バス会社のガレージの中で、タイヤたちがこんな話をしていました。
「今日は雨がひどくってずいぶん苦労したけど、明日は雪が降るんだってな」
となりのタイヤが、
「じゃあ、そろそろ冬用タイヤと交代だ。やっと休暇がもらえるな。夏の間ずいぶん走ったので、あちこち痛くてしょうがない。冬の間に十分休息をとって春からまた元気に働こう」
その夜、バスのタイヤは取り換えられました。天気予報で雪だということです。
冬用のタイヤは、夏の間休んでいたのでやる気満々です。
「よおし、これからはおれ達の出番だ。みんな頑張って働こう」
バスも、冬用タイヤに取り換えてもらってニコニコ顔です。
翌朝は、天気予報どおり雪でした。除雪車が駐車場の雪を取り除き、バスたちは出て行きました。ガレージの中では、夏用のタイヤたちが昼寝をはじめました。
あるタイヤは、こんな夢を観ていました。ある小学校の前を通ったときです。
もうとっくの昔に、引退したバスやタクシーのタイヤが、赤や黄色や緑色に塗装されて、校庭の土に埋められていました。校庭では子供たちが野球の練習をしています。
タイヤの上に子どもたちがたくさん座って観ています。
「ああ、あれが引退したタイヤたちの第二の人生か。おれも引退したら、あんなところでのんびり野球を観ていたいなあ」
となりで眠っているタイヤはこんな夢を観ていました。
波の音がジャブン、ジャブンと聞える港でした。
船着き場のあちこちに、ロープに吊るされたタイヤたちが並んでいました。みんな水平線の向こうからやってくる船を観ています。
「あの船は、ロシアの船だ。木材をたくさん積んできたんだ。一週間はこの港に停泊するな」
「うしろにいる大型の船は、フェリーだ。明日の夕方には出港してしまう」
しばらくすると、2隻の船は、船着き場に無事に到着しました。
船着き場のタイヤたちは、船が揺れて船体が傷つかないようにしっかり支えています。
ちょっと苦しそうですが、やってきた船と話をするのがみんな楽しみでした。
「海は荒れなかったかい」とか、「天気は良かったかい」とか話を聞きました。
船たちもニコニコ笑って
「おかげで航海中はシケなかったよ」
「いい天気だった。雨も降らなかった」
とか答えていました。
夕方になり、バスたちが仕事から帰ってきました。
「ふー、疲れた。明日は大雪だっていうから、今度はチェーンを巻くっていってたな」
「あれを巻かれると、きつくって嫌だけど、仕方がないな」
外では、除雪車が積もった雪を一生懸命に取り除いていました。
今頃は、小学校の校庭に埋められた塗装されたタイヤたちも、船着き場のタイヤたちも、みんな雪で真っ白になっているでしょう。
(未発表童話です)
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