2017年11月21日火曜日

楽器が好きなこども

 楽器が大好きなこどもがいました。
ハーモニカやリコーダーはもちろんのこと、キーボードやギターもじょうずに演奏することができました。
 ある日、町にマーチングバンドがやってきました。
楽員たちは、真っ赤な制服と帽子をかぶり、ピカピカの楽器を持っていました。
 バトンを持った楽長を先頭に、ジョン・フィリップ・スーザの「ワシントン・ポスト・マーチ」や「キング・コットン・マーチ」を演奏しながら歩いていました。
 男の子もランドセルの中からリコーダーを取り出してあとからをついて行きました。
大通りを歩いてから、次は繁華街を通り、大きな公園のそばまでやってきました。
「みんなどこまで行くのかな」
男の子はぼんやり考えながら歩いていました。
 やがて大きな鉄橋が見えてきました。そのうちに空からぽつり、ぽつりと雨が降ってきました。
「みんな、鉄橋の下で休憩だ」
 楽長の指示で、みんな鉄橋の下へ大急ぎで走って行きました。
雨はまたたくまに、どしゃぶりになりました。
 鉄橋の下で雨宿りをしながら、男の子は楽員たちに話しかけました。
「おじさんたちは、どこまで行くの」
「知らないなあ。行先は楽長だけが知っているよ。世界一周するかも知れないな」
「じゃあ、どこまでも一緒について行くから」
「ああ、いいよ。ついてきなよ」
話をしていると、やがて雨は上がりました。
「では、出発ー!」
 楽長の合図で、マーチングバンドはまた演奏しながら歩きだしました。
 川沿いの道を歩いていると、陽が射している雲の切れ間から、きれいな虹が見えました。
 不思議なことに、虹の橋の先っぽが、川のそばまでたれていました。
「今度はあの虹の橋を渡って行こう。それから雲の上を歩いて行くんだ」
 バトンを振っている楽長のあとを追って、マーチングバンドはついて行きました。男の子も一緒について行きました。
 やがてマーチングバンドは虹の橋を渡りはじめました。
しばらくのあいだ、空からは楽しい演奏が聴こえてきましたが、やがてみんな雲に隠れて見えなくなってしまいました。











(自費出版童話集「本屋をはじめた森のくまさん」所収)
 




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