(オリジナルイラスト)
西洋人はもうぽつぽつと来ているようですが、まだ別荘などは大概閉ざされています。その閉ざされているのをいいことにして、それにすこし山の上の方だと誰ひとりそこいらを通りすぎるものもないので、僕は気に入った恰好の別荘があるのを見つけると、構わずその庭園の中へはいって行って、そこのヴェランダに腰を下ろし、煙草などをふかしながら、ぼんやり二三時間考えごとをしたりします。
たとえば、木の皮葺(かわぶき)のバンガロオ、雑草のおい茂げった庭、藤棚(その花がいま丁度見事に咲いています)のあるヴェランダ、そこから一帯に見下ろせる樅や落葉松の林、その林の向うに見えるアルプスの山々、そういったものを背景にして、一篇の小説を構想したりなんかしているんです。なかなか好い気持です。
ただ、すこしぼんやりしていると、まだ生れたての小さな蚋(ぶよ)が僕の足を襲ったり、毛虫が僕の帽子に落ちて来たりするので閉口です。しかし、そういうものも僕には自然の僕に対する敵意のようなものとしては考えられません。むしろ自然が僕に対してうるさいほどの好意を持っているような気さえします。
僕の足もとになど、よく小さな葉っぱが海苔巻きのように巻かれたまま落ちていますが、そのなかには芋虫の幼虫が包まれているんだと思うと、ちょっとぞっとします。けれども、こんな海苔巻のようなものが夏になると、あの透明な翅(はね)をした蛾になるのかと想像すると、なんだか可愛らしい気もしないことはありません。
(水彩、色鉛筆画 縦25㎝×横18㎝)