公園でかき氷屋をはじめた男の人が、お客がぜんぜんやって来ないので困っていました。
「ああ、毎日こんな調子だったら、この商売も失敗だ」
ある日、どこかの工業大学の助教授がやってきました。
「いいもの発明したので、これを試しに使ってくれないか。かき氷買ってあげるから」
助教授は、アルミで出来た小型の乗り物を見せてくれました。
「いいですよ。使ってあげましょう」
「一ヶ月使って、結果を話してください」
言い終わるとすぐに帰っていきました。
それは湯船くらいの大きさの変な乗り物でした。
座席の手前に、レバーが付いていたので引いてみると、
グウーーーーーン グウーーーーーン
すごい音がして、周りの景色がぼんやりして身体が宙に浮かんでいました。
そして屋台ごと、どこかへ飛んでいきました。
気が付くと、五十年前の広い砂漠の真ん中にいました。
「ひえー、アフリカの砂漠だ」
向こうからラクダに乗った商人がやってきました。
「かき氷くれないか」
「はい、一個100円です」
商人は、10個買ってくれました。
しばらくするとまた砂漠の向こうから別のキャラバンの一隊がやってきました。
「かき氷くれないか」
「はい、100円です」
そのキャラバンの一隊もたくさん買ってくれました。
「いや、よく売れるな。売り切れだ」
男の人は、家に戻ってくると、たくさん商品を仕入れて、またアフリカへ行きました。
そして、すぐにかき氷は売り切れました。
「これだったら、南極や北極へ行って、おでんも売れるな」
思いつくと、今度は、おでん屋も兼業することになりました。
これも大当たりで、むこうでもよく売れました。アラスカへも行って、エスキモーの部落でもたくさん売れました。
「よかった、よかった」と男の人は喜んでいましたが、ある日、百年前のアフリカのジャングルでアイスクリームを売っていた時、予想外のことが起きたのです。
あまり頻繁にレバーを回しすぎて、レバーが根元から折れてしまったのです。
「困ったな、早く修理しないと家に戻れない」
男の人は、汗を流しながら修理をしましたが、ぜんぜんうまくいきません。数日たっても直りません。それでも死に物狂いで作業を続けました。
「もし直らなかったら、このままジャングルで、ターザンのように暮らさなければいけない」
男の人はそんなことを呟きながら、修理を続けました。
一ヶ月後、公園ではあの工業大学の助教授がやってきて、男の人が戻ってくるのをいらいらしながらじっと待っていました。
(未発表童話です)
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