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手紙を読んで私はすぐに軽井沢へ向かった。運転しながらいまごろ軽井沢で何が起こっているのかとても気になった。
「大変なことってなんだろう。事件は解決しているのに。人形ロボットが行方不明だって、何のことだろう」
軽井沢の木田の別荘に着いたのは午後3時過ぎだった。木田は車の音を聞いて、すぐに小屋から出てきた。
「よく来てくれた、じつは犯人の二人があとからこんなことを供述したんだ」
木田は慌てたように話した。
「二人は逮捕されてから、制作したすべての人形ロボットを警察に引き渡したが、その内の一台が行方不明になっていることを黙っていた。その人形ロボットは茶色の髪の女性だ。動作テストをしている最中に行方不明になったそうだ」
私は口をはさんだ。
「盗みを指示するだけで動くロボットだから、いずれ発見されるだろう。そんなに慌てなくてもいいんじゃないか」
私の冷静な話しぶりに木田は少しいらついた様子で、
「それがじつは大変なことなんだ。犯人たちの話では、人形ロボットに備えてある人工知能には、人に見られたときは相手を殺せと指示が出されていたんだ」
「え、なんだって、それ本当か」
木田は詳しく説明してくれた。
「行方不明になっている人形ロボットにもその指示が出されている。殺せの指示のプログラムを削除しない限り、人形ロボットは見られた人に襲いかかる。だから行方不明の人形ロボットを早急に見つけて、破壊するか、プログラムを削除するしかないんだ。人口知能を備えているから、自分で考えながら行動するのでそう簡単には捕まらない」
私は木田の話を聞いて、早速行動することにした。
「警察の方ではすでに捜索を開始している。どちらが先に見つけ出せるかだ」
私はその夜、木田といろいろ作戦を練った。
木田はこれまで警察から発表された情報をさらに詳しく話した。それによると、人口知能ロボットのほとんどが女性だが、その手の握力は150㎏の強さで、人を簡単に絞殺できるそうだ。犯人の二人は、そんな凶器も取り付けていたのだ。でも逃走した人形ロボットはいったいどこに潜んでいるのだろうか。いまのところ人形ロボットによる被害の情報は入っていない。おそらく軽井沢の林の中のどこかに潜んでいるのだ。
翌朝、木田と二人で自転車を二人乗りして、旧軽井沢の別荘地から探すことにした。もちろん人形館にも足を運んで近くの林の中を調べた。林道にはパトカーがあちこちに止まっており、警官の姿を何度も見た。彼らも人形ロボットを捜しているのだった。
以前散歩したショー記念礼拝堂の近くの林道を歩いていたときだ。犯人の眼鏡の男が林の中に立っていた場所を通った。
「テスターのリード棒以外に、何か落ちていないかな」
そう思って辺りを眺めていたとき、その場所からすこし離れた草むらに目がいった。草の中に小さな紙切れのようなものが落ちていたのだ。そばへいって拾ってみた。雨に濡れたせいで、鉛筆で書いた文字が薄くなって読みにくい。でもある文字に注意がいった。Murder(マーダー。殺し)その下に15#sug2ntufto4tの不規則な英数字が書かれていたのだ。
「これはプログラムの数字だな。眼鏡の男はこの紙を必死になって探していたんだ」
「そうだとするとこの番号の項目を削除すれば殺しの指示を止めることができるのか」
私たちは小屋へ帰ることにした。
その夜、私たちは捜す範囲を軽井沢の全域まで拡大させることに決めた。
深夜のことだった。眠っていたとき、小屋の外で足音が聞こえた。木田がトイレに出たのかと思った。でも違った。木田は横で眠っている。木田以外に誰か外にいるのだろうか。そうだ、警察かも知れない。警察も人形ロボットを夜も捜しているからだ。でも気になるのでそっと窓から外を覗いてみた。外には誰もいなかった。でも足音は確かに聞こえたのである。
朝になって木田に昨夜のことを話してみた。
「じゃ、あの人形ロボットかもしれないな」
木田の言葉を聞いて、私の頭の中でふとこんな推測が浮かんだ。
「行方不明になっている人形ロボットは、木田が何度も目撃した茶色の長い髪のロボットではないのか。そうだとしたら、プログラムに記録された指示に従って、木田を殺す機会を狙っているのかもしれない」
私はその推測を木田に説明した。木田はそれを聞いて驚いたが、
「それだったら、おれがおとりになってもいいな。おそらく人形ロボットはまたこの小屋にやってくるに違いない。この小屋に入ってきたら閉じ込めてしまうのがいい」
昨夜の足音はきっと木田が何度も見た茶色の髪のロボットなのだ。木田を殺すつもりでやって来たが、私がいたので引き返したのだ。そうだとすれば、木田がひとりのときにまたやってくる。私は林の中で隠れていればいい。
犯人たちが作った人形ロボットは深夜に行動するようにプログラムされているから、夜になったらまた必ずやってくる。
「じゃ、今夜実行しよう」
私たちは夜を待った。陽が沈むと私は小屋の近くの林に身を潜めて待つことにした。木田は普段通り明かりをつけて小屋の中にいた。
深夜0時が過ぎたとき、近くの林の中から足音が聞こえてきた。静かに小屋の方へ歩いて来る。やがて林の中から人影のようなものが現れた。月明かりで、やがてそれが確認できた。茶色の長い髪の女性の人形ロボットだった。大きな眼は不気味だった。想像していたよりも大柄なロボットだ。動きはギクシャクして、小屋へゆっくり歩いてくる。木田も足音に気づいたようで後ろの窓を開けると素早く外へ逃げた。
人形ロボットは小屋の前に立った。扉のノブを回して小屋の中へ入った。私はそれを確認すると林から飛び出して小屋の扉に鍵を掛けた。人形ロボットは閉じ込められたことが分かって小屋の中で暴れていた。
私はスマホで警察に電話をした。しばらくすると近くで捜索していたパトカーが3台私たちの小屋へ駆けつけた。人形ロボットは警官たちによって取り押さえられた。ロボットの専門家が同乗していたので、その場で解体して運ばれていった。
それを見届けた私たちは胸をなでおろした。
「これで今回の事件は本当にすべて解決した」
木田もほっとした様子で、
「よかった、次の小説は、この事件をヒントに推理小説を書いてみるよ」
翌朝、私は木田と別れて軽井沢をあとにした。(完)
(オリジナル推理小説 未発表作)
(水彩、色鉛筆画 縦25㎝×横18㎝)
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