2019年8月11日日曜日

短編小説 泳ぐ手

 その不思議な事件はある港町で起きた。事件を起こした人物は今姿を消している。どこにいるのかわからない。死んでしまったのかもしれない。事件はある静かな夜に起きた。       その夜、海辺の町の海岸局がSOSの信号を受信した。北15マイルの海域を航行中の貨物船からだった。
SOS 救助を求む。船底に強い衝撃、沈没の恐れあり。現在位置は、北緯35度58分、東経135度42分」
 無電を受信した海岸局は、直ちに海上保安庁に連絡し、巡視船が出動してその海域を捜索した。数時間後、乗組員2名が浮き輪にしがみついているところを発見された。
 ひとりは意識を失っており、もうひとりは重症だが話すことが出来た。
 海上保安本部で事情聴取が行われた。
 救助された乗組員の話によると、当日の深夜、暗い海中から巨大なものが現れて船を海中に沈めたと話した。
「信じられん、いったい何だろう」
 救助された乗組員は、そのときの状況を詳しく話したが、潜水艦などではなく巨大な生き物だと確信を持って話した。走っている船の船底をつまんで沈めたといった。
「姿は見ていません。どんな生き物かわかりません」
 意識が戻ったもう一人の乗組員に聞いても同じ答えだった。
 数日後、沈められた船が海底で発見された。3千トンの小型貨物船で、船体にほとんど損傷はなく、そのままの状態で沈んでいた。
「わからない。なんの目的でこんなことをしたのだ」
 2週間後、新たな事件が起きた。今度は、陸地から離れていない湾の中だった。停泊中の貨物船が沈められたのだ。深夜0時頃、外に出ていた民家の人が気づいた。
「不思議な光景でした。船が勝手に海の中へ沈んでいきました」
 翌日、沈んだ船は引き上げられたが、船に損傷はなかった。乗組員の多くは脱出できたが、数名は溺死した。
 大がかりな捜査が開始されたが、この怪事件も解明されず迷宮入りとなった。この海を航行する船はみんな恐怖に怯えていた。
 それからひと月後、沖合12マイルの海域を航行中のフェリーが夜、船底に異常を感じた。
 ゴツンという大きな音がして、船が一時的に海の中へ引っ張られだのだ。
 船長は船客の安全のために、船員に指示を出して救命ボートの準備をさせた。
 だが、その異常事態は一度だけで大事には至らなかった。後の調査ではフェリーは1万5千トンの大型船で沈めるには大き過ぎるためだったと結論づけられた。
 そのニュースはマスコミにも取り上げられ、テレビやラジオなどでさかんに報道された。
海の専門家が集まって、いろいろと議論したが、原因は分からずみんな頭を抱える始末だった。
 これらの事件が起きる一年前のことである。ひとりの科学者がこの海辺の町に引っ越してきた。二階建ての木造の家を借りて住んでいた。
いつも窓のカーテンを閉めて何かの研究をしていた。道で人に出会ってもあいさつもしない変人で、近所の人は誰もその家に近づかなかった。
 科学者は、数か月前から片手に包帯を巻き、研究をすることもなく毎日テレビのニュースばかりを観ていた。
 科学者はそれまである研究の完成を急いでいた。その研究は彼のライフワークで10年近くもそれに没頭していた。
 薬品製造会社の研究室で働いていたとき、面白半分に薬品をいろいろ調合し、自分の部屋のコーヒーの木に水に混ぜで与えていたとき、成長が早いことに気づいた。それに出来た豆も3倍以上に育った。そしてさらに薬品を改良すると10倍以上になった。
 科学者は生物を巨大化させる薬品の開発に夢中だった。
 科学者は実験場所を移すことにした。都会では思うように実験が出来ないからだった。科学者は薬品製造会社も辞めてしまった。
「人に見られない場所に引っ越そう。静かな海辺の町がいいだろう」
 ある日、実験器具を車に運んで家を引っ越して行った。
 新しい家でさっそく薬品の実験を続けた。はじめはすべて植物を使った実験だった。だが植物を巨大化できるのなら魚や動物も可能ではないかと科学者は考えた。
ある日、水槽に魚を入れて短時間で巨大化させる実験に取り掛かった。確信はあった。手元にノートを置いて実験を記録していった。
ところが意外なことが起きた。それはまったく不注意なことだったのだ。
 興奮していたので水槽の中へ、薬品をスポイドで数滴入れようとしたとき、手が震えて薬品の入った瓶を片手にこぼしてしまったのだ。
「まずい!」
