2016年6月24日金曜日

ホルン吹きのカタツムリ

「きょうは、あそびにいけないからつまんないなあ」
 葉っぱのうえで、そんなことをつぶやいたのはいっぴきのカタツムリです。
空は低い雲におおわれて、しとしとと雨がふっています。
きのうともだちのクワガタくんと、小川の向こうの原っぱへあそびにいく予定をしていたのでとても残念です。
「なにか面白いことないかな」
そういったとき、草の中からコオロギくんの弾くマンドリンの音色が聴こえてきました。
「おう、コオロギくん上手くなったな。みちがえるほどきれいなトレモロだ」
いつもじっくり聴いたことがなかったので、そうおもいました。
「もうすぐ秋だから、コオロギくんは演奏会の練習でいそがしいんだな」
コオロギくんの弾くマンドリンを聴きながら、秋になるのが待ち遠しくなってきました。
「そうだ、ぼくも楽器を習いにいこうかな。でもなにを習おう」
いろいろかんがえているうちに、おもいつきました。
「そうだ、ホルンを習おう」
かんがえてみれば、カタツムリくんはりっぱなホルンをもっているのです。
ちょっとせなかの殻をはずしてみました。ほら貝のようなりっぱなホルンです。でも吹き方がわかりません。
 そこで、ホルンの音楽教室へいってみました。
先生はすこしもうろくしていましたが、ていねいに吹き方を教えてくれました。
 翌日も雨だったので、一日中ホルンを吹く練習をやりました。
夜までにはすらすらと吹けるようになりました。
「そうだ、コオロギくんといっしょに合奏してみようかな。そしてクワガタくんに聴いてもらおう」
そういって、明かりの灯ったコオロギくんの家へいってみました。
コオロギくんはランプのそばで、楽譜を見ながらマンドリンを弾いていました。
「うん、いいよ。どんな曲をやろうか」
コオロギくんはこころよくひきうけてくれました。
そこで二匹は、いろいろと曲集をめくりながら、「これにしよう」といって、ドボルザークの「遠き山に日は落ちて(家路)」という曲をいっしょに弾くことにしました。
コオロギくんがメロディを弾いて、カタツムリくんがホルンで伴奏をするのです。二回目はホルンもメロディを吹きました。
夕暮れの広々とした風景が浮かんできて、ほんとうに山の向こうへ夕日が沈んでいくみたいです。
「この合奏ならみんなに聴かせられるよ。どうだい、きみも秋の演奏会に出てみないかい」
コオロギくんのすすめで、カタツムリくんも出てみようと思いました。
 翌朝は、晴れのおてんきになりました。
コオロギくんとカタツムリくんは、クワガタくんをさそって、小川の向こうの原っぱへハイキングへ出かけました。
そして、原っぱにやってくると、クワガタくんにじぶんたちの演奏を聴いてもらいました。
「すばらしい、とてもいい演奏だ」
クワガタくんは、ぱちぱちと拍手をしてくれました。
コオロギくんもカタツムリくんもすっかり自信がつきました。
「じゃ、きみも秋の演奏会にぜひきてくれよ」
「うんいくよ。たのしみだな。いろんな曲を聴かせてくれよ」
そういって三匹は仲良くおべんとうを食べました。
 コオロギくんとカタツムリくんは、ハイキングから帰ってきてからも夜遅くまで練習にはげみました。
そのかいがあって、秋の演奏会はすばらしい成功をおさめたということです。
 演奏会が終わった後も、この原っぱからは二匹の演奏が毎日のように聴こえてきます。






(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)



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