2022年5月16日月曜日

絵と詩 ウィリアム・ウィルスン E・A・ポー

 

(オリジナルイラスト


 彼の部屋へ着くと、ランプに笠をかけて室の外へ残しておいて、音をたてずに内へ入った。私は一足踏みこんで、彼の静かな寝息に耳をすました。彼の眠っていることを確かめると、戻って、ランプを手に取り、それを持ってまた寝床に近づいた。寝床のまわりはカーテンでぴったり閉じこめてあったが、自分の計画にしたがって、そのカーテンをゆっくりと静かにひきのけたとき、明るい光線が眠っている者の上へきっぱりと落ち、私の眼は同時に彼の顔の上へ落ちた。私は眺めた。――と、たちまち、しびれるような、氷のように冷たい感じが体じゅうにしみわたった。胸はむかつき、膝はよろめき、全心は対象のない、しかし堪えがたい恐怖に襲われた。息をしようとして喘ぎながら、私はランプを下げてもっとその顔の近くへよせてみた。これが――これがウィリアム・ウィルスンの顔なのであろうか? 私はそれが彼のだということをちゃんと知っていた。が、そうではないような気がして、瘧(おこり)の発作にでもかかったかのようにぶるぶる震えた。その顔のなにが自分をそんなぐあいにどぎまぎさせたのであろうか? 私はじっと見つめた。――すると、さまざまな筋道の立たぬ考えが湧き上がって頭がぐらぐらとした。彼が目が覚めていて活溌でいるときは、彼はこんなふうには見えなかった、――たしかにこんなふうには見えなかった。同じ名前! 同じ体つき! この学校への同じ日の到着! それからまた、私の歩きぶりや、声や、服装や、態度などにたいする彼の執念ぶかい無意味な模倣! 自分のいま目にしているところのものが、そういう皮肉な模倣を不断にやりつけていることの単に結果なのだということが、まことに、人間の力でできることであろうか? 畏怖の念に打たれ、ぞっと身ぶるいしながら、私はランプを吹き消し、こっそりその部屋を出て、すぐにその古い学校の校舎を立ち去り、二度と決してそこへ戻らなかった。
 「ウィリアム・ウィルスン」は、ドッペルゲンガー(自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種。自己像幻視)を取り扱ったエドガー・アラン・ポーの怪奇小説。イギリスの寄宿学校で出会った自分と瓜二つの学友に始終つきまとわれる恐怖を描いている。

(ボールペン、水彩画 縦25㎝×横18㎝)




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