 そう叫んだときは遅かった。手が急激に大きくなった。すぐに手は身体の半分くらいになり、このままだと手を支えきれない。とっさに危険な考えが浮かんだ。
「手を切り落とそう。それしか方法がない」
 実験室の棚に電動ノコギリがあったので、コードをコンセントに差し込んで激痛をこらえながら手首を切り落とした。血が部屋中に飛び散った。あまりの激痛とショックのため意識を失いかけたが、タオルを巻いて手首をきつく縛った。
 実験室の中は血の海となり、科学者はもがき苦しみながら床に横たわっていた。
 しかし科学者は奇跡的に命を救われたのである。電話がかかってきたからだった。
 その電話は保険会社からの契約更新のことだったが、科学者の苦し気な声を聞き、担当者が救急車を手配してくれたのだ。
 救急車がすぐにやってきて科学者は病院に担ぎこまれた。すぐに手術が施され一命をとりとめた。だが数日間は、激痛に苦しんだ。安静になってから医者に手を切り落とした理由を聞かれたが、科学者は何も話さなかった。
 2週間ほど入院したが、ケガが回復するとさっそく家に帰ってきた。実験室は酷い状態だった。実験器具は散らばり、床には血の跡がたくさん残っていた。
 科学者は実験室を元通りに整えると、一番の心配事を考えた。
 切り落とした手を捜さなければいけない。でもどこへ行ったのだろう。家中を捜したが見つからなかった。窓が割れており、庭にもたくさんの血の跡が残っていた。
「勝手に窓から出て行ったのだ」
 庭の草のあちこちに血痕が見つかった。血痕は海岸の方まで続いていた。
 科学者は海岸を一日中探しまわったが、いなくなった手は見つからなかった。
 巨大になった手は、海の中を泳いでいるに違いない。理性も感情を持たない生き物だから、どんな大惨事を引き起こすか分からない。
科学者は翌日も海辺に出て捜し回った。
 そんなある日のこと、テレビで貨物船沈没のニュースが次々に入ってきたのである。
「間違いない。やったのは手の仕業だ」
 科学者は、事件の様子から巨大化した手の大きさを調べてみた。
誤って手に掛けた薬品の量と濃度から生物が何倍に巨大化したのかもう一度計算してみた。頭の中ではおおよそわかっていたが、500倍という答えが出たので改めて驚いた。 
「やっぱりそうか。想像していた以上に大きい」
 科学者はなすすべがなかった。
「被害が広がらないうちに、このことを公表しようか」
 そんなことも考えた。だが、まだ確証がないのだ。
 科学者は少し待つことにした。
「警察に知らせるのは、もう少し待とう」
 だが科学者は毎日落ち着かなかった。逃げた巨大な手は海のどこかに隠れているのである。これからまたどんな事件を引き起こすか分からないのだ。科学者は、毎日車に乗って、巨大化した手を捜しに海岸をあちこち見て回った。
 そんなある日、この海辺の町からあまり離れていない村で、ひとりの漁師が砂浜で網の手入れをしていたとき、海の上に巨大な物が浮かんでいるのを発見した。
クジラかなと思ったが、体色は白い色で、クジラにしては形が変だ。しばらくその場所に浮かんでいたが、やがて海の中へ潜って行った。
漁師は駐在所へ行ってそのことを届けた。でも巡査は信じられない顔で、簡単な調書を取っただけだった。
 しかしその後、沖に出ていた漁船がその白い巨大なものを再び発見したという通報が頻繁に入るようになり、警察と海上保安庁はボートと巡視船を出して捜索をはじめたのである。
警察は村民に安全のため、海に出るときは十分に注意するように呼び掛けを行った。
それから数週間後のことである。
科学者がテレビを見ていると、新たな驚くようなニュースが流れてきた。
それはこの海辺の町の海岸線のそばを走る高速道路に深夜、巨大な手が横切ったという事件だった。これまですべて海の中での出来事だったが、陸でも起きたのである。
数日後には、海辺の町から2キロ離れた山のトンネルの中に、白い巨大な手が歩いているのを通りかかった自動車が目撃した。まるで大蜘蛛のような歩き方で、山の中へ姿を消したと話した。
それからは次々に新たな情報が届けられた。
深夜、海岸線を通っている鉄道線路の上を白い巨大な手が歩いているのを電車の運転手が発見した。急いで急停車したので大事には至らなかったが、乗客の多くが、岸壁を駆け降りて海の中へ姿を消した巨大な手を目撃した。
