2018年7月25日水曜日

恐怖の島

 ある科学者が、孤島にひとりで住んでいた。八年も世間から遠ざかって、AIロボットの研究と制作に取り組んでいた。毎日研究室に閉じこもって、これまでいろんなロボットを作った。
 あまり忙しいので、食事も洗濯も掃除も出来なかった。
 そんな訳で、一台ロボットを作った。AIを取り入れた奥さんロボットだった。
「仕事をしてる間、このロボットが家事を全部やってくれるだろう」
 科学者が思ったとおり、ロボットは毎日よく働いた。
 昼になると、ちゃんと昼食が用意されているし、夕食もしっかり出来ていた。
 でも不満なこともあった。味がよくないのだ。みそ汁なんかすこしも美味くなかった。漬物もずいぶん辛かった。奥さんロボットは電気しか食べないので、本当の味は出せないのだった。
「仕方がないな」
 科学者は文句も言えなかった。
 だけど、日に日に味は悪くなる一方だった。たびたび小言をいううちに、奥さんロボットはとうとう怒りだした。しまいにまずい物ばかりを食べさせるようになった。
「部品に不良品があったのかな。設計図どおりに作ったのに」
 そんなある日、ロボットが家からいなくなった。
「どこへ行ったのだろう」
 ボート小屋へ行ってみたが、ボートは中にしまってある。
「島のどこかにいるはずだ」
 島の中をあちこち調べたが、ロボットは見つからなかった。
 ある日、研究室で仕事をしていたとき、窓ガラスに奥さんロボットの姿が見えた。中を覗いていた。
「帰ってきたんだ。どこへいってたのだろう」
 奥さんロボットは、前のように働きはじめたが、研究室へよくやってくるようになった。研究室の器具や部品に興味があるみたいだ。
 それからだった。恐怖を感じるようになったのは。
 夜眠っていると、台所から何かを研いでいる音が聞こえてきたり、研究室の明かりがついていたり、カチン、カチンと何かをセットする機械音が聞こえてきたり、奇妙なことがたびたび起きた。
 科学者は、命の危険を感じはじめた。仕事どころではない。早くこの島から逃げないといけない。
 まだ夜が明けきらない翌朝、ボート小屋へ行ってみたが、ボートは船外機が壊されていてエンジンがかからない。
「ロボットが壊したんだ」
 家に戻った。研究室の窓に明かりがついている。
 窓辺へ行って中を覗いてみた。
「なんてことだ」
 研究室で奥さんロボットがエアーガンを手に持っている。そばのパソコン画面には3Dプリンターで制作したエアーガンの画像が写っている。
「自作したんだ。困った。あんな強力なエアーガンだったら、殺傷力は十分にある」
  命を狙われる前に、どこかへ隠れないといけない。
 そのとき思いついた。
 この島には洞窟があるのだ。島の裏側の沼地のそばだ。しばらくその洞窟に隠れることにした。林道を歩いて洞窟へ向かった。
 夜、真っ暗な洞窟の中で眠っていると、草を踏む音がしたので目が覚めた。
 洞窟の外に誰かいる。懐中電灯を洞窟の中へ向けて照らしている。
「ロボットだ」
 音を立てないようにじっとしていた。光は向こうへ行った。
 翌日も、洞窟の中にいた。午前中と午後に、ロボットがやってきて洞窟の中を覗いて行った。
 ロボットがいなくなってから、ふと思いついた。
「そうだ、バッテリーが切れたらロボットは動けなくなる。10日前に充電したから、明日中に切れるはずだ。発電機を止めてしまえばもうロボットは動けなくなる」
 発電機は家のとなりの小屋にある。
 夜になってから洞窟を出ると、家へ向かった。途中、林の中でライトの光を何度も見た。
 家に帰ってくると、庭のそばの発電機の小屋に行った。いつも鍵は掛かっていない。小屋の中へ入ると、配線を切ってしまった。
「これでもう電気は使えない」
 小屋を出ると、洞窟へ引き返した。
 翌朝、雨が降っていた。
「家に戻ってみよう」
 雨の中、林道を歩いて行った。沼のそばを通ったとき、木のうしろから黒く尖ったものが見えた。銃口だった。
 急いでその場から離れた。そのとき足が滑って沼の淵へ転げ落ちた。身体の半分が沼の中へ引き込まれた。両手で必死に草につかまった。
 木のうしろから奥さんロボットが現れた。
 近づいてきて、エアーガンの銃口を、科学者の方へ突き付けた。
「もうだめだ」
 どしゃぶりの雨は降り続いている。
 ロボットは引き金に指を入れた。
 そのときだった。ロボットの動きが遅くなった。奇跡が起きた。電池が切れたのだ。
 ロボットはその場に突っ立ったまま動かなくなった。



