「うへえ、またこの匂いだ、たまんないな」
そんなことをいってるのはブタの陶器です。
焼き物工場にいたときは、人形や置時計と一緒に、居間の棚の上でのんびり暮らせると思っていたのですが大きな間違いでした。お腹の中に蚊取り線香を吊るされて、おまけに火まで着けられて毎晩嫌な匂いを出すのです。
「こんなだったら、豚小屋の方がましだ」
ある夜、蚊取りブタは煙を出したまま家から出て行きました。
あぜ道を歩いていると、カエルが田んぼから飛び出してきました。
「どこへいくんだい」
「仲間がいるところさ」
「じゃあ、この道をまっすぐだ」
歩いていくと養豚場に着きました。たくさんの豚たちが小屋の中でいびきをかいて眠っていました。
トイレに行きたくて目を覚ました豚が、煙を出して小屋の中をのぞき込んでいるブタを見つけました。
「そんなところで、何やってんだ」
「仲間に入りたいんだ」
豚は、眠っていたとき蚊に刺されて困っていたのですが、そのブタがそばに来てからはぜんぜん刺されません。
「中に入れてやってもいいけど、明日になったらソーセージやハムになっちまうぞ」
「えー、ほんと」
「ほんとさ、おれはたぶん来週だろうな。みんなよりも太っていて肉も柔らかいので上質のヒレかロースだな」
蚊取りブタは震えあがりました。
「そんなのなしだ。すぐに帰ろう」
そういって小屋から逃げて行きました。家にいたら食べられる心配もありません。
翌日からは、いつものように家の中でのんびりと煙を出していました。
(未発表童話です)
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