警察と海上保安庁は、全町民に安全を呼び掛けると同時にこの町を徘徊している巨大な手の行方を必死になって追っていた。
科学者は覚悟を決めた。
「警察にすべてのことを話そう」
翌日、科学者は匿名で警察に電話して一部始終を話した。
警察ははじめまったく信じなかったが、科学者の真剣な話しぶりに了解したようだ。
 数日後、本格的に対策本部が立ち上がった。
 科学者は住み慣れた家を出ることにした。ここに留まっていることはできないのだ。科学者は逮捕されることを恐れた。
「どこか遠くの町へ隠れよう。その間に、巨大化させた手を元のように小さくする研究をしよう。今の私にはそれをすることだけだ」
 科学者は、引っ越しの作業をはじめた。実験器具と家財道具をすべて車に積み込んだ。出て行く前日の夜だった。想像も出来ないような恐ろしい出来事が起きたのである。
科学者が深夜、寝室で眠っていたとき、庭の方からギシギシと不気味な音がして家が大きく揺れたのである。床が揺れて、部屋の物はすべて落ちた。
「地震だ!」
 飛び起きて揺れが収まるのを待っていたが、どうも様子がおかしいのだ。
 驚いて窓の外を見ると顔色が変わり、恐怖に襲われた。巨大な白い手が家を抑え込んでいたのだ。すぐに窓ガラスが割れて部屋の中に中指が入ってきた。
「うわあ!」
 科学者は部屋の中を逃げ回った。巨大な中指は部屋中をはい回り家具や机を壊した。みるまに部屋の中はグチャグチャに壊れてしまった。ベッドから毛布と布団が床に落ちた。科学者は逃げながら、ふと思いついた。
「そうだ、怪物もろとも燃やしてしまえ」
 科学者はライターに火を付けると、その火で毛布を燃やした。火はすぐに燃え広がった。中指は火を避けて外へ逃げようとしたが、散らばった家具に挟まって指が抜けないらしい。
その隙を見て科学者は玄関へ行って外へ出た。瞬く間に火は部屋中に燃え広がり、覆いかぶさった手は悲鳴を上げながら家と共に燃えていった。科学者も酷いやけどをおった。
あたりは火の海だった、近所の人がその様子に気づいて消防車を呼んだ。すぐに消防車が駆けつけて消火作業をはじめた。
1時間ほどで火は消えた。
焼け残った家の上には真っ黒になった巨大な手がだらりと覆いかぶさっていた。
だが科学者の姿はどこにもなかった。ガレージのシャッターが開いており、中は空っぽだった。科学者は車でどこかへ消えたのだ。
翌日、黒焦げになった巨大な手は、クレーンで山へ運ばれて、山の空き地の穴に埋められた。
町は平静さを取り戻した。もう恐怖に怯えることはないからだ。
だがー。
ひと月が過ぎたある真夜中だった。山の上で地響きのような大きな音がした。その音で目を覚ました住民が山へ見に行ったが、周りは暗くて何も確認できなかった。
この山を越えた所に広い湖があった。あるときそこで事件が起きた。湖で釣りをしていたボートが沈んだのである。釣り人はなんとか泳いで岸辺に辿り着いて助かった。
「黒い巨大な物が水の中に見えたと思ったら、ボートを沈めた」と話した。
 再び町は騒然となった。
湖に生息する怪物はその後もたびたび目撃された。警察は、ボートとドローンを飛ばして広い湖を徹底的に調べた。
ある嵐の夜のことだった。湖のほとりに建つ別荘に住んでいる人から通報があった。
「猛烈な風雨の中を黒い巨大な手が湖から這い出てきて、森の中へ消えた」
 通報を聞いて警察が出動した。大人数で山の中を捜し回ったが、怪物の行方は分からなかった。嵐が収まったある日、湖の奥の洞窟に何かが潜んでいるという知らせがあった。 
 警察がその場所へ行くと、湖の洞窟の岩場に大蛇がとぐろを巻くように巨大な手がうずくまっていた。警察はダイナマイトを使って爆破したが、巨大な手は死ななかった。
 なんという怪物だろう。まったく不死身なのだ。警察はどうすることも出来なかった。
 そんなある日、警察署に小包が届いた。行方不明になっていた科学者からだった。
―私が開発したこの薬品を使ってください。巨大化したものを元のように小さくする薬品ですーと書かれてあった。
 いたずらではないにかと鑑識官たちは疑ったが、これを使うしかないので現場へ運んだ。
 ドローンに薬品を詰めて洞窟の中で爆発させた。しばらくすると煙の中から人間の手ほどの焼け焦げた黒い小さな手が洞窟の岩のそばの水の上を泳いでいた。薬品が効いたのだ。焼け焦げた黒い小さな手はガラスの容器に入れられてすぐに鑑識へ運ばれた。恐怖は去った。
 町は再び平静さを取り戻した。