(オリジナルイラスト)



(未発表童話です)




2018年7月9日月曜日

謎の宇宙船

 いつも家の中に閉じこもっている男がいた。家の中で何をやっているのか近所の人はぜんぜん知らなかった。
「どうやって生活費を稼いでいるのだろう」
「株式やFXでもやってるのかな」
「それともいまはやりの仮想通貨かな」
 どこにも出かけないので、近所の人はいろいろと推測をはじめた。
「食事はどうしているのだろう。まさか水だけで暮らしているわけがないし」
「洗濯物も干したことがない」
 そんな男だったが、月に一度家を出るときがあった。それも深夜だった。
隣の家の人は、いつも気になっていたので、突き止めることにした。
 ある深夜、エンジンをかける音で目が覚めた。
「よおーし、あとをつけてみよう」
 明日は仕事が休みなので都合がいい。
 国道を走って、その男の車のあとを追った。
 町を抜けて、田舎道を走っていった。しばらく走っていたとき山の向こうでピカッと何か光った。男の車は、その光に向かって走って行った。
 山道に差し掛かった。カーブを曲がってたとき、男の車を見失った。
 引き返してみると、林の中に車がやっと通れるくらいの細い道があった。
「この道を走っていたんだ」
 あとを追いかけることにした。しばらく走っていくと男の車を見つけた。木のそばに停めてある。
 男はいなかった。歩いて行ったのだ。
 車を離れた場所に停めて男のあとを追った。
真っ暗な林道を歩いていくと、林の中に明かりが点いているみすぼらしい小屋が建っていた。
 窓ガラスに男の姿がカーテン越しに映っている。誰かと話しているみたいだ。
そっと窓に近づいて、様子をうかがった。
 ぼろ小屋で、隙間だらけだったので声が聞えてきた。
「スパイ3号。ロボットは手に入りそうか」
「はい、来週の日曜日に工場から盗んできます。最新式のAIロボットです。日曜日の深夜に、変電所がある町はずれの空き地に来てください」
「わかった。最新のロボットとは有り難い。この星の人口知能の開発がどこまで進んでいるのか把握しておく必要がある」
「ええ、ほんの六十年前の地球では、幼稚なコンピータ程度の技術でしたが、最近はAIの技術は凄いですから」
「そうだ。将来、この星がわれわれと肩を並べるかもしれない。もし争いになった場合に備えて、今のうちに科学技術の進み具合を調べておく必要がある」
「では、帰って準備に取り掛かります。引き続き最新の情報も入手しておきます。最近のユーチューブの動画は非常に参考になります。人口知能と検索すればすぐにたくさんの動画が観れます。ビッグデータの動画も増えています。100年前のわれわれの星が体験したAIの世界がこの星でも広がるでしょう」
 二人の宇宙人はこんなやり取りをしていた。
「そうか、あの男は宇宙人のスパイだったんだ。地球の安全のためになんとかしなければいけない」
 そう思いながら、すぐに帰ることにした。
 日曜日がやってきた。宇宙船がAIロボットを受け取りに来る日だった。
 夜になると思ったとおり男は、深夜、車で家から出て行った。さっそくあとを追ってみた。
 男の車は、町はずれの変電所の近くの空き地に止まった。周りは畑でずいぶん薄暗い。
 少し離れた林の中に隠れて、宇宙船がやって来るのをじっと待った。
 しばらくすると、空から黄色い光を出して宇宙船が降りて来た。宇宙船は空に浮かんだ状態で、底面の扉が開き、中から宇宙人を乗せて、ゆっくり階段が降りて来た。
 待っていた男が、車のトランクを開けて、中から数台のAIロボットを出した。
 宇宙人たちは、ロボットを受け取ると、すぐに積み込み作業をはじめた。
 その様子を持ってきたビデオカメラですべて撮影した。
「よおーし、この映像をすぐに政府に送ろう」
 そう思ったとき、宇宙人のひとりが、林の方をちらっと見た。
「見つかったかな」
 でも、大丈夫だった。すぐにその場を離れて車に乗って家に帰った。
 翌日、撮影した映像と宇宙人たちの会話を記録したメモを添えて、メールで政府に送った。



                                                        (オリジナルイラスト)



(未発表童話です)