2021年3月30日火曜日

絵と詩 黄金虫 エドガー・A・ポー

 

(オリジナルイラスト)


 難破船の残骸から宝物の在りかを示す紙切れ(羊皮紙)と黄金の黄金虫を見つけた主人公は、ある日、黒人の召使と旧友と一緒に宝探しに出かける。紙切れの文字は暗号化されており、それを解読してみると、宝物は近くの島にあり、大きな(ユリノキ)の枝の先端に髑髏が釘で打ち付けてあるので、その左目の中へ黄金虫を紐で降ろして、その降ろした地点からさらに15メートル先の場所を掘ると宝物が埋めてあるとのことだ。
 三人が穴を掘ってみるとそのとおり宝物が入った木箱が出てきた。中にはたくさんの金貨や貴金属が入っていた。
(エドガー・アラン・ポー 短編小説「黄金虫」より) 

(水彩、色鉛筆画 縦25㎝×横18㎝)



2021年3月21日日曜日

絵と詩「信号」ガルシン作

 

(オリジナルイラスト)


 帝政ロシア時代、戦争から帰ってきた主人公のセミョーンは、鉄道線路番の仕事にありつき、妻と二人の子供と一緒に暮らします。隣の番小屋にはヴァシーリイという陰気で、社会に対して不満ばかり口にしている男が働いていました。二人はよく土手の上で出会っては世間話をしました。
 あるときヴァシーリイは上司の不当性を訴えるためにモスクワへ直訴に出かけますが、直訴は失敗に終わり、怒り狂ったヴァシーリイは列車の転覆事故を計画します。
 ある日、ヴァシーリイがハンマーで鉄道のレールを取り外している現場を見つけたセミョーンは、大急ぎでレールを修復します。しかし遠くからは列車が近づいてきます。セミョーンは自分の手首をナイフで切り、流れる血でハンカチを染めて赤旗を作り、必死に列車を止めます。(短編小説「信号」フセーヴォロド・ガルシン作)

(水彩、色鉛筆画 縦25㎝×横18㎝)



2021年3月9日火曜日

絵と詩 メールストロムの旋渦

 

(オリジナルイラスト)


 船はまったく水につかっていましたが、そのあいだ私はずっと息をこらえて螺釘にしがみついていました。それがもう辛抱できなくなると、手はなおもはなさずに、膝をついて体を上げ、首を水の上へ出しました。やがて私どもの小さな船は、ちょうど犬が水から出てきたときにするように、ぶるぶるっと一ふるいして、海水をいくらか振いおとしました。それから私は、気が遠くなっていたのを取りなおして、意識をはっきりさせてどうしたらいいか考えようとしていたときに、誰かが自分の腕をつかむのを感じました。それは兄だったのです。兄が波にさらわれたものと思いこんでいたものですから、私の心は喜びで跳びたちました、――が次の瞬間、この喜びはたちまち一変して恐怖となりました、――兄が私の耳もとに口をよせて一こと、『モスケー・ストロムだ!』と叫んだからです。
 そのときの私の心持がどんなものだったかは、誰にも決してわかりますまい。私はまるで猛烈なおこりの発作におそわれたように、頭のてっぺんから足の爪先まで、がたがた震えました。私には兄がその一ことで言おうとしたことが十分よくわかりました、兄が私に知らせようとしたことがよくわかりました。船にいま吹きつけている風のために、私たちはストロムの渦巻の方へ押し流されることになっているのです、そしてもうどんなことも私たちを救うことができないのです!

    (エドガー・アラン・ポー「メールストロムの旋渦」佐々木直次郎訳より)

(水彩、色鉛筆画 縦25㎝×横18㎝)