2018年9月28日金曜日

不思議なピエロの絵

 ほんとうに不思議な絵でした。世界中にこんな絵はどこにもありません。一輪車に乗ったピエロを描いただけの絵ですが、それがほんとうに不思議なのです。
 この絵ははじめ町の小さな画廊で売られていましたが、あるお客が買い取って、家に飾っていました。ところがどうしたわけか、変なことばかり起こるのです。
  夜眠っていると、台所から、ぼりぼりと何か食べている音が聞こえてきたり、パイプの匂いが漂ってきたり、まったくおかしなことばかりでした。
「気味が悪いな。あの絵のせいだ」
 さっそく物置にしまって、処分しようと思っていました。
 ところが、ある日、絵はなくなっていたのです。だれが持って行ったのかさっぱりわかりません。
 数日後、この絵は別の家に飾ってありました。
「玄関を開けると置いてあったんだ。誰が持ってきたのかわからない。でも、タダで貰えてよかった」
 ところが、ある深夜、この家でも変なことが起きました。居間からテレビの音が聞こえてきたり、ポテトチップを食べている音が聞こえるのです。
「お化けがいるのかな」
 そっと居間へ歩いていくと、音は急にしなくなりました。
「変だなあ」
 この家の人も気味が悪くなって、絵を売りに行くことにしました。でも、ある日、居間へ行くと絵はなくなっていたのです。
 月がきれいな夜のことでした。
 町の電信柱の電線の上を一輪車が走っていました。一輪車の上に一枚の額縁が乗っていました。月の光で絵が見えました。ピエロの絵でした。
 ピエロは額縁を担いで一輪車のペダルを漕ぎ、となり町へ向かっていました。
人や車がいないときは、国道へ降りて走りました。橋を渡って川沿いの道を走っていると、川のそばに一軒の家がありました。明るい部屋の中で、男の人がマンドリンを弾いていました。
「つぎはあの家にやっかいになろう」
 玄関の前へやってくると、チャイムを鳴らしました。
 男の人が出てきました。でも誰もいません。ドアのそばに一枚の絵が置いてありました。
「面白い絵だ。誰が持ってきたのかな」
 変に思いましたが、せっかくなので部屋に飾ることにしました。
 男の人は絵を眺めながら、いつもマンドリンを弾いていました。
 ところがある夜眠っていると、音楽室からトレモロの音が聞こえてきたのです。
「泥棒が入って弾いてるのかな」
 忍び足で音楽室へ行きました。ところが部屋のドアを開けようとしたとき音はしなくなりました。
「やれやれ夢か」
 でもまたある夜も聴こえて来たので、気味が悪くなって絵を手放すことにしたのです。
 男の人の友人に、子供ミュージカルの脚本を書いている作家を知っていたので、その人にあげることにしました。
「不思議な絵だけど、飾ってみないか」
「じゃあ、いただくよ」
 その友人は、書斎の壁に掛けて、いつも眺めていました。絵を見ながらサーカスの話が書きたくなってきました。毎日原稿を書いていました。でも何度も行き詰りました。
「やれやれ、やっぱりサーカスの世界をよく知らないと書けないな」
 半分諦めていると、ある夜、書斎でカサカサと原稿を書いている音が聞こえてきたので目が覚めました。でも、すぐに音はしなくなったのでそのまま眠ってしまいました。
 翌朝、机の上を見ると、サーカスの脚本が出来あがっていました。
「誰が書いたんだ」
 読んでみると、サーカスの世界のことがよく書けています。それにたいへん面白いので、今度の公演で使おうと思いました。
 ところがその作品が出来上がった翌日にピエロの絵はなくなっていたのです。
 ある夜、ピエロの絵が電線の上を走っていると、公園のベンチの上で何か光っていました。
「あ、ハーモニカだ」
 誰かが忘れていったのです。
 欲しくなったので、ベンチに行くとハーモニカをもらってきました。サーカスにいた頃はお客さんの前でずいぶんハーモニカを吹いたものでした。
 月の光を浴びながら、ピエロはハーモニカを吹きながら走りました。
 広い田畑を走り、やがて丘の向こうに砂浜が見えてきました 
 海が見える寂しい浜辺に、白壁の家がありました。電灯がついた部屋に絵がたくさん飾ってありました。その家は絵描きさんの家でした。
 ピエロはそれらの絵に見覚えがありました。
「サーカスの仲間たちだ」
 電線から降りて、アトリエの中を見ました。
「思い出した。おれはこの部屋で描かれたんだ。ずいぶん昔だったな」
 記憶が蘇ってきました。
 ピエロがサーカスの人たちとこの町へやってきたとき、モデルになってほしいというので、このアトリエにみんでやって来て描いてもらったのです。
 サーカスの生活は楽しいものでしたが、その後、サーカスは経営不振で解散し、ピエロも浮浪者になってしまいました。みんなもどこにいったのかわかりません。
 サーカスの絵たちは、アトリエの中でみんな静かに眠っていました。
 窓の鍵はかかっていなかったので、そっと中へ入りました。
 ピエロの絵も、自分が住んでいた家がみつかったので、安心したように眠りました。
 朝がやって来ると、この家の絵描きさんが、部屋に入ってきました。でも、しばらくはピエロの絵に気づかないまま、いつものようにキャンバスに向かって絵を描いていました。



(オリジナルイラスト)




(未発表童話)





0 件のコメント:

コメントを投稿