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第1班の担当刑事は、京都運輸支局から回答があった二つの市(綾部市、福知山市)のシルバーメタリックのトヨタカムリの所有を調べていた。
綾部市、福知山市で、20代でシルバーメタリックのトヨタカムリの所有者は24人である。職業別では、会社員15人、自営業6人、公務員2人、無職1人だった。
第2班の聞き込みから、居酒屋(ウェーブ)で被害者(浅井武史)と一緒に飲んでいた人物が金融機関に従事している者と考えられるので、先ず銀行員、信用金庫職員、農協職員、証券会社社員を重点的に調査することにした。
銀行員(A氏)について調べると、京都銀行福知山支店勤務の男性で年齢は25歳。独身者。この行員について聞き込みを行った結果、事件当日の夜は自宅に帰っていることが分かった。しかし当日の夜に在宅していたのかは不明。支店には3年前に採用されている。
信用金庫職員(B氏)はほくと信用金庫綾部支店勤務で年齢28歳。既婚者の男性で事件当日は家族で在宅。町内会の役員をしており、当日午後7時30分から9時00分まで役員会に出席していた。
農協職員(C氏)は、農業協同組合JAバンク福知山支店に勤務。27歳。既婚者。事件当日は研修のため東京に出張中。研修期間は6月26日から7月2日まで。研修センターに問い合わせて確認済み。当日は自宅には家族のみ在宅。
証券会社社員(D氏)は、山川証券綾部支店勤務。年齢24歳。独身者。事件当日は、午後8時30分まで証券会社で仕事をしており、会社にて確認済み。支店には2年前に採用されている。以上のことが数日後に分かった。
担当刑事は、この中で事件当日、研修のため東京へ出張中だった農協職員(C氏)を除いた3人について事件発生の6月28日以前の行動を詳細に調査した。
先ず、高浜町でシルバーメタリックの乗用車に乗った人物が目撃された日時を照らし合わせた。最も多く目撃されているのは高浜港と高浜海水浴場である。その日時に3人がどこにいたのか調べてみた。
事件発生以前の6月5日午後3時頃と、6月8日午後4時頃に犯人と思われる人物が高浜港で住民に目撃されている。調査の結果、6月5日と6月8日の午後に職場に居なかった者は銀行員1人だけだった。他の2人は職場で仕事をしていることが確認された。職場にいなかった銀行員は当日外勤で綾部市内の得意先の会社を回っていたらしい。綾部市から高浜町までは、府道1号を使えば30分で行ける距離である。外勤中に行けないこともない。担当刑事はそれを疑った。しかし同じく高浜海水浴場で目撃された6月12日午後2時頃と、6月18日午後4時頃について照らし合わせてみると、目撃された時刻は3人とも職場で勤務中であることが確認された。
また事件現場の青葉トンネルの踏切のそばの空き地で目撃された1週間前の6月21日午後1時30分頃を照らし合わせた結果、やはり3人とも職場にいたことが分かった。
6月5日と6月8日の午後に外勤をしていた銀行員については、数日後にその時間帯はT会社を訪問していることがあとで確認された。
担当刑事はこれらの調査によって研修中の農協職員を含めた4人には全員アリバイがあることがわかった。
では犯人と思われる人物はほかの人間であろうか。そんなとき担当刑事はふと被害者には借金があり、事件当日、居酒屋「ウェーブ」で一緒に飲んでいたのは消費者金融の社員だったかもしれないと考えた。
そこで消費者金融社員を次に調べることにした。
その人物(E氏)は年齢26歳。独身者、入社4年目だった。事件当日は年休を取って自宅にはいなかった。近所の人の話によると、台風が近づいていた6月28日の夜、風と雨が強まっているのに車で出て行ったのではよく覚えていた。自宅を出たのは午後7時30分頃だったと話した。
担当刑事はこの人物が事件当日に高浜町の居酒屋(ウェーブ)で被害者と飲んでいたのではないかと疑った。
数日後の日曜日、この人物の自宅を訪ねて任意で警察署へ来てもらった。本人は非常に驚いたが、事件当日のことを次のように話した。
「あの日は、仕事を休んで朝から舞鶴市瀬崎の親戚の家に行き、瀬崎漁港で海釣りをしていた。台風はまだ紀伊半島の南海上だったので天気は悪くなかった。夕方になって帰宅してから 瀬崎の親戚の家から電話があって、漁港に停めてある自分の釣りボートが流されそうなので手伝いに来てくれといわれた。波も高くなって午後9時過ぎまで作業をしていた」
と話した。
親戚の人に電話で確認すると(E氏)はその夜は親戚の家に泊まり、翌日綾部の自宅に戻ったと答えた。担当刑事が疑いがあると思われた5人にはすべてアリバイがあるのだ。
捜査はふり出しに戻った。担当刑事はこれら5人以外の者を調べる必要が出て来たのだ。残りのシルバーメタリックのトヨタカムリの所有者の中に間違いなく犯人がいるはずなのだ。いったい誰だろう。担当刑事は捜査のやり直しをはじめた。
残りの会社員10人、自営業6人、公務員2人、無職1人を調べることにした。しかし事件当日及び住民によって目撃された日時には多くがアリバイがあり、捜査は難航した。
しかしその後第2班の調査によって、捜査は大きく進展することになった。(つづく)
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