砂漠の真ん中にオアシスがあって、ひとつの井戸がありました。
その井戸には、いつも冷たい水が溢れていて、ラクダに乗った商人が飲んでいきました。
あるとき井戸はこんなことを考えました。
「みんないつもタダで水を飲んでいくけど、一度もお金をくれたことがない。それはまったくけしからんことだ」
井戸は、それからは、(お水いっぱい1000円)と書いた立札を立てておきました。
立札を見た商人たちは困りました。
「いやあ、これからはお金を取られるのか」
つぶやきながら、みんな仕方なくお金を払っていきました。
あるとき、一台のジープが砂煙をあげて猛スピ-ドでやってきました。ジープにはアルカイダのメンバーが乗っていました。みんな立札なんかぜんぜん無視して、ガブガブと水を飲んでいました。
「飲み終わったら、お金を入れてください」
井戸がいうと、みんな凄い目付きで睨みながら、
「何だと、金を払えだと」
といって機関銃をつきつけました。
井戸は震えあがりました。
「結構です。お金はいりません。好きなだけ飲んでいってください」
井戸は商売するのは楽ではないとそのとき実感しました。
ある日、よろよろのラクダを連れた坊さんがやってきました。喉がからからだったので、さっそく井戸の水を飲もうとしました。
「お金を払って下さい」
井戸がいうと、坊さんは、
「金なんかないよ。かわりにこのラクダをやるよ」
よろよろのラクダをもらっても仕方がないので、
「いらないよ」
「じゃあ、このアラーのお守りをあげるよ。わしの寿命はもう長くないから、困ったときに願い事すればかなうから」
そういって、坊さんは水を飲んでしまうと、どこかへ歩いて行きました。
ある日、井戸は、昼寝をしながら、「水だけじゃなくて、よく冷えたビールが地下から出て来たら、もっと金儲けができるなあ」と夢を見ていました。
目が覚めると、井戸の底からぷんぷんといい匂いがしてきました。
「ありゃ、ビールの匂いだ。それによく冷えている、願い事がかなったのかな」
それからも、夢の中で、野菜ジュース、青汁、オレンジジュース、リンゴジュース、コーラ、カルピス、アイスコーヒーなんかも空想していると、地下からそれらの飲み物が出てきました。
その噂は、すぐに砂漠中に広がりました。
毎日のように、商人たちや旅人がやってきて、いろんな飲料水が出てくる不思議な井戸を訪れました。ときどき盗賊やアルカイダのメンバーなどもやってくることもありましたが、その井戸は大変なお金持ちになりました。
ある日、井戸は人間になって、町のお祭りに行きたいと願いました。
すると、とっくに商人になって、ラクダに乗って歩いていました。
町へやってくると、たくさん酒場があり、10軒ほどハシゴをしました。
「次はどこへ行こうかな。そうだ、ベリーダンスを観に行こう」
そういって、賑やかなベリーダンスのお店に入りました。
おへそが見えるキラキラ輝いたおしゃれな衣装を身に着けたダンサーの踊りを観ながら、井戸は大変ご機嫌でした。
帰ってきてからも、井戸はたびたび人間になって、町に出かけるようになりました。
(未発表童話です)
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