(オリジナルイラスト)


(未発表作品)






2019年7月30日火曜日

絵と詩 夏の海の風景




夏の海にはいろんな色彩のヨット
風がないのでみんないまは停泊中。
スイカとジュースを味わいながら
のんびり海を見ています。

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)





2019年7月20日土曜日

絵と詩 雲の上のコーラス




山の別荘へ避暑にやってきた少女は
散歩の途中、空から歌声が聴こえてくるのに気づいた。
見上げると雲の上で女性コーラスが歌っていた。むかし一緒に歌っていた友達だった。
みんな自分を呼んでいるようで
懐かしそうにじっと聴いていた。

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)





2019年7月10日水曜日

短編小説 幽霊島に不時着

 休日にハンググライダーで海の上を飛んでいた。空を飛んでいると仕事の疲れも取れて気分が最高にいい。
 その日は風もなくさわやかな青空だった。午後から天気が崩れるといっていたので、早めに帰宅するつもりだった。
でも、いつも気になっていた8キロほど離れた小島へ行くことにした。島を一周する時間は十分にあるのだ。燃料も残っている。
 まもなく島が見えてきた。周囲が1キロメートルほどの小さな島で樹木が生い茂っていた。小高い丘の中腹に三階建ての古びた家があった。壁は黒ずんで所々板が剥がれ、まるで幽霊屋敷だ。
「近くに寄って見てみよう」
 高度を下げて、島のすれすれをしばらく飛んでいた。家が気になっていたので、何度も家の周囲を飛んでいた。
「あれ、二階の窓が開いた。誰か住んでいるのかな」
 空き家だと思っていたので、高度を下げてしっかりと確認することにした。
 30分ほど夢中になって家を観ていたので空が曇ってきたのに気づかなかった。
 そのとき突風にあおられて、機体がグラッと揺れた。
「まずい、」
 慌てたせいで、機体を立て直すことが出来ずにそのまま高度が下がり、近くの樹木の中へ突っ込んでしまった。ガシャッ。大きな音がして樹木に宙ぶらりんになった。
「困った。帰れなくなった」
 ベルトを外して、樹木から降りた。
「何とか、機体を地上へ降ろせないかな」
 機体を降ろせさえすれば、なんとか飛ばせるのだ。島の南側は砂浜だった。 
 草の中に突っ立ってしばらく呆然としていた。目の前に屋敷が建っていた。木造のずいぶん古い家だった、
「仕方がない。今夜はこの家に泊めてもらおう」
 雑草が生い茂っている敷地の中へ入っていった。門は開いていた。時計を見ると午後3時だった。夜になるまではまだ時間がある。
 玄関に行ってドアを叩いてみた。誰も出てこない。
「鍵は掛かっているのかな」
 ドアを押すとスーと開いた。
 家の中へ入ってみた。暗くて室内の様子がよくわからない。ぼんやりしていたとき、二階で物音がした。気になったので階段を登って行った。
 二階の廊下を歩いていたとき、すぐそばの部屋のドアが開いた。白い腕が伸びてきて、鈍器のようなもので頭を殴られた。そのまま気を失ってしまった。
 長い時間気絶していたが、目が覚めるとベッドの上で眠っていた。殴られたせいで頭がひどく痛かった。
 ベッドから起きて部屋のドアを開けようとしたが、鍵が掛かっていた。窓も鍵が掛かっている。この部屋は3階だった。窓から庭の様子がよくわかる。雨が降っており風も吹いていた。遠くの方にかすかに陸地が見えた。
「おれを殴った奴は誰だろう。この家の住人かな。でもどうやってこの部屋から抜け出そう」
