雪男は退屈だった。むかしのようにテレビのリポーターも新聞記者もぜんぜんやってこないからだった。
「おれのことはまったく忘れられてしまった」
あまり暇なので、ある夏の日、村へ行くことにした。
山を降りていくと、麓はずいぶん暑かった。
「最近は山も暑いけど、山の下はまるでサウナだな」
山道を降りながら、やがて民家が見えて来た。
「久しぶりだな。人間たちはどんな暮らしをしているのだろう」
三十年ぶりだったので、ずいぶん興味があった。
一軒の民家へやってくると、家の中を覗いてみた。ヒゲを生やした独身の男がユーチューブで映画を観ていた。
「おう、雪男の映画だ」
懐かしい映画だったのでしばらく観ていた。
「最初から観てみたいな。そうだ、レンタルビデオ店で借りよう」
この村に一軒しかないお店へ行ってみた。雪男の映画はとっくに流行が終わって置いてないということだった。
仕方がないので、ゾンビとハロウィンの映画を借りた。
「せっかく山から降りて来たんだ。食料品店で買い物をしよう」
夕食のおかずを買いに行った。
豚肉と卵、サラダ、インスタントみそ汁、お米などを買った。
となりに散髪屋があった。
「長いこと毛を切ってないから、さっぱりさせよう」
お店に入って切ってもらった。あまりに毛が多いので、料金を二倍取られた。
雪男は山へ帰っていった。
ところが山へ戻ると、氷の家は暑さで、ずいぶん溶けていた。ポタポタと水がたれている。
「ああ、ずいぶん隙間が空いてるな。これじゃ冬になったら、風邪をひくな」
映りの悪いテレビで天気予報を聞いてみた。今年は太平洋高気圧の勢力が強くて、気温の高い状態が夏中続くといっている。
雪男は、暑さで氷が全部溶けて住めなくなるのを心配して、岩の家を作ることにした。
ある日、ビデオを返しに行ったついでに、つるはしとドリルを買ってきた。
岩を砕きながら、毎日作業を進めた。
そのうちに氷の家はすっかり溶けてなくなってしまった。
「冬がやって来ないうちに、早く作ってしまおう」
カチン、カチン、ガリガリガリーー、ガリガリガリーー
汗をかきながら雪男は、毎日岩を砕いていった。
ある夜、村の方から花火があがった。山の上から見える花火は本当にきれいだった。
「ああ、夏もそろそろ終わりだな」
花火を見ながら雪男はそんなことを呟いた。
(オリジナルイラスト)
(未発表童話です)
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