ある日、それは真夏の午後のことでした。
水平線の向こうに大きな雲が現れました。その雲は時間がたつうちにますます大きくなって巨大なタコの形になりました。
「すごい、あんなタコ見たことがない」
灯台は目をパチクリさせて眺めていました。
それからです。凄いことが起きたのは。
タコの足がこちらに向かってグイーンと伸びて来たのです。
「たいへんだ」
伸びて来たタコの足は、灯台の身体に巻き付きました。
「うわあ、海の中へ引き込まれる」
灯台は、柵につかまっておもいっきり踏ん張りました。
でも、タコの足の力は強くてグイグイ引っ張るので、土台がグラグラと動きました。
「困った。台から外れる」
そのうち、海も荒れはじめたのです。
積乱雲の中ではギラギラ雷が光っています。突風も吹いて、波がたちはじめました。
雲の中から吹いてくる冷たい風と一緒に、ほかの足も伸びてきました。
灯台は身体が見えないくらいグルグルに巻かれてしまったのです。
足を伝って、ビリビリと雷の電気も流れてきました。
「こりゃ、だめだ。もう限界だ」
それでも灯台は汗びっしょりかいて頑張っていました。
空を飛んでいた、海鳥たちがそれを眺めていました。
「何やってんだ」
海鳥たちは知っていたのです。灯台がまた夢を見ているのを。
海は静かでなんの変りもなかったからです。
またある日のこと、午後になってから海の上にイカの形をした雲が浮かんで、だんだん大きくなっていきました。
みるまに巨大なイカになりました。
「まただ」
灯台は、心配になりました。イカの足が伸びて来たらどうしよう。
でも、足は伸びてこないで、イカの口から墨が飛んできたのです。
だからたまりません。灯台の身体は真っ黒になってしまいました。
「これじゃ、炭焼き小屋の煙突だ」
目にも墨が入ったので、灯台は痛くて目をパチクリさせました。
夕方になって、灯台はすっかり目が覚めました。
「凄い夢だった。でも、明日はどんな怖い夢を見るのかな」
水平線の向こうへ夕日が沈んでいくのを眺めながら、灯台は心配そうに明かりを灯しました。
(オリジナルイラスト)
(未発表童話です)