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K氏の事件は解決した。しかしM氏をはねたひき逃げ犯人はまだ捕まっていなかった。警察は引き続き捜査を続けていた。
そんな時期に再び不可解な事件がたびたび起きるようになった。
それらの事件は、町の銀行、郵便局、信用金庫から多額の現金が盗まれる事件だった。
犯人は証拠も残さずに現金を奪ったのだ。警察はK氏の事件と類似性があるので捜査を続けていた。
あるとき、容疑者の車のことが分かった。車の所有者はO氏という薬剤師でとなり町で暮らしていた。O氏といえば、M氏の訃報の知らせてくれた同級生である。その彼がひき逃げ犯人の容疑者としてマークされているのである。まさかM氏を意図的にはねたのは彼だったのであろうか。
刑事はK氏から聞き込んだ話をまとめて次のような推理をした。
M氏は指先が消えた話をO氏にもしたのではないか。その実験を記録したノートを彼に見せたかもしれない。そうだったらO氏は、その薬を使って犯罪を企んだ。M氏を車ではねた後、K氏の住所を調べ、訃報のハガキを送り、K氏の留守中に忍び込んでノートをコピーした。おそらく薬のことを知っているK氏もあとから殺害する計画を立てていた。O氏はK氏と違い凶悪犯なのだ。
警察は服役中のK氏からさらに詳しく話を聞き、O氏の行方を追っていた。しかし容易に姿を消したO氏を捕らえることは出来なかった。O氏はそれをいいことにしてそれからも数々の犯罪を引き起こした。警察は姿の見えない犯人を見つけることはまったく不可能と思われた。
しかしO氏にも思わぬ不運が起きることがある。ミスを犯したり、事故や病気で死んでしまうことがあるからだ。
それは数年経ったある年の夏に実際に起きた。その頃O氏は大型のクルーズ船に乗船して世界一周の旅に出ていた。彼はたびたび姿を消して船客の貴重品や現金を盗んだ。しかし彼は疑われることはなかった。
O氏は入港したいろんな国の港でも、姿を消して犯罪を繰り返した。ホテルやデパート、宝石店、銀行へ行き、現金、貴金属、宝石を盗んだ。彼に出来ないことは何もなかった。彼は大いに満足して船旅を楽しんだ。
ところがある深夜、大西洋を航行していたときO氏に不運が襲った。彼は船のパーティーで酒を飲み過ぎて酔いを覚まそうとデッキに出たとき、足を滑らせて船の手すりから海の中へ落ちたのだ。それを目撃した船客は誰もいなかった。
パスポートもなく船客名簿にも彼の名前はなかった。だから彼が死んだことは誰も知らない。勿論、死んだあと彼の墓はどこにもない。O氏は誰にも看取られず、ただひとり死の世界へ旅立ったのである。世間を驚かせたこれらの一連の不可解な犯罪は終わった。M氏が開発した身体を消し去る薬はそれ以降使われることはなかった。(完)