「困ったな、なんとか山の湖にいける方法はないものか」
いろいろ考えながら釣り人はいいことを思いつきました。
「そうだ。風船気球を作ろう」
思ったらすぐに行動する人だったので、さっそく材料を集めることにしました。
玩具店へ行って大量の風船を買ってきて、ヘリウムガスも購入しました。
「ゴンドラは竹が軽くていい」
竹藪へいって竹を切り、その竹に色を付けてゴンドラを作りました。
ある日、風船にガスを入れて空へ飛び立ちました。
山に向かって風が吹いていたので、風船気球はスムーズに飛びました。
雪の積もった田畑の上を飛びながらやがて山の斜面までやってきました。
「さあ、頂上まで登ろう」
水の入ったビニール袋を何個か落とすと、風船は軽くなってふわふわ登って行きました。風に流されないように釣り竿を雪の壁に差し込んで登りました。
やがて頂上が見えてきました。
「わあ、すごい、見渡す限り氷の世界だ。さあ、釣ろう」
氷が張った湖に着陸して、さっそく準備をはじめました。
手動ドリルで氷に穴をあけて、糸を垂らしました。
一日釣りをして、バケツ一杯の魚を釣り上げました。
「そろそろ帰ろうかな」
ところがなんだか空模様が怪しいのです。風が強くなって雪が降ってきました。みるまに猛吹雪になりました。
「これじゃ、風船を飛ばせられないな。どうしよう」
仕方がないので今夜は氷の上でキャンプをすることにしました。
ストーブがないので、ほかほかカイロだけで我慢しました。
夜中にお腹が減って目が覚めたので、釣った魚を何匹かコンロで焼いて食べました。
ところが朝、起きると風船がありません。風で飛ばされたのです。
「困ったな。山から降りられない」
なくなった風船を探しに行きました。しばらく行くと山の斜面の木の枝に風船が引っかかっていました。
「あれだ、あんなところまで飛ばされたんだ」
さっそく歩いて行きました。
ところがびっくりしました。風船のそばに熊がいるのです。
木のそばに洞穴が見えました。冬眠中の熊が風船の音に気づいて目が覚めたのです。
「どうしよう。なんとか熊を追い払うことはできないものか」
そのとき熊と目が合いました。魚を入れたバケツを持っていたので熊が近づいてきました。マタギみたいに猟銃を持っていないので逃げるしかありません。
「助けてくれ!」
声を張り上げながら逃げました。風船のことなど頭にありません。熊はだんだん近づいてきました。
山の斜面を転げ落ちながら、逃げ続けました。
そのとき空の上からプロペラの音が聞こえました。ヘリコプターでした。この山の近くでなだれが起きていたので見回りに来ていたのです。
「おーい、助けてくれ」
ヘリコプターはすぐに釣り人を見つけて、ロープを投げてくれました。
すぐにロープにつかまって助けてもらいました。でも釣った魚はぜんぶ熊に取られてしましました。
(オリジナルイラスト)
(未発表童話)