2020年7月31日金曜日

絵と詩 小さな島でキャンプ


(オリジナルイラスト)


ヨットに乗って南の海を旅していたら
ヤシの木一本だけ生えている小さな島を見つけた。
長い航海で陸地に上がったことがなかったので
さっそく上陸するとテントを張った。
夕食のおかずも釣り上げて
夜は揺れない布団の中でぐっすり眠った。

(水彩、色鉛筆画 縦25㎝×横18㎝)
 



2020年7月23日木曜日

創作聖書物語 アダムとエバのその後

 エデンの園を追われたアダムとエバは、歩き疲れて小川のほとりの草の上に座り込んだ。二人は深いため息をつきながらやがて話はじめた。
 アダムが先に切り出した。
「どうして蛇の誘惑なんかに乗ったのだ。あれほど取ってはならない木の果実を食べてしまうなんて。これから先どうやって生きて行くんだ」
「あなただって食べたじゃない。あの木が善悪の知識の木だってことを知ってたくせに。最初に神様からきつくいわれたのはあなたよ」
「エバ、お前が悪いんだぞ、お前があまりしつこく勧めるものだから仕方なく食べたんだ。おかげで楽園から追い出されて、永遠の命も失ってしまった」
 二人は追われてきたエデンの園の方を振り返った。
 楽園の中は光が満ちていて、いろんな動物や、おいしい果物の木がたくさんなっていた。
「もう一度、あそこに戻れたら、毎日あくせく働かなくても食料には困らないし、のんびり楽しく暮らせたのだ。永遠の命も保証されていたのに」
「いまさら戻れないわ。さあ行きましょ」
「どこへいくんだ」
「エデンの園に似た場所を探すのよ」
「そんな場所あるわかないさ」
「見つけるしかないわ」
 二人は立ち上がって歩き出した。三日三晩不眠不休で歩き続けたが、楽園は見つからなかった。荒れ野が遠くまで広がっているばかりだった。二人は空腹のためにすっかり力つきていた。
 ある朝、二人がイチジクの木の下で眠っていると、いつかの蛇が枝から降りてきた。
「わたしもエデンの園から追い出されました。あそこでは動物の中で一番賢いといわれていましたが、いまじゃ、最低の動物になってしまいました」
 アダムとエバは、自分たちをこんな境遇にした憎い蛇を、足でポーンと川の向こうへ蹴とばした。
 二人はまた歩き出した。けれどもエデンの園に似た楽園はまったく見つからなかった。
 雨が降ってきたので二人は松の木の下で休息した。
「どこかに家を建てよう。このままじゃ野垂れ死にするだけだ」
 二人は近くの森の中へ入っていくと、木を伐り、家を建てることにした。そしてそこが二人の住み家となった。
 あるときエバはアダムの子を身ごもった。けれども毎日草や木の根っこばかりを食べていたのでは丈夫な子を産めないと思った。
 ある日、いつかの蛇が木の葉っぱの中から姿を現した。アダムはその日食べ物を捜しに外へ出かけていた。
 蛇はエバのいる窓辺へ近寄ってきた。
「エバさん、顔色が悪いですよ。もっと栄養のあるものを食べないといけません。私はもうすぐ死にます。生まれてくる子供のために私を食べなさい」
 エバは信用の出来ない蛇のいうことをそのときは聞かなかったが、何日かして蛇が本当に死んでしまうと、空腹のせいかすっかり日干しになった蛇を食べてしまった。
 何か月かして男の子が生まれた。その子はカインと名付けられた。
 元気な子だったが、扱いにくいところがあった。
 しばらくして次の子を身ごもった。
 エバは空腹のせいで、また蛇を食べたくなった。
 あるとき蛇を捕らえて食べようとしたとき、アダムに見つかった。
「お前はまた神様の罰を受けるつもりか」
 エバは反省して蛇を食べることをやめた。空腹を我慢しながら子供を産むことにした。次の子も男の子だった。その子はアベルと名付けられた。痩せた子供だったが、その子は従順な子に育った。
                      (旧約聖書 創世記からのパロディ)


(オリジナルイラスト)


(未発表作品)





2020年7月11日土曜日

創作昔話 ふしぎな侍

 むかし、小さな村にひとりの侍がやってきてひっそりと暮らしていた。
 村人は、侍にしてはおとなしい男なのでみんなふしぎに思っていた。
「こんな村にどうしてやってきたんだろう」
「侍のくせに刀を振り回したところをみたことがない」
「病気なのかもしれない」
 村人がいうように、侍はまるで百姓のように質素に暮らしていた。
 村の子供たちが自分の畑の中で遊んでいても怒ることもなかった。刀を見せてほしいといったら親切に見せてやった。
 そのうちに村人はこの男に好感を持つようになった。
 ある日、どこからか人相の悪い男が侍の家にやってきた。
「あんたを見込んで、またやってもらいたい仕事がある」
「おれは、もう足を洗ったのだ。いくら頼まれても引き受けることはできん」
「それじゃ、あんたがこれまでやったことを全部役人にばらしてしまうぞ」
 侍はそれをいわれると断ることが出来なかった。しかたなくその男の頼みを引き受けた。
 男は前金を侍に渡すとすぐに帰って行った。
 侍は仕事を頼まれるたびに、「もうこれが最後だ」とつぶやくのだった。
 ある日の深夜、侍は誰にも気づかれないように刀を携えて家から出て行った。
 明け方になり侍は疲れて帰ってきた。そして死んだように眠った。
 ある日、用事で町へ出かけた村人が、町の悪代官が殺し屋に襲われたことをみんな伝えた。
「凄腕だな。どんな殺し屋だろう」
 町の役人たちは犯人の行方を必死になって追っていた。
 侍は、いつものように畑を耕していた。でも心の中は落ち着かなかった。いつ捕まるかわからない恐怖がいつも侍につきまとっていた。
「この村を出よう」
 侍の暮らしは前とすこしも変わらなかった。
 ある朝、誰にも気づかれないように侍は家から出て行った。
 きれいに耕した畑には一本の苗も植えていなかった。
 村人はいなくなったふしぎな侍のことをいつも口にした。


(オリジナルイラスト)

(未発表作品)