダレモイナイミタイダ」
「キタナイ ヘヤダナ。ゴミダラケダ」
 宇宙人たちは、タンスの中を開けたり、机の引き出しを開けたり、何か探している。パソコンを見つけると電源を外して運び出した。
「コレヲ アトデシラベヨウ」
 宇宙人たちは、ほかに何もないのがわかると家から出て行った。
 山のてっぺんに洞穴があり、宇宙人たちが入っていった。おれもあとからついていった。
 洞穴の中にエレベーターがあり、地下はずいぶん深かった。この山の内部は宇宙人たちの秘密基地だった。
 地下にいろんな部屋があり、どれも倉庫だった。町から盗んできた物がたくさん入れてあった。
 廊下の向こうから宇宙人が歩いてきた。
「アシタ ガソリンヲウバイニイコウ。キュウユガオワッタラ イヨイヨキカンダ」
「ナツカシイホシヘ カエレル」
 翌日、雲の宇宙船は町へ行ってタンクローリーを10台くらいうばってきた。
 すぐに宇宙船にガソリンを給油してエンジンをかけた。
「宇宙へ逃げるつもりだな。町へ行ってみんなに知らせよう」
 急いで山を降りてみんなに知らせに行った。でもだれも信じてくれなかった。
 途方に暮れていると、空の上をクモの形をした宇宙船が空の彼方へ飛んで行った。
宇宙船の窓から二人の宇宙人の顔が見えた。
 そのとき目覚まし時計のベルが鳴った。
「変な夢をみたものだ。さあ、バイトへ出かけよう」
  勤めている近くのガソリンスタンドへ歩いて行った。今日は遅番だった。



(オリジナルイラスト)


(未発表童話)





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