 やがて夜になった。部屋には照明がなく真っ暗だった。お腹が空いていたが食べるものがない。
 その夜は寝るしかなかった。
 朝になった。窓の外を見ると、雨はもう上がっていた。海の様子もよくわかる。
「カチッ」
 部屋のドアの鍵をはずす音がした。
「だれだ」
 ドアが開いて、全身包帯を巻いたミイラ男が立っていた。恐怖を感じたので窓の方へ逃げた。そのときだった。ミイラ男のうしろから眼鏡をかけた50歳くらいの白髪の男が入ってきた。この家の持ち主だろうか。男はベットのそばの椅子に腰を下ろすと、パイプを取り出して、火を着けて話しはじめた。
「驚いたかね。いつも君が操縦するハンググライダーを見ていた。こんなところへやってくるとは思わなかった」
「あんたは誰だ。どうしておれをこんな所に閉じ込めたんだ」
 男はパイプをくゆらせながら、
「この島の秘密を知られたくないからだよ」
「秘密。どんな」
「それは教えられない。しばらくこの島にいてもらう。食事は毎日運んであげるよ」
 男はそういってミイラ男と一緒に部屋から出て行った。
「なんてことだ。とんでもない所へやってきたものだ」
 どこへも行けず、ただ部屋の中へいるしかなかった。
 それから数日して男がやってきた。
「この前は失礼したね。まだ名前もいってなかった」
 男は名前を名乗ってから話しはじめた。
「実は君に協力してもらいたんだ」
「協力?何をだい」
「私の趣味の手伝いを頼みたいんだ」
「どんな趣味」
「この島で幽霊屋敷の施設を作っているんだ」
「幽霊屋敷の施設?」
「つまりお化け屋敷さ」
 男は数年前からその作業をしており、完成したら陸からお客を呼ぶそうだ。ミイラ男はロボットでほかにも怪奇小説に登場する怪物をたくさん作っているらしい。
「へえ、それは面白そうだ」
「施設はもうじき完成する。出来たら見せてあげよう」
 男の話を聞きながら、なんだか興味が湧いてきた。そんな施設が見られるのなら協力してよいと思った、
「じゃあ、やってみるか。何をするんだい」
「君に頼みたいのは、陸へ行って空からビラを撒いてもらうことなんだ。幽霊屋敷の宣伝をしてもらいたいんだ」
「ビラ撒きか」
「頼むよ」
「わかった協力するよ」
 変わった趣味を持ったその男の手伝いをすることになった。話がまとまるとようやく部屋を出ることを許された。男はいつも地下室へ行って作業をしている。作業場を見学したいといったが、いまはダメだといわれた。仕方なく島の中を散歩したり、木に引っかかっているハンググライダーを降ろして、砂浜へ引っ張っていって整備したり、部屋でぶらぶらしていた。島の中を散歩しているときよくミイラ男に出くわした。自分を見張っているようで嫌な気分がした。
 眼鏡を掛けた男は毎日やってきた。そして作業の進み具合を楽しそうに話した。
 現在は、ロンドン塔の拷問室を真似て作った施設を地下室に建設中だといっていた。
 見学したいといったが、やっぱり断られた。
 でもそんな施設を本当に作っているのかどうか疑わしい。何か別の企みがあるのかもしれない。
 この島へやって来て1週間ほどして変なことに気づいた。窓から見える陸地の位置がおかしいのだ。いつもより西に見えたり、また元の位置に戻ったりするのだ。
「変だな。陸地が動くはずがない」
 ある夜のこと、変な音を聞いて目が覚めた。ベッドの下から大きな機械の音がするのだ。いや、屋敷の地下深くからだ。昼間は聞こえないが、夜になると聞こえてくる。ずいぶん大きな音だ。
「確かめたいな」
  毎日食事は朝と昼と夕方にミイラ男が運んで来る。翌日、昼食を持ってきたミイラ男が部屋を出て行ったあとをつけてみることにした。
