夜ねむっていると、いびきくんはとつぜん目をさまします。ふだんは、ねむっていてぜんぜん気づかないのに。
「ああ、よくねむった」
そういって、大声をはりあげて歌いはじめます。
ガーガー、ムニュムニュ、ガーガー、ムニュムニュー
その声に、ねむっている人もおどろいて目を覚ますことがあります。
でも、となりでねむっている人は、すごい迷惑です。
「ああ、またおこされた」
そういって、耳栓をつけます。
いびきくんは、まったく人にすかれません。
「ここじゃ、気持ちよく歌えないな」
そういって、こっそり、家を出て行きました。
夜道をあるきながら、いびきくんがやってきたのは、一棟のマンションです。
階段をのぼっていくと、友だちのいびきくんの声が聞えてきます。
鍵穴からすーと中へ入ると、
「やあ、いい声だね。散歩にいかないかい」
「いいな。じゃあいこうか」
ふたりで出かけていきました。
橋の下をあるいていると、みすぼらしいダンボールの小屋から、
ガーガー、ムニュムニュ、ガーガー、ムニュムニュー
覗いて見ると、ホームレスの人が眠っています。
「きみも、散歩にいかないかい」
そのいびきくんもついてきました。
次に行ったのは、キャンプ場でした。
テントの中から、いびきくんの声がきこえてきます。
覗いてみると、男の人が酔っぱらって眠っていました。まわりにはビール缶がたくさん転がっていました。
「散歩に行かないかい」
「いいよ。行こう」
別のテントにもいって、
「散歩に行こうよ」
みんなついてきました。
歩きながら、いきびくんたちは大声をはりあげて歌いました。
駅の前を通ったときです。待合室からもいびきくんの声がしました。
「散歩にいかないかい」
「ああいいとも 行こう」
みんなで大きな声で歌っていると、交番のお巡りさんが聞きつけてやってきました。
「すごい騒音だ。全員逮捕だ」
お巡りさんに追いかけられて、いびきくんたちがやってきたのは山の洞穴でした。
真っ暗な洞穴の中へ入って行くと、みんな走り疲れて眠くなってきました。みんな眠りはじめました。
ところが、洞穴の中では、びんびんといびきくんたちの声が跳ね返ってきます。
「うわあ、うるさくて眠れない」
いびきくんたちは、やっとわかったみたいです。みんな家に帰って行きました。
それからは、夜はあまり大声で歌わなくなりました。
(未発表童話です)
0 件のコメント:
コメントを投稿