みんな町を見下ろして、お客さんがデパートへやってくるのを待っていました。
「やれやれ。こんなにお天気のいい日なのに、こんなところでじっとしてるのはもったいないな」
「じゃあ、みんなで空のハイキングへ行こうか」
ある日、西の空からクジラの形をした飛行船がとんできました。みんなその飛行船について行こうと思いました。
友だちのカラスにたのんで、くちばしで紐を切り取ってもらいました。
紐がきれて、体がふわーんと浮き上がり、するすると上空へ登って行きました。
「おおい、待ってくれよ、一緒に連れてって」
飛行船は振り向きながら、
「ああ、いいよ」
アドバルーンの紐をしっかりつかむと、ゆっくり飛んでいきました。
「わあ、いい眺めだ。山の向こうは海だ」
水平線の向こうに、タコやイカやクラゲの形をした雲が浮かんでいました。
飛行船が近づいて行くと、たくさんの天使の彫刻家が集まって、雲の作品を作っていました。
「すごいな、いつもこうやっていろんな雲を作っているんだな」
飛行船にひっぱられたアドバルーンたちは、みんな雲の彫刻を楽しそうに観ていました。
海の上に、客船が走っていて、乗客たちがデッキで昼寝をしていました。
客船の上をのんびり飛んでいると、昼寝していた乗客たちがとび起きて見ています。
「売りつくし大バーゲンセール、三洋デパート」とか、「お安い電化製品も盛りだくさん」、「子供のおもちゃはこのデパートで」、「婦人靴、ハンドバック、雑貨大バーゲン」、「どの商品も30~50パーセントオフ」、いろんな広告が空の上を飛んでいきます。
客船の乗客たちは品物が欲しくなってきたのか、船を降りたら、このデパートへ買い物に行ってみようかなと思ました。
向こうに島が見えました。
サンダーバード島のような、プール付きのりっぱな別荘がいくつも建っていました。プールにはビキニ姿の女性たちが肌を焼いていて、空を飛んでいくアドバルーンの広告を見ていました。
「美しいお肌に最適ボディローション」とか、「痩せる女性になるためのハチミツ入りドリンク」、「小じわが気になる女性のための本当の美容液」、「目に見えないシミまで徹底ケア・薬用クリーム」などの広告を見ながら、みんな商品が欲しくなってきたのか、アドレスをメモしていました。
そのとき島の岩がグラグラと動いて、岩の中からヘリコプターが出てきました。これから海の上の遊覧飛行をするのです。
「やっぱりお金持ちの暮らしはすごいなあ」
アドバルーンたちは眺めながら、いまの格差社会を実感しました。
別の島もいろいろと回って、飛行船は帰ることにしました。
「楽しかった。また連れてってよ」
「いいよ、また行こう」
日本の近海まできたときでした。ものすごいスピードの飛行物体が飛んできました。
「なんだあれは!」
みんな驚いて、向かってくる飛行物体を見ました。
「ミサイルだ」
「テポドンだ」
「ああ、またあの国で大陸間弾道ミサイルの飛行実験やってんのかよ」
「いい加減に、やめたらいいのにな」
「いまの政権が変わって、自由国家になったら、あの国にも行ってみたいと思ってるのになあ」
みんなそんなことを呟きながら、自分たちのデパートに向かって帰って行きました。
(未発表童話です)
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