 三階の階段から一階まで降りて行くと、ミイラ男は広間の大きな鏡の前に立った。ロウソク台を動かすと鏡が右側に移動し中に通路があった。ミイラ男は通路を歩いて行った。
「秘密の入口だ」
 鏡が閉じないうちに、あとから中へ入り通路を歩いて行った。通路は下へ傾斜し、奥へ行くにしたがって機械の音が大きくなってきた。やがて木造の壁から鉄製の壁に変わってきた。
「工場があるのかな」
 通路はいくつかに分かれていた。それぞれ部屋があるのだ。右側の通路を歩いていくとドアがあった。鍵はかかっていなかった。ドアを開けてみた。
「これはー」
 広い工場の中でたくさんのロボットが働いていた。海中から採取した大きなアイスクリームの形をした細長い棒状のものを鉄製の棚に載せていた。鉄製の棚にはぎっしりそれらが積まれていた。見たことがある。
「あれは、メタンハイドレートだ。メタンガスが凍った資源エネルギーだ。そうかこの島で日本の領海内で採取しているんだ。目的はこれか」
 工場の中はずいぶん寒かった。メタンハイドレートが溶けないように中を冷やしているのだ、
 ドアを閉めて、次の部屋へ行ってみた。ドアを開けてみた。
 そこは機関室だった。大きなエンジンが動いていた。プロペラシャフトが海の中に突き出ており、巨大なスクリューがゆっくり回っていた。機関室の周りの壁は所々ガラス張りで海の様子がよく見えた。
「そうか、この島は人口の動く島なんだ。ああ、あの男はこの国のメタンハイドレートを持っていくのが仕事なんだ。この海の採取が終わったら別の場所へ行くのだ。そのときはおれを始末してハンググライダーを偵察機として使うつもりだ」
 隣の部屋も覗いてみた。海中へもぐる潜水艇が何隻も置いてあった。
「これで海中を調べているんだ」
 すぐに部屋に戻ることにした。見つかったらまた部屋に監禁されてしまう。
 部屋に戻ってこの島から逃げ出すことを考えた。ハンググライダーは砂浜に置いてある。木の枝や草をかけて隠してある。燃料はまだ残っている。
「明日の早朝に逃げ出そう」
 夕食を食べてから眼鏡の男がやってきた。
「昼過ぎにこの部屋へ来てみたが、君はいなかった。どこへ行ってたんだ」
 男は疑わしそうな目つきでいった。
「ハンググライダーにまだ燃料があるかどうか見に行ってたんだ」
「そんな心配はいらない。飛行機を飛ばすくらいの燃料はたっぷりあるよ」 
「いつからビラを撒くのかい」
「もうすぐだ。あと10日ほどで、すべての施設は完成する。そしたらビラ撒きを頼むよ」
 眼鏡の男はそういって出て行った。
「施設が完成したらといったが、メタンハイドレートの採取が終わったら、どこかへ姿をくらますのだ。そのときはまたおれを監禁するつもりだ。さあ、逃げ出そう」
 朝がやってきた。ミイラ男が朝食を持ってくるのは8時半と決まっていた。その前に砂浜から飛び立とう。
 部屋を出て砂浜へ向かった。ハンググライダーはちゃんと木の枝と草を掛けて隠してあった。
 急いでエンジンを掛けた。周り中にエンジンの音が鳴り響いた。
 機体を持ち上げて、ベルトを身体に掛けた。準備はOKだ。
 砂浜を掛けていった。風がないのでなかなか離陸が出来なかった。ふと、林を見たとき、ミイラ男が音を聞きつけてこちらへ向かって走ってきた。
「まずい、早く離陸しよう」
 ミイラ男がすぐそばまで走って来たとき、身体が浮き上がった。助かったのだ。機体がどんどん上昇していく。ミイラ男はがっかりしたように空を見上げていた。
 無事に陸地へ戻ってきた。すぐに海上保安庁へ島のことを通報したが、はじめはぜんぜん信じてもらえなかった。翌日、やっと巡視船が出動して捜索を開始したが、島はどこかへ消えてしまっていた。


