2017年10月19日木曜日

気の弱い殺し屋 

 江戸の町に殺しを業務とする店があった。表向きの商売は研ぎ屋であった。
 ある日、殺しの仕事が入り、だれが引き受けるか親方の家にみんな集まった。
「明日の晩、越後屋のバカ息子を斬る。太郎兵衛、おぬしに任せる」
「あっしがですかい。きのうこちらへ来たばかりです」
「初仕事だ。がんばってみい」
「刀が研いでありません」
「今夜のうちに研げる」
「まだ人を斬ったことがありません」
「だから、お前にまかすのだ」
「場所がよく分かりません」
「いまから確認してこい」
「向かってきたらどうしましょう」
「そのときは頭を使って対処しろ」
 問答が続いたあと、とうとう行くことになった。
 翌日の晩、親方が太郎兵衛の帰りをじっと待っていると、越後屋の主人が尋ねてきた。
「ごめん。尋ねるが。息子に斬れない刀を売りつけたのはお前とこの店員か」
「え、売りつけた?」
「そうだ。研ぎ方が下手くそで、ぜんぜん斬れんといっている」
 主人が帰ってから太郎兵衛が戻ってきた。
「親方、すいません。越後屋の息子が2メートルもある大男だなんて聞いてなかったもので、頭を使って逃げてきました」









(未発表童話です)




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