(オリジナルイラスト)


(未発表作品)





2019年6月30日日曜日

絵と詩 アイスクリームのお店





夏のある日、山へ絵を描きに行った。
清涼な空気を吸いながら、高原の景色を描くためだった。
花の匂いを嗅ぎながら山道を登っていた。
太陽が眩しくて、喉が渇いてきた
行く手にお店が見えてきた。アイスクリームのお店だった。
「あそこで少し休んでいこう。ついでにお店の絵も描いていこう」

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)






2019年6月20日木曜日

絵と詩 水槽



 
 その家の水槽にはいろんな物が入っている。
 珍しいお客に魚たちはびっくり。
 次はどんな物が入ってくるのか
 みんないつも落ち着かない。

(色鉛筆、水彩画 縦25㎝×横18㎝)






2019年6月10日月曜日

記憶がよみがえった男

 目が覚めるとおれは南洋に浮かぶ小さな孤島の砂浜の上で眠っていた。荷物ひとつなく、どうしてこんな島に来たのか分からなかった。
 ズボンのポケットに手帳が入っていて、読んでいるうちに忘れていた記憶が次第によみがえってきた。手帳にはやたらに数式が書いてあり、グラフや図も描いてあった。
「そうか、思い出してきたぞ。おれは瞬間移動装置の開発をしてたんだ。どんな物でも自由に空間を移動できる新装置だ」
 五年前に、この装置の論文を学会に発表して、勤めている自分の会社の実験室でグループを組んで開発をしていたのだ。海外にも実験室を設けて、この装置で移動実験を繰り返していた。会社からは多額の実験費用を貰っていた。もし実用化出来れば、会社にとって大きな利益になる。
 最初は物品による移動実験を何度も実施していた。それに成功すると、動物による実験を開始した。そして最近のことだった。とうとう人間による移動実験に入ったのだ。モルモットは自分自身だった。
「わかったぞ。空間を移動していたとき、何かの手違いでこの島へ送られたのだ」
 手帳を詳細に読んで、忘れていた記憶をすべて思い出した。そして自分が工学技術者であることも分かった。
「でもどうしてこんな知らない孤島へ来たのだろう」
 数日間、考え続けている間にその謎が解けた。
「緯度、経度のダイヤル設定を間違えたんだ。手帳には6月5日14時00分にグアムへ移動。と書いてある。グアムの受信側の装置へ移動するはずだったのが、少しのずれでこの島へ来たのだ。そうだとすれば、この孤島はグアムからそんなに離れていない」
 この孤島から脱出できればグアムへ行き、施設の送信装置を使って再び空間を移動してもとの場所へ帰れるのだ。
「でもどうやってこの島から出ようか」
 方法はただひとつ、船か飛行機を見つけて救い出してもらうしかない。ポケットに煙草とライターが入っていた。
「船を見つけたら手帳を破って紙に火を着けよう」
  食料も水もなく、そんなに長くこんな島にいれるわけもないので、早く船を見つけるしかなかった。まる3日間水平線を眺めていたが、一隻の船も通らなかった。         
 その間、何度も手帳を読み直した。すると手帳の最後のペ-ジに小さな紙がはりつけてあった。
「これは、グアムの実験室の住所だ。電話番号も書いてある。よかった。グアムに着いたら、実験室へ行こう」
  数日後、幸運にも水平線に船が見えた。知らない国の貨物船だった。手帳の空白ページを破って火を着けた。煙をハンカチに包んで、・・・ ーーー ・・・(SOS)と短い煙と長い煙を交互に空へ浮かばせた。
 その煙に気付いたのか、貨物船が島へ近づいてきた。双眼鏡で自分を見つけて救ってくれたのだ。
 それから数日後、グアムの港へ入港し、実験室へ行くことができた。研究員たちはみんな心配していた。
「よく戻ってこれたな。でもよかった」
 ダイヤル設定ミスのことをみんなに話してから、再び移動装置を使って自分の会社の実験室へ帰ることが出来た。



(オリジナルイラスト)


(未発表童話)